国交省、羽田発着枠配分の回答、傾斜配分の是正をしない方針

国土交通省は、平成25年10月4日付で日本航空(JL)から同省に提出された「是正等申入書兼行政文書開示請求書」に対して、回答を行った。これは、日本航空側が2014年春に増枠される羽田空港の国際線発着枠について見直しと、発着枠が全日空(NH)に傾斜配分された理由と決定にいたる経緯についての回答を求めていたもの。国土交通省は、この回答でJALが求めていた傾斜配分の是正をしない方針を明らかにした。

配分の考え方について国交省は、当初から発表していたとおり、JALの再生において公的支援などがあり、他航空会社間との体力差が生じたことで、競争環境に「不適切な歪み」が生じて点を指摘。この点で健全な競争環境を維持をするための配分である考えを示した。また、羽田の発着枠決定については、国土交通大臣が航空法の趣旨に基づいて「広範な裁量権を有している」との考え方であるとしている。

なお、国交省は回答文書の中で、羽田空港の発着枠の配分については「既存の発着枠を回収等するのではなく、新規の追加的な発着枠の配分において措置を講ずることが、企業の経営活動を極力阻害しない方法であると考えている。」としている。

同時に、日本航空から回答を求められていた質問に対しても、国交省は同文書で回答。詳細は以下のとおり(全文、国交省の発表のまま転載)。


「国土交通省に対する質問」に対する回答

1. 利用者利便の増進について


均等な配分よりも、今回の配分内容が利用者利便の増進に資すると判断したのか。かかる判断があったとすれば、その理由は何か。
  • 今回の配分に当たっては、複数の航空会社が適切な競争基盤に立ち、健全な競争を行っていくことが、良質なサービスの提供、多様な輸送網の形成等を通じた利用者利便の増進、我が国航空業界の発展のために必要であるという航空政策の基本的考え方に立ち、昨年8月に公表した「日本航空の企業再生への対応について」の趣旨に沿って、検討を行った。
  • 日本航空の再生過程において講じられた公的支援等の結果、現状、他の航空会社との間において大きな体力差が生じてきており、このような状況が続けば、我が国航空会社間における健全な競争環境の確保及び利用者利便の増進を実現することが困難になるおそれが生じるとの認識の下、今回の配分の決定に至ったものである。

2. グローバルアライアンス間の競争について
発着枠の配分がグローバルアライアンス間の競争へ与える影響は配分の検討にあたって考慮されたのか。考慮されたとすればどのような影響を与える
と判断したのか。

  • 今回の配分に当たっては、個別の路線・地域におけるアライアンスごとのシェア等も勘案しつつ検討を行った。
  • しかしながら、アライアンスの組成や加盟は航空会社の経営判断に委ねられているものであり、それゆえ今後の航空産業の状況の変化によってその様相も大きく変わりうるものであることに加え、我が国航空業界の大手2社は、いずれも加盟するアライアンスの中の主要な航空会社であることから、これら2社の間の競争環境に与える影響というものを中心に検討すべきものであると考えている。

3. 事後的な抑制的判断について 今般の「配分の考え方」に記載された、新規路線開設に関しては、「同計画(JAL グループ中期経営計画(2012 年度~2016 年度))に明示的に位置付けられたものを除き、抑制的に判断することとしている」との記述内容は、「競争環境が不適切に歪められていないかを確認するため、「JAL グループ中期経営計画(2012 年度~2016 年度)」の期間中、定期的又は必要に応じ、日本航空に対し投資・路線計画について報告を求め、その状況を監視する」(平成 24 年 8 月 10 日付け貴省航空局「日本航空の企業再生への対応について」)とのみ表明していたこれまでの貴省の立場から飛躍したものであるが、現段階でこのような更に抑制的な判断を行うこととした理由は何か。また、今般、事後的に更に抑制的な判断を行うことにより、今後の競争関係に具体的にどのような影響が生じるのかについて検討がなされたのか。検討がなされたとすれば、それはどのような内容であったのか。

  • 国土交通省として、「日本航空の企業再生への対応について」に基づき、「JALグループ中期経営計画」の期間中、日本航空に対する公的支援によって航空会社間の競争環境が不適切に歪められないか等を確認するために路線計画について報告を求め、その状況を監視することとしてきた背景及び考え方については、「今回の配分の考え方について」に述べたとおりである。
  • このうち新規に路線を開設する場合については、我が国航空ネットワークへの貢献度を踏まえつつ、航空会社間の競争環境に与える影響の大きさを勘案して、慎重かつ抑制的に判断する必要があるものとして、これまでも、注意深く監視してきたところである。
  • また、これに加え、「日本航空の企業再生への対応について」においては、利用者利便の維持・向上を図るため、羽田等の混雑空港の発着枠の配分等を通じて、航空会社間の健全な競争環境の確保を図ることとしてきたところである。
  • さらに、羽田空港については、その発着枠の稀少性に鑑み、二国間の航空協定によって発着枠を設定することとしており、その配分に当たっては、国土交通大臣が航空法の趣旨に基づいて広範な裁量権を有しているものである。
  • 今回の配分に当たっては、羽田空港の昼間時間帯における国際線発着枠について、上記のような考え方に沿って検討を進め、我が国の航空ネットワークの維持・発展に与える影響及び航空会社間の競争環境に与える影響がとりわけ大きいと考えられることから、慎重かつ抑制的に判断することとしたものである。 ○なお、羽田空港の発着枠の配分を通じて我が国航空会社間の健全な競争環境の確保を図るに際しては、既存の発着枠を回収等するのではなく、新規の追加的な発着枠の配分において措置を講ずることが、企業の経営活動を極力阻害しない方法であると考えている。

