世界観光都市の格付けで1位になった「京都」、その原点は「小さな東京にならない」の決意から

千葉千枝子の観光ビジネス解説

世界があこがれる観光都市へ

受賞記念シンポジウムでみえたものとは(前編)

世界でもっとも影響力を持つとされる富裕層向け旅行雑誌「TRAVEL+LEISURE(トラベル&レジャー)」誌が毎年、実施するワールドベストシティアワードで、2014年、世界一の観光都市に選ばれた京都。この栄えある受賞を記念したシンポジウムが、去る2015年1月、都内で行われた。京都市は、「国家戦略としての京都創生」を提案している。奥ゆかしさを感じさせながら、その実、骨太でアグレッシブな提案内容だ。

地方創生が叫ばれるなか、京都が世界ナンバーワンになった理由と都市の国際競争力を、このシンポジウムからさぐってみたい。


▼今世紀、「小さな東京にならない」と決めた京都

グランドビジョンに市民の生き方 世界一への歩み

京都人の精神も大きな観光資源といえる。冒頭、挨拶をした門川市長。

和装袴姿で登壇した京都市長の門川大作氏は「世界があこがれる観光都市を目指して」と題した基調講演の冒頭、多様な価値観をもつ日本のよさを、京都のそれになぞらえた。金閣寺・銀閣寺を例に、「金があれば銀があり、表千家があれば裏千家がある。祇園があれば先斗町があるように、ランク付けすることなく互いを認め合う。その精神こそが最大特性だ」と語った。

だが奇しくも、米国誌のランキング第1位を受賞した記念の席である。ワールドベストシティに今回、なぜ京都が選ばれたのか。それは1999年、「小さな東京にならない」と決めた時代にさかのぼると言う。

バブル崩壊後の日本列島は、大店法が改正されるなど規制緩和の大合唱にあった。京都もまた、風情ある街並みが失われつつある危機的状況のなかで、策定されたのが「京都市基本構想」である。

門(かど)掃きを復活させ、今では年間20万人を超えるボランティアが日々、美化活動を行う。全国に類ない厳しい景観規制は周知のとおり。市内2万3000あったネオンを撤去して屋外広告物の適正化をはかり、無電柱化を推し進めた。そのための法整備や対策、提言は、今では他の自治体が範にしている。

京都駅前に観光案内所ができたのは、昭和2(1927)年のこと。以来、観光都市としての地位を確立してきた。“美しいまち”や“旅行者を迎え入れるまち”の文言は、昭和31(1956)年に制定された京都市民憲章に高らかにうたわれている。それを国際的に押し上げたのが、世界文化自由都市宣言(昭和53(1978)年)であろう。これらを礎に、21世紀の最初の四半世紀における京都のグランドビジョンを描くものとして「京都市基本構想」は建てられた。第1章に綴られているのは、「京都市民の生き方」である。

豊富な観光資源と独自の文化、歴史的背景など、国内の地方都市がうらやむ京都ではあるが、日々の暮らしのなかで心を磨きなさいという訓えは、京セラの創業者・稲盛和夫氏も、その著書のなか(「生き方」サンマーク出版)で語っている。

栄えあるベストシティは、市民の自助努力なしでは語ることができず、世界ナンバーワンが一朝一夕ではなかったことを物語る。


▼2000万人はもはや高みではない

京都はインバウンド政策の道しるべ

日本の観光の現状を伝える久保観光庁長官。訪日国籍のバランスのよさを強調した

基調講演は2本柱で行われた。京都市長のあとに登壇した観光庁の久保成人長官は、「観光立国実現に向けたインバウンド政策の推進」と題して講演。そのなかで人口減少に悩む自治体の首長へ向けて、インバウンドの経済効果をこう説明した。

「定住人口1人当たりの年間消費額(124万円)は、旅行消費に換算すると外国人旅行者10人分に値する。それが日本人の国内旅行者(宿泊を伴う)であれば26人分、日帰り客なら83人分(2013年総務省家計調査などをもとに同庁試算)」と開きがある。

インバウンドの1人1回あたりの旅行消費額は13万7000円と、実に日本の人たちの3~9倍。「インバウンドに先進的・先行的な京都は、日本の観光の道しるべにもなっている(久保氏)」。

さかのぼること5年前、富裕層市場の国際見本市ILTM Asiaを上海に視察した観光庁と京都市は、2013年からITLM Japanを京都で毎年開催してきた(次回は2015年3月16~18日開催予定)。できることなら今後も継続して、国内市場にとどまらず世界からバイヤーを誘致奨励して、ベストシティの誉をさらに轟かせてほしいものだ。

史上最高のインバウンド1341.4万人(2014年)の内訳をみると、台湾からが韓国のそれを抜き、中国は前年の131万人をはるかに上回る241万人が日本を訪れた。査証緩和でASEANから急増、北米・欧州も円安を追い風に軒並み伸びた。「各国から、まんべんなくお越しいただくようになった(久保長官)」。2015年1500万人が確実視されている。

そこで、合言葉だった「2020年2000万人の高みをめざして」は、省内ではすでに“高み”の一語がはずされたと言う。久保氏は「さらなる査証緩和、そして免税ショッピングの利便向上などに努める」と、檀上で約束した。

ちなみにインバウンドの旅行消費額総額は2014年、初の2兆円超えを記録しているが、その4分の1は中国で、5583億円(2014年)にのぼる。それでも中国人旅行者の多くは、「遣い切れないで帰国している」と言い、政策面での支援も視野に対応を急ぎたいと久保氏は語った。

島国・日本に陸路入国はない。そこで観光庁は、空路または水路による外国人旅行者受入数で、国際比較をほどこしている。2012年の調査では、周囲6ヵ国と陸続きのフランスを抑えてスペインが首位に、日本は世界18位であった。香港8位、タイ9位、シンガポール11位、韓国15位と、アジア観光列強の背中が少し見えはじめた。

国際競争でランク付けは、避けては通れないことである。だが京都は、そうしたランク付けを超越した価値観のなかにある。その想いが、冒頭の市長の言葉ににじむ。80年代、「称賛はされながら愛されず、技術を芸術に、商業を宗教に変えた(「TIME誌が見たニッポン」より抜粋)わが国が、今世紀、観光で世界から愛される都市のあり方を模索しているのがうかがえる。そんな基調講演であった。

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