ANAの新制服、背面の青いラインに込められた「意味」をリニューアル担当者に聞いてきた

【秋本俊二のエアライン・レポート】

新しい制服と、これからのANA ―CS推進部の小沢ちあきさんと語る〔下〕

利用者に「安心」と「信頼」を感じさせるデザインの中に、女性らしいエレガントさを盛り込んだ全日空(NH)の新制服。そこには、次なる飛躍に向けた社員たちの思いも凝縮されている。前回に引き続き、プロジェクトをリードしてきたCS&プロダクト・サービス室の小沢ちあきさんに話を聞いた。

 ※写真は小沢ちあきさん。1995年入社後、客室乗務員として経験を重ね、2013年4月よりCS&プロダクト・サービス室へ。制服リニューアル・プロジェクトではリード役を務めた。現在はCS推進セミナーの主幹業務に携わりながら、現役CAとしても乗務を続ける。

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▼リニューアルのポイントは新制服の後ろ姿と働きやすさ ―デザイナーの感性が生んだ「バックライン」

動きに合わせて優雅に波打つブルーライン

―― これまでの濃紺から明るいグレーになり、イメージががらりと変わりました。その色味もさることながら、ポイントはやはり後ろから見たブルーのラインですよね。このブルーのラインで、客室乗務員たちが海外の空港ロビーを歩いていても、すぐに「あ、ANAだ」ってわかる。なかなかいいですよ。

小沢氏: ありがとうございます。海外の空港にも日本人のお客さまがいますし、ANAを利用してくださる外国人のお客さまもいます。その方たちが空港で何か困ったときに、まず頼りにしたいのは自分が乗ろうとしている航空会社のスタッフです。そのためにも、制服には視認性が必要だと思いました。前から見れば顔は日本人なので日本の航空会社だとわかりますが、後ろ姿ではどこの航空会社か判断がつきません。

―― だから、バックにラインをいれた。両袖の裏側と、スカートのスリットにも1本──。

小沢氏: デザイナーには「コポーレートカラーのブルーはどこかに使って欲しい」と伝えました。ですが、あそこにああいう形でということを言ったわけではないんです。そこはデザイナーの感性に委ねました。


素材選びもポイントだったと話す小沢さん

―― 素材選びにも苦労されたと聞きました。昨年8月のボーイング787-9の世界初フライトのときに、客室乗務員が実際に着用して新制服をお披露目したでしょう。その機内で知り合いのCAが「ストレッチが効いていて、こんなに伸びるんですよ」と手を高く伸ばして見せてくれました。

小沢氏: 着やすさ、動きやすさという点は、かなり重視しましたね。何種類ものサンプルを取り寄せ、現場の人たちに着てもらって、機能面を検証したりして。現場で堂々と試着してもらえるならラクだったのですが、社外だけではなく社内にもまだ隠しておかなくてはいけなかったので、そこが大変でしたね。

―― 極秘プロジェクト、ですね(笑)。

小沢氏: ブラウス一つでも、たとえば汗シミができにくくするには、どう改善していくかと。霧吹きでシュシュッとやって、それを何人かに実際に着てもらい、その上からジャケットを羽織って動いてもらってサンプルをとりました。

―― そうした取り組みの結果、こうして素敵な新制服が誕生したわけですが、ファッションにはそれぞれ好みがありますでしょう。1万3000人が着るのだから当然、いろんな意見が出てきます。いいという声もあれば、なかには「なんだこれ」というネガティブな意見も(笑)。反対意見が聞こえてきて、めげることはなかったですか?

小沢氏: アハハ。ありますよ。私も人間なので(笑)。ですが、それは仕方のないことで。

―― 満場一致なんて、あり得ないですからね。あったとしたら、それはきっとつまらないデザインですよ。

小沢氏: 精神的にきついときもありましたけどね。夜、眠れなかったり。でも、いま振り返ってみると、そういう壁を乗り越えてきたから達成感も得られたと思います。



▼「2020年」が大きなモチベーションに ―ANAにとっての制服リニューアルの意義を啓蒙

―― 新しいモノを生み出す仕事というのは、何だって大変ですよ。大変じゃないと、やりがいにもつながらない。とくにANAにとっては、これからより本格的に世界に出ていく重要な時期ですよね。2020年には東京オリンピックも控えていて。そういう中での今回の制服リニューアルは、とても大きな意味を持つのでは?

