長時間フライトほど快適性を実感できる旅客機でメキシコの新リゾート・リビエラマヤへ ―「ボーイング787で飛ぶ旅」 アエロメヒコ航空編

【秋本俊二のエアライン・レポート】

中南米へ唯一の直行便を運航するアエロメヒコ航空の成田/メキシコシティ線は、日本からの最長路線だ。快適な機内環境を実現したボーイング787で親切なクルーたちのサービスを受けながら、超ロングフライトを満喫する。到着後、同社の国内線に乗り継いで目指した先は、カリブ海の隠れ家的リゾート──。リビエラマヤだった。

飛行時間が長いほど快適性を実感

東京からメキシコシティまで地球の表面に沿って1本のヒモを張り、最短ルート(これを「大圏距離」という)を測ると、その距離は1万1,271キロにもなる。日本からの長距離路線はほかにもいくつかあるが、たとえば米国東海岸のニューヨークまでは1万854キロ、南部アトランタが1万1,024キロ、ヨーロッパではイタリアのローマまでが9,908キロ、オセアニアではニュージーランドのオークランドまでが8,806キロ、中東カタールのドーハまでが8,317キロだ。そのいずれも、メキシコシティ線には及ばない。

仕事でヒコーキには乗り慣れているとはいえ、13時間以上のフライトはさすがに苦痛になるときがある。が、アエロメヒコ航空が成田線で運航しているのはボーイング787。気圧や湿度など、地上とほとんど変わらないキャビン環境を実現した787は、ロングフライトであればあるほどその快適さを実感できる。

成田とメキシコシティを結ぶアエロメヒコ航空のボーイング787

成田発15時25分のAM57便。キャビンに入って最初に気づくのが、窓の大きさである。従来のアルミ合金に代わってボディ構造に採用された炭素繊維複合材は、強度が高く、壊れにくい。大きな1枚板でボディを構成できるため、継ぎ目を少なくし、キャビンの窓を従来機の1.3倍にまで拡大することに成功した。

「窓ワクが縦方向に伸びて視界が広がりましたね。これなら通路側のシートからでも外の景色が楽しめます」

機内撮影のために通路側に席をとった同行のカメラマンが、私の隣で満足そうにうなずく。彼は横から手を伸ばして、窓の下のスイッチを押した。すると、透明だった窓ガラスが半透明に変化し、最後は光をシャットアウトして外の景色がうっすら確認できる程度の暗さに──。窓のシェードの代わりにエレクトロクロミズム技術を駆使した電子カーテンを採用し、外から差し込む光量を5段階で調節できるようになっている。

キャビンスペースも広がった。787は同じボーイングの中型機767とよく比較されるが、ボディの太さは767に比べてかなりゆったりサイズ。中型機というより大型機に近い感覚だ。天井も高い。カメラマンは機材の入ったキャリーケースを頭上のラックにしまい込む。天井は同サイズの中型機より約20センチ高くなり、荷物入れには大きめのバッグが縦に3個並べて収納できるよう設計された。

文化の橋渡し役を担う日本人機内通訳

「お食事はいかがいたしますか?」

AM57便には日本人通訳1名が乗務している

離陸して1時間。シートベルト着用サインが消え、安定飛行に移って少しすると、キャビンクルーに声をかけられた。微笑みを浮かべてメニューを手渡してくれたのは、成田線に必ず一人は乗務する日本人通訳の女性だ。機内通訳は一般のキャビンクルーとは異なり、業務のメインは通訳による日本人乗客へのサポートである。けれど実際の仕事は、通訳業務だけにとどまらない。

「たとえばビジネスクラスで和食をお持ちする際に、日本の文化をある程度理解していないとサービスがちぐはぐになってしまう場合があります」と彼女は言う。

「ごはんをお茶わんに高く盛り上がるまでよそってしまったり、盛りつけの仕方もよくわからなかったり。メキシコ人クルーたちは世界中の路線に乗務するため、日本線に乗るのは年に1回とかいう人も少なくありません。なので私たち機内通訳を『これはどうすればいいの?』と、いろいろ頼りにしてくれるんです」

彼女たちは、いわば「文化の橋渡し役」を担っているのだ。食事のあとは新作のハリウッド映画をしばし楽しみ、シートをベッド状にして早めに眠りについた。今回利用したのはアエロメヒコ航空自慢のビジネスクラス「クラセ・プレミエ」で、787の前方キャビンに“2-2-2”の配列で32席が配置されている。

