北欧ノルウェーに学ぶ、国家プロジェクトとしての観光インフラの整備

国家として観光に注力するノルウェー。観光事業はノルウェーにとって、石油などの資源開発、漁業に続く国内第3の主要産業で重要性は極めて高い。そのため、国内外からの観光客誘致のためのプロモーションが活発だが、注目したいプロジェクトがある。それは、同国が国家プロジェクトとしてすすめている「ナショナル・ツーリスト・ルート」だ。この観光プロジェクトの考え方や進め方は、日本が目指す観光立国、観光インフラの整備を推し進めるうえで参考事例のひとつとなるだろう。

観光ルートの施策といえば、真っ先に挙げられるのがシーニックバイウェイ (Scenic Byway)。「景観のよい脇道・寄り道」を意味するシ―ニックバイウェイは、1980年代にアメリカで提唱され、地域振興のためにドライブルートの視点で景観、自然、文化などの共通項をルート化するものだ。日本でも北海道などで開始されており、各地で検討も盛んとなっている。

「ナショナル・ツーリスト・ルート」も基本的には同じ考え方で、自然を観賞する全長1600キロ、18本のルートを設定。ノルウェーの国土の特徴ともいえるフィヨルドの海岸線や曲がりくねった道が続く山並み、北極圏の険しい道のりなど、様々な自然を観賞できるルートが選定されている。 このプロジェクトで注目したいのは観光インフラの整備に対する考え方だ。ノルウェー最大の観光資源である「自然」の景観を壊すことなく、同国の優れた文化「デザイン」に重きを置いて整備を推進。観光インフラの整備を道路建設や受入れ施設の単なる建設事業に終わらせていない。

画像:ガイランゲルフィヨルドのトロルスティーゲン/スカンジナビア政府観光局提供

観光インフラの開発・企画では、それぞれルートでコンペを実施。その審査基準は環境への配慮、デザイン性とともに「大自然をどれだけ体感できるか」という点も慎重に審査されたという。そして、選定された企画の遂行には建設業者やデザイナーだけでなく、考古学者や生物学者など各分野から専門家が参加。遂行中にも十分な議論を重ね、慎重にすすめられている。この背景には、ノルウェーの美観に対する考え方も大きく影響しているといえるだろう。同国では、美観を守るための法整備されており、自治体の判断で環境の美観に適応しない建築・建築計画が却下できる法律が成立しているのだ。

さらに注目したいのが、このプロジェクト全体が国家プロジェクトであることだ。この点が地域活性化を主な目的としているシ―ニックバイウェイと異なる部分で、同国は俯瞰的な視野で観光インフラ整備に取組んでいる。1990年代のスタート以来、ノルウェー公共道路管理局が中心となり官民が一体で進めており、現在は4ルートの整備が完了。2015年に18ルートすべて整備が完了することを目標に、現在もプロジェクトが進行中だ。

2020年に東京でオリンピック開催が決まった日本。これから、観光インフラの整備が各地・各分野で行われるはずだ。今回の「ナショナル・ツーリスト・ルート」のように全体を俯瞰して推進する姿勢、文化や自然を尊重しつつ自国の強みをさらに強調できるような取り組みになることに期待したい。

完成している4つのルートは以下の通り。

  • ヘルゲラン北部沿岸

フィヨルド、氷河などを眺めながら進むルートで海岸沿いからは多くの島々を眺めることができる。このルートの北部は北極圏に位置し、季節によっては白夜の体験も。

  • 旧ストリーネフィエル道路

かつてショークとストリーンをつなぐ唯一の道として知られたルート。極北特有の野鳥や野生動物が生息し、手つかずの自然環境が残る。

  • ソグンフィエレ

ノルウェーで最長のフィヨルド、ソグネフィヨルデンとグドブランスダーレンを抜けるルート。沿道には、ノルウェー最高峰の山ガルドーピッゲンや最大級の氷河ヨステダールスブリーン。

  • ハルダンゲル

いくつものフィヨルドが入り組んだルートでヴォーリングホッセン(滝)が見られる。沿道には博物館や国立公園もあり、野生のトナカイの群れに遭遇することも。

▼情報提供:スカンジナビア政府観光局 http://www.visitscandinavia.org/ja/Japan/

画像:ソグネフィヨルドのヴェドハウガーネ/スカンジナビア政府観光局画像:ヘルゲラン北部沿岸/スカンジナビア政府観光局

( トラベルボイス編集部:山岡 薫)



みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…