小沢氏: そこが、すごく大きなモチベーションになったと思います。何のためにこのプロジェクトに取り組むのか。日々自分にそう問いかけながらの仕事でした。

―― 制服を新しくするだけでなく、それを着る人たちへのメンタル面でのアドバイスも行ったそうですね。

小沢氏: ただ「制服を新しくしたので着てください」では、誰も納得してくれません。制服というのが、会社にとってどういう意味を持ち、何を目的に今回それをリニューアルするのか? それを伝えることでみんなが理解し、自信をもって着てもらえるよう、説明する機会などを設けました。

―― 新しい制服に合わせて、メイクのやり方や髪形などの変更も進めたというのは、本当ですか?

小沢氏: メンタル面の次は、やっぱり実際に着る人たちにカッコよく着こなしてもらいたいですからね。資生堂様に監修をお願いして専門の方を招き、制服に合ったメイクをテーマに講習会を開いたり。新しい制服はバックにポイントがあるので、いままではただ後ろできゅっとまとめていた髪形も、今度は後ろからも見られるのでバックスタイルもポイントにアレンジを加えました。


新制服の着用で空港カウンターも華やかに

―― 着用開始して1カ月半が経ちました。利用者の声は届き始めていますか?

小沢氏: はい、届いています。嬉しいことに、実際に乗ったお客さまから「機内ですごく映えますね」などとお褒めの言葉もいただきました。写真で見たことはあったけど、写真と実物とはぜんぜん違うね、と。

―― 客室乗務員と空港係員と、少しデザインを変えていますね。

小沢氏: 後ろのラインの入れ方のほか、客室と空港カウンターとラウンジと、中のブラウスの色もそれぞれの働く環境に合わせて変えました。客室乗務員のブラウスは、機内の明るさに合わせて、空港係員はカウンターの明るさに合わせて。なので、発表会の会場で見てもらうより、それぞれが働く職場で見てもらって「いいね」と言ってもらえるのは嬉しいです。


▼常にチャレンジしつづけるANA ―制服リニューアルが人と会社を成長する原動力に

―― 航空会社の社員──とくに客室乗務員というのは、日本では憧れの職業です。若い人たちが自分の活躍の場を求めるときに、なかには「あの制服が着たい」という思いで会社を選ぶケースもあるのではないでしょうか。会社の成長の原動力は“人”ですし、この新しい制服があったからよりたくさんの人材が集まったというふうにつながっていくと、いいですよね。

小沢氏: そうなってくれれば、本当にチャレンジした甲斐があります。

―― 新制服の着用はまだスタートしたばかりで、今後もフォローの仕事が続くと思いますが、小沢さんの中ではもう次なるチャレンジが始まっているのですか?

小沢氏: 私の部署はCS推進部なので、人を育てていくためのセミナー企画や開催を行っています。直接お客さまに触れているスタッフはもちろん、フロントラインからはちょっと離れてしまった管理職や経営職も含めて、お客さまの満足向上に向けたセミナーなどですね。制服を変えただけじゃなく、ANAは人も変わったねと思われる会社でありたいですから。

―― やりがいがありそうですね。ANAは「働きやすさ」という面では、小沢さんはどう感じていますか?

小沢氏: 働きやすいですよ。私が入社した当時と比べても、ずいぶん変わりました。妊娠して、子育てが終わって、戻ってくる人も増えています。

―― いいことですね。その人の経験を手放してしまうというのは、会社にとってすごくもったいないことなので。

小沢氏: そうなんです。たくさんの経験をもった中間層が結婚や出産を機に多く退職してしまった時代が、かつてはありましたから。

―― アジア系には、1年ごとの契約で、5年経つともう次の契約はしないという航空会社もあります。そこを辞めた人たちが、ヨーロッパの航空会社でたくさん働いていたりして。反対にヨーロッパでは、結婚して妊娠したからと退職願いを出しに行くと、人事が受理してくれない会社があるそうです。「簡単に辞めるなんていわないで、1週間くらいよく考えてからまた来なさい」と。あなたの経験を会社が手放して、新しい人にもう一度最初から教育するのって本当に大変なんだから──ということを人事から言われると私の友人のCAが話していました。いい会社ですよね(笑)。

小沢氏: 現在のANAも、まったくいっしょです。人の経験をとても大切にしてくれる会社になりました。だから私たちも、やりがいをもって新しいことにチャレンジしていける。CS推進部としても、全社員にチャレンジを促し、それをバックアップするような仕事をしていきたいですね。古きよきANAの伝統みたいなものを残していくこともお客さの安心感につながると思いますが、同時にワクワク感というか、何かまた新しいことをやっているということもお客さまに感じていただけたらいいなと思います。


対談は羽田空港第2ターミナルのカフェにて

(トラベルボイス編集部)


秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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