グーグル・グラス活用の観光アプリで見える世界は?国内初の実証実験をレポート

山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会と総務省中国総合通信局は2014年5月26日、Google Glass(グーグル・グラス)の実証実験を、広島平和記念公園で行なった。屋外でAR(拡張現実)技術とナビゲーションをグーグル・グラスで体験する実証実験は国内初となる。実際に体験した人のコメントは非常にリアルだ。今回は、その様子をレポートする。

連携するAR観光アプリは、実証実験に協力するソフトバンクモバイルの位置情報を活用した地域情報・観光情報配信「ふらっと案内」を利用。グーグル・グラス用に試作し、「ふらっと案内 for Google Glass」と名付けた。そして、実証試験局として電波使用を免許された3台のグーグル・グラスのうち2台を用い、同協議会のメンバーが実際に着用して観光情報提供ツールとしての見え方、使用感を確認した。



▼操作は3つのタッチのみ、軽く装着後の違和感なし

グーグル・グラス。眼鏡型だがレンズはない。今回は開発者用のものを使用。※クリックで拡大

グーグル・グラスは、右側のテンプル(つる)の下が太くなっている。ここがPC部分でタッチパネルでもある。操作は音声コマンドも使用できるが、今回はタッチパネルの手動のみ。

「スワイプ(横になでる)=スクロール」「タップ(軽くポンとたたく)=クリック」、「スワイプダウン(上から下になでる)=ひとつ前に戻る」の3つの操作で、実際に使用した協議会メンバーは「単純な操作なので、シニアでも子供でも扱いやすい」と高く評価した。


ソフトバンクモバイルのスタッフが操作を説明。プロジェクタにはグーグル・グラス越しの視界を表示。会場の様子とともに屋外の観光スポットの画像が映っている※クリックで拡大

実際にグーグル・グラスを装着してみると、とても軽い。グラスといってもレンズはなく、被験者から違和感を訴える声も聞かれない。

説明会場での試用では、グーグル・グラスをプロジェクタやスマートフォンに連結し、被験者が見ている景色と情報を公開した。グーグル・グラスをかけている人の視線の方向にある観光スポットを位置情報で検出し、目の前の景色に加えてアプリ「ふらっと案内」のデータや画像が入り込む。

見る向きを変えたり、データをスワイプしながら興味をもったスポットをロックオンしてタップする。すると、そのスポットに関するコマンドが表示され、その中の一つ「ゲット・ディレクション」を選ぶと、該当地までの道案内が表示される。



▼スマホとの違いは?視線は少し上向き気味

視界に情報が映り込む「楽しさ」、一方で安全性への指摘も

グーグル・グラス越しに見える風景(プロジェクタに映された画像)。会場の様子と建物の先にあるスポットの画像が映っている※クリックで拡大

被験者は、ソフトバンクモバイルのスタッフのサポートを受けながら、映り込む情報の操作をさくさくと続ける。その視線は少し上向き気味。視界を遮ることのないよう、情報や画像はやや右側の上方に映し出されるようになっているからだ。

「前の景色も見えるし、アプリの画面も見られる。視界は明るく、情報も見やすい」と被験者。ただし、「ずっと(上方の)画面を見ていると少し疲れる」ともいう。

スマートフォンとの決定的な違いは何かと聞くと、やはり「視界に情報が映り込むこと」。想定されていることでも、「端末を持たずに済み、下を向いてスマートフォンを見てから実風景を確認するよりも分かりやすく、スマホを操作しながら歩くよりも安全だと思う」とその利便性を実感した上で発せられる感想は、リアル感が違う。


使用感を確かめる脇谷直子・会長代理。目線の向きでデータが見える位置を想像してほしい。手前のスマホ画面はグーグル・グーグルグラス内に映るアプリのデータ ※クリックで拡大

雨の屋外に出て、目的地に設定した「原爆の子の像」まで歩いた被験者は、「とても楽しく観光地に来ることができた。指一本で簡単に誰でも操作できるやさしい端末」との感想を語った。ただし、「(アプリの情報に集中して)上ばかり見ていると足元が躓く可能性もある」との注意も加えた。

