JTB総研、旅行マーケットセミナーを開催、「若年層に本気の取り組みを、海外旅行は団塊世代がピークアウト」

JTB総合研究所は2014年9月9日、第1回旅行マーケットセミナーを開催した。財団法人日本交通公社(JTBF)の旅行動向シンポジウムを引き継いだもので、第1部では主席研究員の黒須宏志氏が各種データを用いながら、旅行マーケットの動向と今後の見通しを4つのトピックに分けて発表。マーケットの構造変化を指摘し、若年層を将来の市場と位置付けたマーケティング戦略とともに、シニア市場戦略の見直しを促した。



▼大不振の海外旅行は牽引役に変化

主任研究員の黒須宏志氏

黒須氏が発表した4つのトピックのうち、最も大きな変化は「海外旅行市場」にあるといえるだろう。現在の海外旅行の不振について、最大の要素である「中国・韓国方面の減少」、そして「円安」だけでは説明しきれない「経験したことのないマーケット変化が起こっている」という。

それは「海外旅行市場を支えてきた、旅行経験値の高いコアな層が抜け落ちた」こと。JTBレポート市場調査の「海外旅行経験回数別にみた旅行者数シェアの推移」を見ると、渡航経験10回以上の人の割合は6割を超えるまでに拡大していたが、2013年に縮小した。その比率は数ポイントだが、黒須氏は「2013年は出国者数が12年比で大幅に減少しており、実数換算ではもっと大きく減っている」と述べ、「高経験値層は外部環境の影響が少ないといわれていたが、13年は全く逆のことが起こった」と強調する。

さらに、60歳以上の出国率が年齢が高くなるほど低下するデータを示し、「(60代後半になった)最も世代人口の多い狭義の団塊世代(1947年~49年に出生)の海外旅行需要はすでにピークを過ぎた」と指摘。これが2014年以降のシニア停滞の一因となっている可能性があるという。ただし、マクロで市場を分析するJTBレポート調査では高額消費や長期の旅行は除外して集計するため、「この需要は65歳以上でも伸びる可能性がある」とも述べた。

もうひとつシニアで増えているのが「ひとり旅」だ。これは「旅行市場の質的変化」のトピックで触れたものだが、特にシニア層ではこの1、2年で夫婦での旅行が減少し、ひとり旅が動き出した。「世代的変化が影響している」という。こうしたことから60代以上のシニア層は今後も拡大するものの、シニアの顔ぶれに変化が起こっているとし、自社のターゲットセグメントを総点検する時期にあると語った。

なお、今後の海外旅行市場についてはミドル層(勤労世代)のビジネス需要がリードすると展望。次いでミドル層の繁忙期の観光需要も底堅いと推察した。


▼若いほど過去最高出国率をクリア

海外経験のチャンス「自己投資」がポイントに

シニアの高頻度層が減少した一方で、2013年の海外旅行市場で伸びたのは、渡航経験1~5回の低頻度層だ。20代男女が抜きんでて多く、20代女性は70万人強、20代男性は60万人強となり、2012年よりもそれぞれ10万人以上増加。「観光性の需要は若年層だけが伸びていた」という。

「若年層の増加傾向」はこの数年で認識されるところだが、黒須氏は「若年層の取り込みをもっと本気でやる必要がある。これが今日、申し上げたかったこと」とその重要性を強調した。

その理由の一つが、「若い世代は以前よりも早期に海外に行くチャンスが高まっている」こと。法務省の出入国管理統計と総務省の人口統計から算出した若年層の出国率は2011年以降、15歳~19歳、20歳~24歳の若い世代ほど過去最高比率を上回っているという。

ここで黒須氏は、住友生命相互会社が今夏に実施した「自分への投資」アンケートの調査結果を紹介。「自己投資の対象」、「支出額で見たトップ」、「支出を増やしたい」の各項目で旅行が1位にランクインしており、「旅行が単なる消費ではなくなってきた。旅行の幅広い可能性に気付いた筆頭が若年層」だと説明する。

さらに、グローバル人材が求められる風潮など若年層を旅行に向かせる社会的な変化の追い風もあるとして若年層の潜在性をアピールし、この市場への投資強化を促した。



▼消費増税後の旅行消費は?

このほか黒須氏があげたトピックは、「足元の景況感と今後の旅行市場の推移」と「市場の質的変化」について。

旅行マーケットはこの数年、名目のGDPと雇用者報酬の上昇と比例して拡大してきたが、2013年半ば以降はアベノミクス効果で就業者数は伸びつつも、物価上昇によって実質の賃金は低下しているという、相反する要素が働いているという。

この環境下で旅行支出は2013年のプラス推移から、消費増税後の2014年4月、5月はマイナスに転化(総務省「家計消費状況調査」)。6月には国内パック旅行費を除いてプラスに戻ったものの、最近の報道では景気回復を懸念する論調が広がっていることも指摘する。

しかしながら秋以降の旅行需要については、震災以降の人々の気持ちの変化やそれまでの停滞期間に対する長期のリバウンドなど、いくつかの好材料によって旅行支出は引き続き堅調と推察。物価上昇に対する旅行市場の反応を注視しつつ、旅行費用の上昇時にも対応した成長戦略が求められていると提言した。

また黒須氏は「旅行に関していい数字がある」と、日本生産性本部「レジャー白書2013」のデータを紹介。最近5年の余暇活動について、国内旅行と海外旅行はいずれも「開始・再開」が「やめた」回答率を上回っており、「過去の旅行市場の減少には予算以上に消費の選択が大きく関わっていたはず」と、家計の消費部門間で支出の変化が生じた重要性を強調。「この数年の旅行需要の拡大はこの流れを背景に起きた。中期的にはこのトレンドが継続する可能性がある」と展望した。

▼市場の質的変化にも注目

また、市場の質的変化については、先に触れたひとり旅にはFITの増加も付随するという。ひとり旅の80%がFITというデータもあるといい、JTBレポート市場調査によると2013年はフルパッケージの旅行形態が25%程度にまで低下している。

さらに「FIT化と同時に予約の早期化も進む」とし、2013年の海外旅行予約は「3か月以上前」が2割を超えたことも提示。「この変化は年代・性別に限らず全体で進んでおり、すべての現象が複合的に組み合わさっている」という。そこにはオンライン化が関わっており、「オンラインのFIT予約に流れ込み、マーケットを引っ張る変化となった」。

背景には、サプライヤーや企画造成側の早期予約への誘導施策のほか、オンラインで1年前からの航空券予約が可能になるなど早期予約がしやすいツールも誕生したこともある。ただし、「マーケットは産業側の思い通りに動くものではない。人々の求めるものにあっていたから変化した」と黒須氏。休みや働き方の考えや勤務先との距離感なども若年層を中心に変わっており、女性を中心に個人の自立性も高まっている。市場の質的な変化には、こうした世の中の変化を先読みした戦略が必要だと述べた。

(トラベルボイス編集部)

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