人手不足が宿泊施設に及ぼす影響、3つの視点で考えてみた【コラム】

こんにちは。ホテルコンサルタントの堀口です。

今回は、労働力減少という環境変化が「宿泊販売に及ぼす影響」について考えてみました。

働き手が減少していく中で訪日観光客の増加により業績が好調な宿泊業界では、労働力不足が徐々に表面化してきています。なかでも客室清掃は、外部の清掃会社に業務委託しているホテル・旅館が多く、外注という特性上相手先の状況を把握し難いようです。

ギリギリで人数を確保し業務している外注先も多々あるようで、このままでは「宿泊需要はあるけれど、客室清掃が間に合わないから全てのお部屋を販売できない」という状況になることを懸念しています。

建設業界では既に労働力不足により業務を受注できないというニュースが出ていますので、決してありえない事態とは言い切れません。

では、客室清掃に必要な労働力が不足すると宿泊販売にどのような影響を与えるのでしょうか。いくつか予想をしてみましたので、順を追ってみていきたいと思います。

  1. 客室単価の値上げ圧力となる
  2. チェックイン・チェックアウト時間の発想の転換が必要になる
  3. 部屋タイプが絞り込まれる

 

1. 客室単価の値上げ圧力となる

客室清掃に必要な人員が揃わなければ、雇用条件をよくして人数を集めようとするでしょう。そうすると外注先から客室清掃費の値上げを要請される事になるでしょうし、実際に値上げを要望されたホテル・旅館も多々あります。

好調な宿泊施設では客室単価も上昇していますので、客室清掃費の値上げを吸収できる状態でしょう。

しかし、好調でない地域や、将来の経済環境の変化(円高への移行など)や国際環境の変化(紛争の勃発など)による訪日観光客の減少を考えると、「好調だから高い価格で販売する」のではなく「コストを考えるとこの価格で販売しなければ採算が合わない」状態となる懸念があります。

食品製造業では、コスト上昇を価格に転嫁できないと考え「分量を減らす」対応が見られました。しかし宿泊では価格以外にコスト上昇を吸収できる余裕はほぼありません。せいぜい、アメニティを減らしたりリネン類のセット数を減らしたりといったところでしょうが、既に実施中の宿泊施設も多くあまり効果的とは言えません。

そうなると、

「客室清掃費の増加分、販売価格を上げる」か、

「客室清掃費の増加分、利益が少なくなるのを覚悟する」か、辛い選択を迫られそうです。

2. チェックイン・チェックアウト時間の発想の転換が必要になる

値上げするのも利益を減らすのも避けたいとなると、これまでとは異なった発想が必要になります。そこで考えてみたいのが、「チェックイン(CI)・チェックアウト(CO)時間の発想の転換」です。

ほとんどのホテル・旅館で「CI・COの時間はすべてのお客様で同一」であることが前提となっています。「CI時間が遅いなどの滞在時間が短いプラン」や「CO時間が遅いなどの滞在時間が長いプラン」がありはしますが、利用数に占める比率は低めです。結果宿泊施設では決められたCI・CO時間の中で客室清掃を行っているのです。

CI・COの時間の発想を変えてみましょう。すべてのお客様が同じCI・CO時間ではなく、例えば大きく2つの時間があるとしたらどうでしょうか。

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このようにするとすべてのお客様の滞在時間を同じにした上で、CI・CO時間をずらすことによって、清掃時間を大きく拡大できます。

これまでも早めにチェックアウトするお客様のお部屋を早く清掃を開始することは当たり前に行われているでしょうが、この方法では「確実性が高い」かつ「すべてのお客様が対象」なのがポイントです。また、販売の目的が「清掃時間を増やす」ですから繁忙期・閑散期問わず販売します。

そうなると「売り方」に工夫が必要です。現時点でも「プラン」と「部屋タイプ」の2つの要素を考慮して販売していますが、さらに「時間帯」を加えた3つの要素の考慮が必要となります。

PMSやサイトコントローラーといったシステムの機能を考えると、「販売した数の把握と管理」が容易なのは「部屋タイプを分けること」ですから、CICOの時間帯をずらす場合には「スタンダードツイン:時間帯(1)」「スタンダードツイン:時間帯(2)」のような部屋タイプを設定する必要があるでしょう。

3. 部屋タイプが絞り込まれる

労働力が減少しても、一部屋あたりの清掃時間を短縮できれば、同じ時間でも清掃できる部屋数が増加します。これも既に取り組まれている事柄ですが、さらに一歩進めて「部屋タイプの違いをなくす」のが3つ目の考え方です。

LCCは飛行機の機材を同じものに揃えることでメンテナンスの時間を短くしてコスト削減策の一つとしています。ホテル・旅館も部屋タイプの違いをなくせば、清掃効率の向上が期待できます。

これはレベニュー・マネジメント(RM)にも影響がありますが、ホテル・旅館の開発(開業)に大きな影響があるでしょう。

RMへは、「部屋グレードの違いによるアップセルが難しくなる」影響があります。異なるグレードがあることで予約時点でもチェックイン時点でも増収の効果が得られていました。部屋タイプが絞り込まれると、極端な話すべての部屋が同じタイプになりますので、アップセルは難しくなります。

そして、RMへの影響より大きいのがホテル・旅館開発への影響です。全ての部屋が同じタイプだとすると、建物の形を選んでしまうので開発が難しくなりそうです。

実は部屋タイプの違いは「アップセルを狙い積極的な違いを作る」という意図の他に「建物の形から考えて違った形の部屋を作らざるを得ない」という消極的な理由もあります。清掃効率を考えて同じ部屋タイプにしようとすると、建物の形を選んでしまう事になり、ホテル・旅館の開発の難易度が高くなる事が予想されるのです。

これからどうなっていくのか

現在の環境下でこれからどのように客室清掃の業務を行っていけば良いか、簡単に解決できる問題ではありません。

今回考えてみた可能性も、ひとつで解消するものではなく実際には複合しながら対応が進んでいくものだと思いますし、根本的に「人材確保の良策」が見つかったり「雇用環境の改善」が起きたりするのかもしれません。

私たちはこの問題にどのように取り組んでいくべきなのでしょうか。

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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