宿泊予約のパターンを可視化すると日毎にたてる作戦がみえてくる

ホテルコンサルタントの堀口です。

さて、今回も日本ではあまり普及していないレベニュー・マネジメント(RM)の要素を紹介させていただきましょう。

今回紹介するのは「TOD(Type Of Day)」という考え方です。

TODとは、簡単に言うと「こんなパターンの日」のことです。

▼TODとは「こんな日はこうだ!というパターン」

皆さんも感覚的に、「普段の土曜日は満室になって単価はこのくらい」だとか「ゴールデンウィークの直後は稼働が伸びない」「水曜日と木曜日は出張利用のお客様で満室になるけど、予約が入りだすのは直前」といったパターンを把握していらっしゃると思います。

TODはそれを数値として具体化したものです。

私が経営する亜欧堂ではTODを2つの観点から具体化・可視化しています。

  • TODカーブ: ブッキングペースとしてのTOD
  • TOD内訳: セグメント別のTOD(販売室数、ADR、DORの結果)

▼TODで予測が向上する

同じ稼働率100%の結果であっても、内訳のマーケットセグメントが異なる場合にはブッキングペース(どのくらいの時期にどの程度の予約が入るかという推移)は大きく異なります。

例えるなら、ビジネスのお客様で満室になる日は宿泊日の直前14日程度前から一気に予約が入りだし、レジャーのお客様で満室になる日は宿泊日の2か月程度前からコンスタントに予約が入りだす、といったようなことです。

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(横軸=日数、縦軸=稼働率)

ブッキングペースとしてTODを可視化し、TODと実際のブッキングペースを比較することで、この先の予約の伸びが予測しやすくなるのです。

graph3

▼TODで予算が高度になる

TODはブッキングペースの形だけでなく、セグメント別の室数、ADR(客室平均単価)、DOR(1室あたりの平均人数)といった「内訳」の形でも可視化します。

TOD内訳を、セグメントを「ビジネス利用」と「レジャー利用」とにシンプルに分けてイメージが下表です。

table1

内訳としてのTODは、予算や目標値の作成に効果的です。

TODを作成し、今年の反省や来年の作戦を基にTODを修正したものを「予算のTOD」と呼ぶことにしましょう。

例えば「今年の土曜日は早い時期に満室になりすぎた。これは販売開始時点の価格を安くしすぎていたからで、気が付いたらかなりの数の予約を受けてしまっていたのが反省点。だから来年は販売開始時点の価格を今年よりも値上げしておこう」と考えたとすれば、予算TODのADRを実績TODのADRより高く設定するのです。

もしも「来年は自社WEBサイトのリニューアルを予定しているので、自社WEBからの予約を伸ばす」ということであれば、予算TODの自社サイトからの予約数(販売室数)を増やします。

TODごとに反省や作戦を加味したら、予算TODを365日に振り分けることで日別セグメント別の予算が簡単に作成できます。

※実際には(特定日に予定している団体の存在など)個別の日の調整作業が必要です。

亜欧堂ではTOD予算の作成ツールを用意していますので、慣れた方であれば365日間の日別セグメント別予算の叩き台(レベニュー・マネージャー案)を3時間程度で作成することができます。

先日もあるホテルチェーンでゼネラルマネージャーの皆さんに、日別セグメント別予算の作成トレーニングを実施し、1日目で作成方法を伝え作成作業を行い、2日目で予算の内容の良否をレビューしました。

つまりそのくらいのスピードで作成できますので、多くの方が想像するより実際にはそれほど時間はかからないのです。

▼TODのメリット

TOD予算を作成すると様々なメリットがあります。(下記は代表例)

  • a. 現在の予約状況の良否をより高度に判断できる

  • b. (連休の数など)暦の違いの影響を予算に反映させやすい

  • c. 日毎にどの程度販売できれば予算達成なのか、予算と実際の繋がりを意識できる

  • d. 販売開始時点の価格設定が予算と連動しやすくなる

  • e. ブロック提供数が予算と連動しやすくなる

aのメリットを具体的に説明してみましょう。

graph2

予算とオンハンド(OH)の状況を比較したら、上のグラフの通りであったとしましょう。(面グラフ:予算、棒グラフ:OH、緑:個人、青:団体、赤い折れ線:OHADR、茶色い折れ線:予算ADR)

予算では、「人気のある土曜日を絡めて日曜にかかる団体を取ろう!」という作戦だったのですが、実際には21・22日の単発の団体が入っています。

月単位でしか予算とOHの比較をしないと、上のグラフの状況でも「予算通り団体が取れている」と錯覚してしまうのですが、日別予算ではそのような間違った判断をしにくくなります。

また、21日は団体が入った分ちょうど空室の予定だった部屋が埋まるのですが、22日は空室の予定だった部屋が足りず、個人のお客様を断る必要があることがわかります。そうなると、「団体による収入増」と「個人のお客様を断ることによる収入減」のどちらが多いかを比較するなどして、「団体を取るほうが得かどうか」の判断をするほうがよいことになります。

この分析のことをRMでは「Displacement analysis(置き換え分析)」といいます。この分析も日別セグメント別予算があるからこそできるのです。

▼TODを見分けるには

このようにTODを把握することで様々なメリットがあるのですが、ではどうやってTODを見分ければよいのでしょうか。

もっとも簡単な方法は「月別曜日別」に考えることです。皆さんも概ね曜日ごとに傾向を把握しておいででしょう。

※一部の外資系ホテルではDOW(Day Of Week)と呼び、曜日ごとの傾向を重視しています。

ただし、曜日だけがTODの切り口・分類方法ではありません。

例えば野球場の近くにあるホテルでは、同じ土曜日であっても「巨人戦のある土曜日」はパターンが異なっていました。例えば百貨店近くのホテルでは、同じ木曜日でも百貨店の催事が有無でパターンが異なっていました。

このようにTODは曜日だけが切り口ではないのですが、最初に入り口としては曜日ごとに考えていただき、そこから徐々に細かく分類していくとよいでしょう。

▼TODを活用しよう!

RMのシステムを利用していると、予測はシステムが自動的に行ってくれるせいでしょうか、TODを活用できていなかったり(あるいはご存知なかったり)ということもあるようです。

しかしTODは予算作成や、予算に基づく実際の販売管理に効果的なのです。

TODの概念をお話しすると、銀行やファンドなどホテルの利害関係者の方から「逆に聞くけど日毎に傾向が違うから日毎に作戦を立てて予算化するなんて当たり前のこと、今までやってなかったの?」とおっしゃられることもしばしばあるのです。

まずは曜日ごとの傾向分析から始めてみてはいかがでしょうか。

前回の「レベニューマネジメントコラム」>>

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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