ホテル業界の3文字略語「PMS」とは? 最新トレンドと導入のポイントを徹底解説

ホテルコンサルタントの堀口洋明です。

ホテル業界では数多くの三文字の略語が使われています。特に外資系ホテルでは顕著です。

例えばこんな感じです。

  •  RMS 宿泊部門 Rooms Division
  •  DOR 宿泊部門長 Director Of Rooms (division)
  •  GRP 団体 Group

これはホテルに限ったことではなくて、航空業界が「都市コード」「空港コード」のように3文字の略号で表すルールになっているものも。

慣れるまでは何を意味するのか分かりにくいですが、一旦慣れてしまうと書くのが楽ですしその便利さが良くわかります。それによく考えてみるとATMやMVPのように日常生活に溶け込んでいる3略語も多いですよね。

さて、それではPMSという言葉はご存知でしょうか。

PMSは、Property Management Systemの略で、広い意味ではホテル・旅館全般の管理システム、狭い意味では宿泊部門の管理システムを指しています。 狭い意味の宿泊部門の管理システムを指すのが一般的な使い方です。

接客の場面をイメージされることが多いだろうホテルや旅館でも、コンピューターシステムは様々な場面で活用されています。

予約を管理し精算を行うだけでなく、顧客管理や戦略構築のデータ分析は必須の要素です。宿泊特化型ホテルに多い「カードキーを指すと客室の明かりが点灯する」仕組みや、館内の案内板を液晶モニターで表示する仕組みなどもそうですね。

宿泊システムという意味でのPMSの主要メーカーは主に以下の通りです。

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この他にも小規模のホテルや旅館で使われている様々なシステムがあります。

▼PMSのトレンド

PMSは正直なところ、基本的な「予約を管理する」「精算をする」「顧客管理をする」といった機能はここ10年位あまり大きな機能の改善は見られません。

最近のPMSが進んできているのは外部システムとの連携でしょう。

例えば、ブッキングエンジンと呼ばれるインターネット予約システムとの連携の強化、サイトコントローラーと呼ばれる様々なインターネット予約サイトを一括管理するシステムとの連携の強化です。

強化の方向は主に2点です。

  •  外部システムからの予約の情報量拡大
  •  在庫・料金管理の連携強化

最近のPMSでは、予約を外部システムからPMSに取り込む際に「氏名」「部屋タイプ」「宿泊日と泊数」といった物だけではなく「料金」を取り込む事ができます。

業界以外の方には当たり前に聞こえるかもしれませんが、従来は「料金の情報はPMS側に持つ」仕様で、需要予測に合わせて販売価格を変動させる手法が普及して以降、かなり多くのホテル・旅館で、インターネット上変動する料金とPMSに設定されている料金が異なることとなり、手作業で料金だけを修正していたのです。

現在の主流は、外部システムから通知される料金を「正」としてPMSに取り込む仕様が主流となり、料金を手作業で修正する手間は不要となっています。

PMSと外部システム(自社サイトやインターネット予約サイトでの販売)の在庫・料金を連動させる機能も強化されており、徐々に普及してきているようです。

どちらかというと進んでいるのは在庫連動のようです。

販売できる数に限りがある宿泊産業では、売りすぎてしまう状態(オーバーブック)は致命的なミス、お客様にご迷惑をおかけしてしまいます。

一方で「まだ売れるのに在庫が設定されていない」状態は販売機会ロスです。

そこで、「正しい在庫情報」を持つPMSと外部予約システムを連動させたらオーバーブックも防げるし販売機会ロスも防げた上に、管理の手間も相当減らせる、と考えられています。

この連動、一見便利なのですがレベニュー・マネジメントの観点からは考慮してほしい仕様があります。

それは「残室数は販売していい数ではない」という点です。

残室数とは「持っている客室数 ‐ 販売できた客室数」で、PMSは残室数を表示する機能を持っており、多くのホテル・旅館の方が残室数を基にどう販売するかを決めています。

しかし、レベニュー・マネジメントの観点からは残室数と今販売していい数は違っています。これは長くなりそうなので、いずれ機会を見てご説明したいと思っています。

▼PMS選定のポイント

PMSの導入には安くはない初期投資が必要になります。
そこで、PMSを選ぶ主なポイントを上げたてみたいと思います。

  •  分析をどこまで求めるか
  •  最低限度の推奨は以下の3つの観点から集計できること
  •  マーケットセグメント:どんなタイプのお客様が来ているか
  •  チャネル:そのお客様はどこから予約してきたか
  •  アカウント:誰が利用しているか
  •  分析は帳票だけで充分か、外部へのデータ出力が必要か
  •  出力する場合は、理解しやすくエクセルで簡単に扱えるものがよい
  •  どんな省力化を求めるか
  •  現状より自動化・簡素化される業務がどこまであるか
  •  自動精算機を使うか → 現時点ではホテル・旅館のグレードに関連
  •  外部予約システムとの連動はどこまでできるか
  •  外部予約システムからの予約取り込みはどこまでできるか
  •  外部予約システムとの在庫・料金連動を行うか
  •  顧客管理・顧客サービスに関する機能をどこまで求めるか

▼PMS導入のポイント

同じPMSを使っていても、満足している施設もあれば不満を抱えている施設もあります。実はPMSは「どんな設定をするか」「どんな運用をするか」によって大きく使用感が変わってくるのです。

その主なポイントは以下の通りです。

  •  望ましい運用を検討する
  •  機能を十分に理解する
  •  運用のトレンドを把握する
  •  分析項目とレポート・報告書に必要な項目を一致させる
  •  マスタコーディングの技術を知る

コンサルタントとしてあちこちホテルにお邪魔しているのですが、そこで気づくのはPMSの機能を十分理解しないまま使っている状況です。料金が自動的に取り込まれる機能を知らないホテルや、清掃指示書がPMSから出ることを知らないホテル、実際によく目にするのです。

PMSの機能を十分に理解し活用することで、生産性は大きく向上します。

PMSに設定される分析項目と報告書の項目が一致していないため、データの再加工をしなくてはならないケースもよく目にします。理想的にはPMSから印刷して終わり、フォーマットが気になるのならデータをコピー・ペーストして終わりにできます。

そうでなくて、並べ替えたり集計したり電卓をたたいていたり転記していたり・・・という状況に心当たりのある方は、運用に問題を抱えているのです。

マスタとは、例えば客室タイプの名称であったり集計単位の名称であったり、ホテル毎に設定するべき項目のことです。

このマスタを設定することをコーディングといい、マスタコーディングには技術があります。コーディングの技術もまた後日説明させていただくとして、うまくコーディングできている場合とそうでない場合では、PMSの運用効率が大きく変わってくるのです。

例えば、精算にかかわるコードが以下の順番で設定されているとします。

  1.  現金
  2.  クーポン・バウチャー
  3.  売掛
  4.  商品券利用
  5.  クレジットカード

比較的高単価のホテルでインターネット予約が中心のホテルだからクレジットカードの利用が多いとしたら、上記設定の運用効率は良いのでしょうか?

よく使うコードが選択リストの上部にあったほうが使いやすいのは言うまでもありません。このように、マスタコーディングの技術は大切なのです。

今回はPMSという言葉を知っていただき、「うまく使うには気を付けるべきポイントがいくつもあるんだなぁ」と思っていただければ幸いです。

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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