グリー(GREE)がホテル予約事業に参入した理由、スマホユーザーを知り尽くした戦略を聞いた

携帯電話/スマートフォン向けゲームアプリで急成長を遂げているグリー(GREE)は、ホテルの当日予約に特化したスマートフォン向け専用アプリ「Tonight」の提供を始めた。グリーにとって旅行は全くの新規事業。「インターネットを通じて、世界をより良くする」というコーポレート・ミッションを掲げるグリーが、宿泊予約事業に参入した背景はどこにあるのか。また、異業種が見据える将来像も気になるところ。Tonightを運営する同社広告・投資事業統括本部の井上裕史氏(写真右)に話を聞いた。



▼当日予約に特化、ユーザー、施設双方にとってシンプルな仕組みに

年収800万円以上の層をターゲットに、まずは100万ダウンロード目指す


WS000130「Tonight」の最大の特長は、当日予約に特化し、ユーザーはラストミニッツで泊まれるホテルを探すことができる一方、ホテル側は当日在庫を自由に価格設定して販売することができる点だ。さまざまな宿泊プランを掲載する既存の宿泊予約サイトにはない機動性と即時性を備えたサービスを提供することで差別化を図っている。

「海外では、スマホを利用したラストミニッツ予約が普及してきている。消費のライフサイクルがどんどん短くなっているなかで、日本でもこれから期待できるマーケットだろう」と井上氏は話す。

提供媒体をアプリに限定したのにも狙いがある。「ウェブサイトだと検索する必要があるので、目的も広めから入る。一方、アプリは、その目的を持った人がダウンロードする」。「Tonight」は、スマホの特性を生かしながら、「当日予約」という明確な目的を持ったユーザーへのアプローチをマッチングさせた。

「Tonight」は使いやすさにもこだわった。ユーザーは、あらかじめ登録されたクレジットカード情報を使うことで、アプリを起動してから予約・決済まで最短4ステップで完了することが可能。シングル、ツインなどタイプを選択する仕組みはなく、とにかく当日の部屋を確保することが優先される。

一方、ホテル側の手間も非常に少なく、専用画面に当日販売したい部屋数と価格を入力するだけ。従来の繁雑な在庫コントロールは必要なく、「誰でも操作できる」(井上氏)仕組みにした。PC、タブレット、スマホでも入力が可能。掲載料は無料で、施設側とは契約書を交わす必要があるが、特に縛りは設けず、入力最低在庫などもない。忙しいなかでも、フロントが簡単に入力できるように工夫した。「販売日の前に入力することも可能だが、基本的には当日空いている部屋を売るツールとして考えて欲しい」と井上氏は話し、Tonightの独自性をアピールする。

サービス開始時点では、東京都内の約130施設を掲載。今後は順次エリアを全国に拡大し、掲載数も年内には独自在庫600施設を目指す。Tonightのダウンロード数も1年以内に100万という目標を掲げている。

初期ターゲットは、ホテル宿泊に経済的にも消費行動的にも抵抗のない30代以上。所得層は年収800万円以上を想定する。たとえば、『今日は仕事で遅くなったから、ホテルに泊まろう』というニーズもイメージしている。「サービスのブランディングにもなるので、掲載する部屋・施設のクオリティーは大切にしていきたい」と井上氏。総合的な宿泊サービスというよりも、より特化したマーケットでビジネスを展開していく考えだ。


▼ゲーム会社のグリーがホテル予約事業に参画した理由

旅行を次の成長ドライバーに、ゲームでのノウハウを有効活用

グリーの企業サイト

IT企業として成長を続けるグリーでは、半年に一度「新規事業検討会議」を開いている。第1回は昨年暮れに実施。役員がいくつかのアイデアを提案し、事業化可能な案を絞り込んだ。そのなかで残ったひとつが「Tonight」のアイデア。その後、年が明けて2月には事業化に向けて走りだし、6月にはリリースした。このほか、今夏にかけて3つほどの新規事業が開始される予定だという。

こうした取り組みの背景には、主力のゲーム事業が成長期から成熟期に入っているため、次の成長ドライバーを探す必要があるという社内事情があるが、そのスピード感と機動力には目を見張るものがある。すでに第2回も実施。全社員が役員に対して約150の案を出した。そのなかから約20案が選ばれ、役員が検討会議のなかで提案者をサポートする形で検討、最終的に8案に絞った。そのなかから、今年の秋には2つか3つの新規事業がリリースされる見込みだ。

すべて、スマホの特性を考え、これまでゲーム事業で積み重ねたノウハウを生かせるものばかり。井上氏は「Tonight」についても、「UI/UX(User Interface User Experience)のところが一番生かされていると思う。ゲーム事業では、ユーザーのコンバージョンレートあるいは購入の過程でユーザーがどの時点で離脱していくかを注意深く見ている。それが、Tonightにも役立っている」と話す。その日にホテルに泊まりたいと思った時、PCを立ち上げて、ログインして、部屋を選び、予約をするという過程には時間がかかるが、アプリにすることで予約手続きをシンプルにしたとともに、完了までの時間を大幅に短縮することにも成功した。


▼訪日市場を狙って「Tonight」英語版も、国内では宿泊以外の旅行事業も視野


IMG_5956井上氏は、Tonightの将来像について、「まずは国内の宿泊で満足してもらえるサービスを提供していくことを優先していく」と強調。そのうえで、旅行の周辺は広いとの考えから、宿泊に加えて、各種チケットを組み合わせたヨコ展開も視野に入れていることを明かす。その場合も、独自サービスとしてスマホを利用した当日予約に限って攻めていく考えだ。

国内宿泊での基盤固めに平行して、今後も高い成長が見込まれる訪日外国人旅行市場を狙って、今年8月初頭にはTonightの英語版もリリースする予定。まず英語から始め、順次多言語化を図っていく。掲載施設については、クオリティーホテルのほかに上位価格のサービスアパートメントなども加えていく意向で、需要が見込まれるゲストハウスについては、今のところユーザーの動向次第との考えだ。

グリーは先日、同じくスマホでのホテル直前予約を手がける香港のホテル・クイックリーと資本提携した。ノウハウの共有など協力関係を深め、訪日市場でのビジネス拡大、そして将来的には世界展開を目論む。「(いずれの分野でも)中国や東南アジアの潜在ニーズは大きい」と井上氏。スマホユーザーの特性を知り尽くしたグリーは、既存の旅行会社にはない着眼点でTonightの事業を拡大していく。

 

  • 取材、文/トラベル・ジャーナリスト 山田友樹
  • 取材、編集/トラベルボイス編集部

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