ヤフー傘下となった「一休」の新展開とは? カジュアル旅館から民泊、AI(人工知能)の考えまで聞いてきた

今年2月、ヤフーの完全子会社となった「一休.com」。4期連続の過去最高益を続けるなかでヤフー傘下に入った理由を、「さらなる成長スピードを上げるため」と両社の記者会見で説明したが、高級宿泊・飲食のニッチな分野に特化してきた同社が日本最大級のポータルサイトによるマスの動線を得ることで、事業展開はどのように変化していくのか――?

4月には“キラリと光るこだわりの宿”と称し、カジュアル旅館・リゾート予約「一休.com キラリト」を開始。6月のオンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan 2016」のセッションでは、代表取締役社長の榊淳氏が民泊への参入意向を表明するなど、取扱いの範囲を広げようとしているかに見える。WIT Japanのセッション直後の榊氏に今後の方針を聞いた。

新体制後の変化は?

一休のヤフーグループ入りで、両社は事業を補完しあいながら大きなシナジー効果が見込める。一休は独立したブランドとして従来のビジネスモデルを継続するが、一休が傘下に入ったことでヤフーはデイリーユースの品揃えが多いトラベルと飲食予約のサービスECに一休の高級セグメントを加え、すべての価格帯のラインナップで攻勢をかけていくことができる。

一方、一休は高級宿泊・飲食のニッチな分野に特化していたフィールドに、日本最大のトラフィックを持つヤフーからの流入が可能になる。昨年12月の両社共同記者会見で榊氏は、「高級に特化した尖った形で、スケールも一緒に狙えるユニークなサービスになると期待している」と語っており、その展開が気になるところだ。

とはいえ榊氏によると、ニッチな分野で成長を目指す従来の方針が軸であることは変わらない。それは「一休の宿泊事業は過去4、5年で倍増したが、販売ホテル数はほとんど増やしていない。まだ、(従来のマーケットで)成長する余地がある」と話す。

また、「商品ラインナップの拡充を、今のコアなお客様が望んでいない」とも語る。榊氏によると、高単価の商品の方がクチコミのスコアが圧倒的に高く、その傾向は旅館の場合で1室2名・8万円くらいの商品から顕著に表れる。こうした主要客層のニーズからずれない事業展開を行なう方針だ。

ただし、「飲食予約はスケールも狙いたい」と榊氏。ハイエンドに特化した場合の宿泊と飲食の市場規模は、圧倒的にミドル層の多い日本では全く異なるからだ。例えば、リッツカールトンに宿泊するターゲット顧客に比べ、リッツカールトンでランチやお茶を楽しむ人は、「(宿泊の)何十倍も広がっているイメージ」と見る。

昨年12月の共同記者会見でも、ネットの飲食予約がこれから成長する分野として強い期待が示されるなか、一休を管掌するヤフーショッピングカンパニーの責任者・小澤隆生氏(ヤフー執行役員ショッピングカンパニー長)が、高級レストラン予約に関して「ヤフーとのシナジーで大きく伸ばせる」と強調した。ニッチな分野でスケールも求める新展開は、飲食予約からその形が見え始めるかもしれない。

カジュアル旅館や民泊、新展開の狙い

105A7098従来のマーケットに成長する余地がある――。この考えのもと一休は、どのような成長戦略を描いているのか。

榊氏によると一休が目指しているのは、一人当たりの年間宿泊費が100万円の顧客に100%利用してもらうこと。顧客数よりも利用頻度と一人当たりの利用金額を重視しており、過去最高益を更新した直近4年間も1人当たりの利用回数と金額の伸びが成長のドライバーとなった。4月に開始したカジュアル旅館・リゾート予約「一休.comキラリト」などの新事業は、そこを捕捉するのが狙いだ。

「一休.comキラリト」について榊氏は、5年くらい前からあった構想であり、「株主の要望や売上の嵩上げが目的ではなく、お客様に対するサービス」と説明。一休の顧客も利用シーンに応じて宿泊施設を使い分けており、週末のデートや旅行で利用するのは高級ホテルでも、法事での地方宿泊や業務出張ではビジネスホテルやカジュアルホテルを利用する人もいる。その際にも厳選された施設を利用したいという要望が多く、これに応えた格好だ。

一休では、「食事」「風呂(温泉)」「設え」などすべてが秀でている施設を高級旅館と捉えているが、「食事が美味しい、お湯が良いなど、すべて揃わなくても“キラリ”と光る素晴らしいものを持つ施設がある。これを一休が目利きをして、「一休.comキラリト」の対象とする。運営開始から順調に推移しており、対象施設も2か月で300施設増えたという。

さらに4月には社内に「バケーションレンタルチーム」も発足。榊氏は民泊に高級に絞って参入する意志を表明しており、「“一棟貸し”はホテルや旅館とは別の体験ができる」との認識だ。京都の町家や江の島・鎌倉の旧別荘など高級でエキゾチックな施設を扱っていく。すでに兵庫県篠山市で1泊5万円の古民家など、旅館業法の認可を取得した施設で取り扱いを開始した。今後は200棟くらいの拡充を想定している。

ヤフーとのシナジー効果を発揮するカギ

榊氏は、WIT Japan 2016のセッションのなかで、「今後3年間でもっとも注力したいことは何か。(5択:AI人工知能/ビッグデータ/カスタマーサービス/インバウンド/プライベートアコモデーション)」の質問に対し、「ビッグデータ、AI」と回答。「AI」に関しては「コンシェルジュ」とイメージをあげた。顧客の利用頻度を高めるためには「One to Oneマーケティングが大切」と考えるからだ。

すでに一休.comのサイト上では顧客の嗜好を踏まえた検索結果を表示しており、「AIはその延長」との見方。AI型サービスが自然言語処理の分野でも進化しているなか、従来の「利用日や地域を打ち込む検索はスマートではない」と榊氏。英語では会話ベースのボットサービスが検索からショッピングまでで幅広く利用されており、「サービスを特化するほど利用しやすい」と、一休が導入する優位性も示唆する。現状、日本語でスムーズなサービスを提供するのはまだ難しいと見ているが、一人ひとりにあったサービス提供の手段として注目している。

一方、ビッグデータに関しては昨年の記者会見で、ヤフー代表取締役の宮坂学氏が同社の強みの一つとして「マルチビッグデータを使った見込み客の抽出と送客」をあげ、「(ヤフー内の)一休と同じ潜在顧客にピンポイントでオファーできる」とアピールした。

榊氏にインタビューを行なった2016年6月時点では、トラフィックを含め連携に向けて諸々の“実験”を行なっている最中で、シナジー発揮に向けた具体的な取り組みなどは明かされなかった。しかし、高級に特化したニッチ分野でのスケールを狙うサービスは、ヤフーが有する日本一のECビッグデータと個々の対応が可能なAIといった、テクノロジーの活用で推進していくのは間違いなさそうだ。

取材:トラベルボイス編集部 山岡薫、山田紀子


記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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