スカイマークが新たなステージへ、A330-300初公開で語られたクリアな戦略

【秋本俊二のエアライン・レポート】2104年3月に就航するエアバスA330-300のプレミアムシート&ミニの新制服を初披露

マスコミ嫌い、というイメージが強かった。私自身、新著を書くための個別インタビューの申し込みを丁重に断られた経緯が、過去にある。報道をあまり信じていないのか? あるいはシャイで単に口ベタなのか? そんなスカイマークの社長・西久保愼一氏(58)と、日本から遠く離れた南仏トゥールーズで会って話すことができた。それも、たっぷりと時間をかけて。

初公開されたスカイマークのエアバスA330-300初号機。機体のロゴも一新された。

トゥールーズにあるエアバス本社で現地時間の12月11日、スカイマークが2014年3月から羽田/福岡などの国内幹線に導入するA330-300の1号機が日本からの報道陣に初公開された。その席に顔を見せたのが、同社を率いる西久保氏である。実際に会ってみた氏は、私の勝手な潜在イメージとは違ってじつに人懐こく、かつ饒舌な語り手だった。一言一言に、氏独特のきわめてクリアな戦略がにじみ出る。

たとえば運航コストを削減するため、運航する機材(航空機)を1機種に絞る──それがLCC(ローコストキャリア)の常道である。スカイマークもかつて使っていた中型機ボーイング767を手放して2009年9月以降は小型機737-800だけで機材を統一。オペレーションをシンプルにすることで、収益力を改善してきた。なのになぜ今回、再び中型機の導入を? そんな記者からの質問を、氏は「うちは航空ベンチャーではあっても、LCCではないからね」と一蹴する。

マスコミ嫌いのイメージが強かった西久保氏だが、実際に会ってみると人懐こく、饒舌な語り手だった。

「われわれは一つのストーリーを進めているだけ。最初の目標だった“低運賃の提供”を維持できる体制が整えば、次は当然、クオリティの改善が目標になります。回転寿司でもカラオケボックスでもそうですが、どんな業界でもまずは安いものに利用者が殺到するでしょう。それが過当競争になると、次の段階ではクオリティを改善したところだけが生き残っていく」

新たに導入するA330-300は、氏の言う「クオリティ改善」の象徴だ。通常のエコノミーシートなら440席程度を設置できるキャビンを、スカイマークは豪華なプレミアムシートのみのわずか271席でレイアウト。「グリーンシート」と名づけたこのシートは、従来のエコノミーシートに比べてシートピッチ(座席の前後間隔)を7インチ(約17.8センチ)広げた。「自身で座ってみてください」と西久保氏にすすめられ、試してみる。なるほど、これまでのエコノミーシートとはまったくの別物だ。横幅も約5センチ拡大し、隣席との間のひじ掛けも両側から使える幅がある。シート素材は高級なファブリック製で、腰の落ち着き感も悪くない。

「グリーンシート」と名づけたプレミアムシート。広いキャビンをわずか271席でレイアウトしている。

「ノーマルポジションのときの背もたれの角度も3度ほど深くしてあるので、離着陸時もゆったりした姿勢でくつろいでいただけます。そのあたりにもこだわりました」

シートピッチもシート幅も従来のエコノミー席に比べてかなりゆったり。

プレミアムシートを搭載したA330-300は、2015年までに全10機を導入予定だ。2014年3月25日から、まずは羽田/福岡線に、その後は那覇線や新千歳線に順次投入していく。しかも運賃は、従来の料金帯とほぼ変わらないレベルで。「生き残りをかけた勝負ですよ」と西久保氏は言うが、この快適シートを本当に従来どおりの低価格で提供できるなら、勝負は見えている気が私にはする。他社はおそらく、ひとたまりもない。A330-300の就航に合わせ、これまでポロシャツだった客室乗務員の制服も一新。トゥールーズでは、ミニのワンピースの新ユニフォームも披露された。

福岡、那覇、新千歳の各線で就航後半年間、新機材のキャンペーン用としてこのユニフォームが着用される。

グリーンシートと、ちょっぴりセクシーな青と黄色の新ユニフォーム──演出された二つのサプライズに、集まった記者たちからどよめきの声が漏れる。「制服はあくまでキャンペーン用で、福岡線、那覇線、新千歳線ともに着用は就航後半年間の限定です」と西久保氏。私が「せっかく作ったのに半年ではもったいないのでは?」と水を向けると、氏は「そのへんはまあ、様子を見ながらね」と笑みを浮かべた。

機体とともに披露された客室乗務員の新しいユニフォーム。コーポレートカラーの青と黄色でデザインされたミニのワンピースだ。

作家/航空ジャーナリスト 秋本俊二

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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