楽しさ、便利さ、操作の簡単さを評価する一方で、使用中の安全性を向上させる必要を指摘する声も多かった。「改善すべき点は多いが、新しい技術がここまで使えるようになった。実用化に向けた最初の一歩であり、今後の可能性を期待したい」(山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会会長代理・脇谷直子氏)と、新技術を実際に体感したこと自体を第1回の実証実験の成果だとする。


▼実用化はいつ? 実用に向けて初期段階

いつでも始められる準備をすすめるソフトバンクモバイル

説明会場となった広島平和記念公園のレストハウスから屋外へ。原爆の子の像に標準をあわせ、スタート。 ※クリックで拡大

では、グーグル・グラスを活用したAR観光アプリの実用化はいつになるのか。ソフトバンクモバイル技術戦略室の古谷智彦氏にその頃合い聞いたところ、ソフトバンクモバイルとしては一般に普及されたときにすぐに使用できるよう、アプリの開発を進めている。ただし、現在はグーグル・グラス自体が実証実験用に3台の使用が免許されたばかりの状況で一般販売もされておらず、実用化のタイミングは何とも言えないという。

広島修道大学経済科学部教授で、行政のICT活用が専門という前出の脇谷氏にも同じ質問をしたが、今回の実証実験は既存のアプリをグーグル・グラスでなぞらえるようにしただけで、実用に向けてはまだ初期の段階と解説。さらに、「グーグル・グラスなどウェアラブル端末が世の中に受け入れられるかどうかも見えていない」と消極的な可能性があることも指摘する。


原爆の子の像に到着

このような状況で観光事業者は何を準備すべきなのか。脇谷氏は、「一つ言えることは、新しい技術が開発されても、その中に入れるコンテンツが重要」だと断言。良いコンテンツを多く揃えることが必要だが、その形式はできるだけ短く、わかりやすい情報にすることがポイントだという。

「これからは、その場で調べて興味を持ったらピンポイントに深く知りたいという人が増えてくる。すべての情報が旅行者にとって欲しいものではなくなっている」というのがその理由。客層の年代、国籍などにあわせて短くセットされた情報コンテンツを揃えておけば、どの端末やシステムにもあてはめやすいと話す。


▼中国地方をスマート観光のショーケースに

相原玲二・会長もグーグル・グラスを体験。簡易な操作性に高評価

今回の実証実験は、山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会の「ICTとアイディアを活用し、中国地方の観光を活性化する」目的として開催されたもの。外国人やシニアにやさしく、若者を引き付ける観光インフラを「スマート観光インフラ」と位置づけ、その導入に取り組んでいる。

ICTの分野ではウェアラブルPC、特に眼鏡型端末への関心が高まり、観光情報インフラではスマートフォンの活用、中でもARと多言語対応アプリが注目されていることから、この2つを組み合わせた実証実験をソフトバンクモバイルが提案し、広島市の協力で行なったという。

山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会会長の相原玲二氏(広島大学教授、情報メディア教育研究センター長)は冒頭の挨拶で、「ICTを活用した技術で観光を活性化する取り組みが、この地から広まれば幸い。ICTが本当に世の中の役に立つことを実証するという点でも意味がある」と今回の実験の意義を強調。


齊藤一雅・総務省中国総合通信局局長

また、総務省中国総合通信局局長の齊藤一雅氏は「広島で本邦初の実証実験をし、情報発信をすることに意義がある。今後も各種の実証実験を予定しており、中国地方をスマート観光のショーケースとして地域を盛り上げていく。未来の観光スタイルを先取りした、貴重な機会となる」と期待を語った。

なお、6月中旬には出雲大社と石見銀山で、ARを活用した「スマート観光体験バスツアー」の実証実験も計画。3つの世界遺産を有する同地域では、景観を損ねることなく来訪者に案内をするツールとしてICTの活用を目指している。このほか、ARと多言語に対応した観光コンテンツのリッチ化支援、WiFi整備支援等にも取り組んでいる。

▼参考:【動画】Google Glass How-to: Getting Started

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取材・山田紀子(旅行業界記者・観光ITレポーター)



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