ビジネスクラス「クラセ・プレミエ」のシェル型フルフラットシート

6時間ほどぐっすり眠って目を覚ました。離陸して9時間になるが、疲れはまったく感じない。炭素繊維複合材でを機体に多用した787は、これまでの機種にはない“人に優しい”機内環境を実現している。たとえば、旅客機が一番嫌うのは水分だ。目に見えないところで水滴がたまって結露したりすると、従来の金属製の旅客機ではそれが機体の錆びや腐食につながってしまう。そのため、機内の空気は水分除去装置を通してから送り込み、キャビン内は常にカラカラに渇いた状態にせざるを得なかった。長時間フライトではついのどを痛めてしまう人も少なくない。その点、炭素繊維複合材は耐腐食性にも優れているので、キャビンの湿度を自在にコントロールできるのだ。

シートの背もたれを半分ほど起こして、モニターにフライトマップを呼び出す。AM57便は太平洋上空からカリフォルニアの海岸線にさしかかったあたりで南東に針路を変え、一路メキシコシティを目指していた。

カンクンへの乗り継ぎ便の機窓からポポカテペトル山を望む

カンクン南エリアに出現した新リゾート

メキシコシティからは国内線に乗り継ぎ、約1時間のフライトで目的地に到着した。日常を忘れて身も心も解放したい。そんな思いで今回の旅行先に選んだのは、カンクンから南のカリブ海沿いに広がるリビエラマヤだった。日本からも新婚カップルなどが多く訪れるカンクンと違い、知名度はまだ高くない。ジャングルの中に出現する隠れ家的リゾートである。

ホテルは、食事やサービスがすべて部屋料金に含まれている「オールインクルーシブ」のタイプが主流だ。敷地内に何軒もあるレストランも、特別にオーダーする高級ワインなどのほかは無料。ウエイターへのチップも込みなので、財布を持ち歩く必要がない。心からリッチな気分を味わえる。宿泊客はほとんどが、家族で休暇を楽しむ欧米人だそうだ。

「部屋の予約は1週間とか10日単位で入ります」と、ホテルのマネージャーが言う。「日本からの旅行者はまだまだ少ないですね」

波音をBGMに、ビーチサイドでのんびり日光浴を楽しむ人たち。半日でも一日でも、欧米の人たちはじっとそうしている。真似してみたが、日本人には2時間ももたない。「何もしない贅沢」を享受するのを断念した私たちは、ビーチパラソルの下からそそくさと逃げ出した。

リビエラマヤの繁華街にあるゲートを形どった巨大モニュメント「世界のオールインクルーシブ・リゾート10選」にも選ばれた「グランド・ベラス」

天然の泉「セノーテ」で水底の幻想世界を体験

遊ぼうと思えば、リビエラマヤでは楽しいプランがいくらでも思い浮かぶ。年間平均気温が摂氏26度。カリブの青い海で泳ぐのもいいが、おすすめはユカタン半島特有の地質が生み出した「セノーテ」でのダイビングだ。石灰岩地帯に空いた陥没穴に、長い年月をかけて地下水が溜まる。数千個はあるといわれるその天然の泉がセノーテで、水中メガネとシュノーケルを着けて潜ると目の前に水没した鍾乳洞があらわれた。トロピカルな魚たちが寄り添って泳いでいる。地表の裂け目からはときどき光が差し込み、幻想的な水底の世界にスポットライトを当てる。言葉にできない美しさだ。

ユカタン半島の陥没穴に地下水が溜まってできた天然の泉「グランセノーテ」

午後は、世界遺産のチチェン・イッツァ遺跡へも足を伸ばした。ユカタン半島に残されたマヤ最古の都市遺跡で、広大なジャングルの中に戦士の神殿や天文台などの遺跡群が点在する。最も有名なのが「エル・カスティーヨ(スペイン語で城の意味)」と呼ばれるピラミッドだ。

世界遺産に登録された、チチェン・イッツァのピラミッド

日が落ちてからは、このエリア一番の繁華街「プラヤ・デル・カルメン」へ。元々は静かな漁村だったそうだが、現在はメイン通りの「キンタ・アベニーダ(五番街)」にオシャレな雑貨店やレストランが軒を連ね、一日を通して観光客が絶えない。とくに賑わうのが夜だ。

「アミーゴ、メキシコビールが冷えてますぜ!」

呼び子の声に引かれ、まずはオープンテラスのカフェでダーク系ビールを注文。その後は各国料理のシェフたちが腕をふるうレストランの一軒でメキシコ産ワインとともにディナーを満喫し、締めは大人の雰囲気のバーに立ち寄りテキーラで乾杯する。深夜の零時を回っても、極上の休日はいっこうに終わる気配がなかった。


プラヤ・デル・カルメンの"五番街"は昼も夜も観光客が絶えない海のテーマパーク「シカレ海浜公園」で観られるマヤの歴史をつづるショートルティーヤに好みの食材を乗せて食べるタコスはメキシコの代表料理
秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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