なぜ到着チェックイン時に先払いするホテルが増えてきたのか?

ホテルコンサルタントの堀口洋明です。

今回は宿泊施設の側から見た、宿泊代金の支払のタイミングとそのメリットについてまとめてみましょう。

「宿泊代金をいつ頂いていますか?」と尋ねられた場合、皆さんのホテルや旅館での状況はいかがでしょうか。概ね、以下の答えになるかと思います。

  • チェックインの際に支払う
  • チェックアウトの際に支払う

▼古くはチェックアウト時点の精算が主流だった

古くはチェックアウトの際に支払うホテルや旅館が多い時代がありました。

「スキッパー」と呼ばれる、宿泊代金やレストランなどを利用した代金を踏み倒す詐欺行為を予防するために、チェックイン時点で「デポジット(預り金)」を頂戴し、チェックアウト時点で宿泊代金やレストラン利用分などを精算し、差額を返金するようなスタイルです。

このため、お客様から見るとデポジットの額は「予約した料金よりそんなに多いの!」という金額になることもしばしば。デポジットを頂くことでクレームになることもあり、「顧客からはデポジット頂戴しない」という運用も見られました。

クレームが生じるリスクがあるのにチェックアウト精算が基本となっていた理由は何かというと、はっきりとした理由が語られているわけではないのですが、筆者が想像するに「レストランなどの利用を促進しやすい」という理由ではないかと思っています。

ホテルのレストランやバーを利用すると、チェックアウト時点でまとめて支払うことができる「部屋づけ」が出来ます。「今支払わなくていい」というのは、お客様に気軽に利用していただける理由となります。

バーで、ルームサービスで、プールサイドで・・・、部屋番号を告げれば部屋づけができ、財布を持っていなくても利用ができますから、お客様は気軽に利用していただけるだろう、ということなのです。

▼増えてきたチェックイン時点精算

ところが、日本国内の宿泊特化型ホテルの増加により状況は変わってきたようです。チェックイン時点での支払いを求める施設が増えてきました。

チェックイン時点で支払いを求める理由はこんな感じでしょうか。

  • レストランなどの売上をあまり気にしなくていいから
  • 宿泊特化型ホテルのお客様はチェックインよりチェックアウトのスピードを求めるから

宿泊特化型ホテルの主な顧客であるビジネス利用のお客様は、チェックインよりチェックアウトを急ぐ傾向があります。ほぼルームキーの返却だけでチェックアウトの処理が終わるチェックアウト精算は、お客様の要望に沿う対応だといえるでしょう。

▼本当意味でのチェックイン時点精算

一見、ほとんどの宿泊特化型ホテルで行われているように見える「チェックイン時点精算」ですが、厳密にみると2つのタイプに別れます。その違いは「チェックイン時点で領収書を渡すかどうか」で判断することができます。

チェックイン時点で領収書を渡さない場合は、デポジット=宿泊代金としているケースです。経理的に厳密に言うと、チェックイン時点でお客様から頂くお金は「預り金」で、チェックアウト時点でホテルのものになります。

一方、チェックイン時点で領収書を渡す場合は、チェックイン時点でそのお金がホテルのものになります。

微妙なタイミングの違いにみえますが、これも厳密に言うと経営的な視点からは看過できない違いが生じます。それは「印紙税」です。

チェックイン時点で領収書を渡さないホテル(つまり精算の認識がチェックアウト時点のホテル)では、チェックイン時点で「預かり証」を、チェックアウト時点で「領収書」を発行することになります。そして預かり証にも領収書にも、現金で5万円以上の金額であれば印紙税が必要となります。

※2014年3月31日までは受領金額3万円から収入印紙が必要でしたが、非課税範囲の拡大により、受領金額5万円から印紙が不要となっています。

チェックイン時点で領収書を渡さない場合は、預かり証と領収書の2回分収入印紙を貼る必要が出てくるというわけです。節税を考えるとチェックイン時点で領収書を渡す方がいいということになります。

▼他にもある精算のタイミング

もうひとつ、別の精算のタイミングは「事前精算」、つまり予約時点で精算を行ってしまうというものです。考えてみればコンサートのチケットにしても航空券にしても、予約時点で精算まで行う業態は少なくありません。

一方、ホテル業界での予約時点精算(主にクレジットカードでの精算)は、一部インターネット予約サイトで行われているに留まっており、普及しているとは言いがたい状態です。

予約時点での精算が普及していない理由は以下のものを挙げることができるでしょう。

  • インターネット上と対面でのクレジットカード決済で手数料率が異なる場合がある
  • 自社のインターネット予約システムがクレジットカード決済に対応していない
  • 先陣を切って導入することでお客様から敬遠されるリスクを嫌う

しかしこれらの状況は徐々に改善されつつあります。

インターネット上のカード決済に対応する仕組みを提供する会社が増えてきていることが要因のひとつ。もうひとつの要因は、クレジットカードの精算が「繁忙に伴うキャンセルでの損害の予防」として使えることがホテル・旅館に認識されだしていることです。

お盆やお正月といった需要が高い日には多くのお客様が宿泊を希望されますが、ホテルや旅館には客室数という制限があり、どうしても予約を断らざるを得ません。しかし、せっかく頂戴した予約も、直前でキャンセルされることがあります。

お客様にどうしてもキャンセルせざるを得ない事情があるのであれば仕方ないのですが、インターネット予約の普及により「とりあえず予約する」ことへのハードルが低くなってしまったのか、以前よりキャンセルの比率が高くなっている面も否めないのです。

予約時点で精算をすることで、「とりあえず予約する」ことを予防し、本当に必要な方に宿泊を提供できることになり、お客様側にも宿泊施設側にもメリットが生じるのです。

▼まとめ

宿泊施設から見た精算のタイミングとメリットは概ね以下の通りです。

  • チェックアウト時精算: レストランなど付帯施設の利用が期待できる
  • チェックイン時精算: チェックアウトの迅速化・(多少の)印紙税の節約が期待できる
  • 予約時精算: キャンセルの発生を防ぐ効果が期待できる
堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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