4. 新規路線開設の制限基準について
競争上の観点、及び変動する将来の需給環境への対応の観点から、長期的な路線計画をあらかじめ確定することが困難であるため、JAL グループ中期経
営計画(2012 年度~2016 年度)において新規路線を「明示的に位置付け」ることは事実上不可能であるにもかかわらず、新規路線の開設に関して、「同
計画に明示的に位置づけられたもの」を除き抑制的に判断するとの判断基準を設けた理由はなにか。

  • 国土交通省として、「日本航空の企業再生への対応について」に基づき、「JALグループ中期経営計画」の期間中、日本航空に対する公的支援によって航空会社間の競争環境が不適切に歪められないか等を確認するために路線計画について報告を求め、その状況を監視することとしてきた背景及び考え方については、「今回の配分の考え方について」に述べたとおりである。
  • このうち新規に路線を開設する場合については、我が国航空ネットワークへの貢献度を踏まえつつ、航空会社間の競争環境に与える影響の大きさを勘案して、慎重かつ抑制的に判断する必要があるものとして、これまでも、注意深く監視してきたところである。
  • 今回の配分に当たっては、羽田空港の昼間時間帯における国際線発着枠について、上記のような考え方に沿って検討を進め、我が国の航空ネットワークの維持・発展に与える影響及び航空会社間の競争環境に与える影響がとりわけ大きいと考えられることから、慎重かつ抑制的に判断することとしたものである。
  • なお、新規路線の開設のうち「JALグループ中期経営計画」に明示的に位置づけられたものを除いた趣旨は、同計画は「日本航空の企業再生への対応について」を示した時点ですでに作成・公表されていたものであり、同計画に明示的に位置付けられた新規路線を含めて過去にさかのぼって「日本航空の企業再生への対応について」を適用することは、適切でないと判断したためである。

5. 「競争環境の不適切な歪み」の定義について
今般の「配分の考え方」には、「航空会社間の競争環境が不適切に歪められていないか等を確認する」と記載されているが、「競争環境の不適切な歪み」
とは具体的にどのような状況を意味するのか。
6. 「競争環境の不適切な歪み」の有無と大きさについて
貴省は、「競争環境の不適切な歪み」が現在生じていると考えているのか。考えているとすれば、「競争環境の不適切な歪み」は定量的にどれくらいの
大きさなのか。

  • 今回の配分に当たっては、複数の航空会社が適切な競争基盤に立ち、健全な競争を行っていくことが、良質なサービスの提供、多様な輸送網の形成等を通じた利用者利便の増進、我が国航空業界の発展のために必要であるという航空政策の基本的考え方に立ち、昨年8月に公表した「日本航空の企業再生への対応について」の趣旨に沿って、検討を行った。なお、日本航空の再生についても、このような考え方に立って進められてきたものであると認識している。
  • 日本航空の再生に当たっては、事業規模の縮小、人員削減等の再生に向けたコスト削減のほか、企業再生支援機構による 3,500 億円の出資、債権者による債権放棄(5,215 億円)、既存株式の 100%減資、さらには企業再生支援機構によるつなぎ融資(800 億円)、日本政策投資銀行によるつなぎ融資(2,800億円)の供与などが行われた。この結果、財産評定による減価償却費低減、債権放棄による金利負担軽減、繰越欠損金制度による法人税等の負担減などによって、平成 23 年度決算では合計約 860 億円の利益改善効果があったところだが、このような利益改善効果は当面続くものと見込まれている。このうち、繰越欠損金制度による法人税等の負担減については、今年度から、会社更生法手続きにより発生した約 9,200 億円の欠損金を繰越控除することが可能となり、その負担軽減効果は、当方の試算によれば今後 2018 年度までに総額 1,940 億円程度に上る見込みである。
  • このような日本航空の再生過程において講じられた公的支援等の結果、現状、他の航空会社との間において大きな体力差が生じてきており、これによって、我が国航空会社間における競争環境に不適切な歪みが生じつつあるものと認識している。このような状況が続き、公的支援等によってもたらされた体力差を背景として、新規投資、路線開設、運賃行動等により市場支配力の拡大等が行われれば、結果として、我が国航空会社間における健全な競争環境の確保及び利用者利便の増進を実現することが困難となるおそれが生じるものと考えている。
  • なお、日本航空の再生過程において講じられた支援措置等については、その検証等を行うため、交通政策審議会航空分科会の下に「公的支援に関する競争政策検討小委員会」が設けられ、本年5月に報告がまとめられているが、これによれば、「日本航空の再生に対する公的支援の必要性は認められるものの、我が国の航空産業が2社による実質的な寡占状態にあるという特殊事情を勘案した場合、支援措置を実施するに当たって、競合他社との間の健全な競争環境の確保への配慮に欠けていたことは否定できない」と評価されており、国土交通省としても、このような考え方に沿った認識を持つ必要があると考えている。

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