ANAが世界初の定期便として投入する「ボーイング787-9」、これまでと何が変わった?

秋本俊二のエアライン・レポート

日米の子供たちの“夢”を乗せて

世界初のB787‐9の初フライト

*右写真は公開されたB787‐9機内風景。LED照明が目に優しい雰囲気(最下部にフォトギャラリーあり)。

すべての乗客の搭乗が終わって、ドアがクローズされた。静かに地上走行を開始したANAの最新鋭機ボーイング787-9は、使用する羽田空港のA滑走路の先端で管制からの離陸許可を待つ。

8月4日、午後1時40分──。 ANAは2014年7月29日に到着したばかりのこの787-9初号機を、いよいよ明日8月7日より羽田から福岡、伊丹、松山への国内3路線に投入する。787-9はニュージーランド航空がANAよりも早く7月上旬に1号機を受領しているが、同型機を定期便として運航するのはANAが世界初だ。それに先駆けて8月4日、ANAは日米の小学生を招待して羽田から富士山上空を通過し関西方面をぐるっと一回りして帰ってくる旅客フライト実施。「次世代を担う子供たちを次世代の航空機に案内する」というコンセプトで実現したイベントだった。

記念フライトの式典でスピーチするキャロライン・ケネディ米駐日大使

背中に伝わってきた強烈な加速パワーで、離陸滑走が始まったことを知る。午後1時43分。身体に感じていた振動がふっと途絶え、車輪の回転音が消滅した。機体のノーズがぐいっと持ち上がり、787-9は上昇を続けていく。日米の約80人の子どもたちが乗っている後方キャビンから歓声が上がり、同乗している関係者や報道陣の席からも拍手が巻き起こった。787-9が世界で初めて乗客を乗せて羽ばたいた瞬間である。

▼大型化を実現しつつ航続距離性能を維持した787‐8改良型

“ドリームライナー”の3つのモデルを簡単解説

787-9は標準型の787-8のボディを6.1メートル延長した改良モデルだ

ここで、ボーイング787-9について簡単に解説しておこう。 787-9は、ANAがローンチカスタマー(下記に解説)として2011年に世界で初めて導入した“ドリームライナー”787-8の改良型だ。全長は787-8の56.7メートルに対し、ボディを6.1メートル延ばして62.8メートルに延長。ANAの国内線仕様機で比較すると、設置できる座席数も787-8の335席から787-9では395席(プレミアムクラス18席、普通席377席)に拡大した。大型化を実現しながら、787-8と同程度の航続距離性能を維持している。

787は、開発当初から3つのモデルが想定されていた。標準タイプの787-8、胴体延長型の787-9に続くもう一つは、短・中距離路線に特化した787-3だ。787-8と同じ長さのボディを使用するが、設置する座席数を約3割増やして、航続距離を3分の1程度まで短く設定。しかしこの3つめのモデルについては、早くから「あまり大きな市場は見込めないのでは?」といった疑問の声がボーイング内部でも上がっていた。

ANAプレスリリースより

同程度の航続距離性能をもつ機種が投入される路線は従来、150席クラスの単通路ナローボディ機で運航するエアラインが多く、旅客ニーズがそれより高ければ運航便数を増やして対応する──というのが一般的だからだ。 ただし日本は例外で、大きな空港には発着枠を増やす余裕がない。運航便数を増やすのが困難なため、一度に多くの乗客を運ぶ必要がある。787-3はこうした事情をかかえるエアライン向けのモデルで、実際に787-3をオーダーしたのは日本のANAとJALの2社だけだったが、その後は両社ともオーダーを787-8に変更。他国からの発注も皆無だったことから、787-3の開発計画は中座した形になってしまっている。

ハンガー前に並ぶ787-9(手前)と787-8は、見た目にも長さの違いが明らか

その一方で新たな開発計画として浮上したのが、胴体延長型の787-9のボディをさらに5.5メートル拡大した787-10というモデルだ。設置できる座席数は、787-8よりも約30%、787-9に比べても15%ほど多い。航続距離性能は787-8や787-9と同程度を想定している。この仕様では現在の主力商品である777-300ERと大差がなくなり、マーケットを取り合う形になりかねないことから実際には開発されない可能性が高いと見られていたが、ボーイングは2013年6月のパリ航空ショーで正式ローンチを発表。今年7月末には、787-10の製造は米サウスカロライナ州ノースチャールストンの工場で進めることも発表された。

▼2014年度中には国際線長距離仕様のB787‐9型機も受領

787という機種の快適性を示すコメントが多数

子どもたちとCAのふれあいも。当日は、今冬からお目見えする新制服を着用。

さて、日米の子供たちを乗せて富士山上空から関西方面へ向かった787-9は、約1時間30分に遊覧フライトを終えて午後3時時16分に羽田空港のB滑走路に着陸。「いままで乗った飛行機に比べて揺れが少ない気がする」「エンジンの音がとても静か」「窓が大きいので外の景色を見やすい」「機内の空気が乾燥していないから快適」といった声が、招待客や、初めて乗ったというマスコミ関係者からも多く聞かれた。いずれも787という機種の特徴をあらわす感想である。

ANAは787の世界最大の発注エアラインであり、787-8を36機(うち28機は受領済み)と797-9を44機──計80機をオーダーしている。今年度末には国際線長距離仕様の787-9の受領も始まる予定だ。797-9の国際線仕様機は、787-8国際線仕様機の169席より46席多い215席になると発表。国内外の空での787による快適な旅が、今後はより身近になりそうだ。

  • 作家/航空ジャーナリスト 秋本俊二

《ひとくちコラム》

 ローンチカスタマーって、なに?

航空機メーカーが新機種の開発・製造に踏み切るためには、それを導入するエアラインから「正式な購入計画がある」という確証を得なければならない。航空機の開発・製造には膨大な資金がかかるため、「つくったけれど売れなかった」というのでは、メーカーの企業経営は成り立たないのだ。そこで十分な規模(機数)の発注を事前に行い、その新機種生産計画を立ち上げる(ローンチする)ための後ろ盾となる顧客のことを「ローンチカスタマー」と呼ぶ。ちなみに787-8のローンチカスタマーはANAだが、787-9のローンチカスタマーは7月9日に1号機を受領したニュージーランド航空だった。

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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