ホテル婚礼受注を最適化する「婚礼ブロック」の実践テクニック【コラム】

こんにちは、ホテルコンサルタントの堀口です。

これまで紹介してきているレベニュー・マネジメント(以下RM)は宿泊のものが中心ですが、既に触れたように宴会にも活用できます。今回はちょっと実務寄りの内容、「婚礼ブロック」について考えてみたいと思います。

 

なぜか、婚礼ブロックの数を知っているホテルは少数派

人口減少により中長期的に縮小している婚礼市場ですが、1件あたりの売上が大きいこと、派生的な利用(例:結婚記念日などのレストラン利用)が期待されること、ホテルのブランドイメージ向上につながることなどから、現在も多くのホテルで重要視しているようです。

婚礼も一般宴会(MICE:Meeting, Incentive, Conference, Exhibition やパーティー等)も、同じ宴会場という空間をシェアする訳ですが、リードタイム(利用日と予約日の間の日数)は一般宴会の方が長い(つまり先に入ってくる)ことも多く、何もルールがない状態では先に一般宴会の予約が入ってしまい、せっかくの婚礼の予約を受けることができなくなってしまう、という問題が生じます。

※婚礼予約が発生しやすいのは、利用日の半年前〜2ヶ月前程度

※一般宴会のうち、同じ顧客が毎年同じ内容で利用する「定例案件」は概ね1年前には予約が発生する傾向にある(利用した後に営業担当者が翌年の予約を入れる)

 

この問題を解消するために多くのホテルで採用されているのが、「婚礼ブロック」です。

婚礼ブロックとは、確実に婚礼の予約を受注できるように、特定の宴会場や時間帯を「ブロック」する手法です。婚礼ブロックを設定すると、原則として婚礼以外の予約を受け付けませんので、先に一般宴会で宴会場が埋まってしまうという不都合を防ぐことができます。

この婚礼ブロックをどういう基準で設定するかというと、「非常にあやふや」か「あまりにもシンプルな基準」であることが多いようです。例えば、「あまりにもシンプルなルール」であればこんな感じです。

  • 大安・友引の日はフルブロック(利用可能なすべての宴会場、すべての時間帯を婚礼用にブロックする)
  • 仏滅の日はブロックしない
  • それ以外の日は人気のある会場をブロックするのでブロック数は◯件

※今でも婚礼は「六輝」に希望日が大きく影響され、大安・友引が最も人気が高く、仏滅はほとんど人気がないようです

ルールがシンプルなことも驚きなのですが、それ以上にびっくりするのが「自社のブロック数を知らない」ホテルがあまりに多いことです。ルールをお聞きしてブロック数を計算すると、婚礼の目標件数の2〜3倍にもなるケースがほとんどです。

試しにみなさんのホテルの婚礼ブロック数と目標件数を比較してみてください。いったいどの程度になりますでしょうか。

婚礼ブロックは「会場のルールが決まっているから大丈夫」ではない

婚礼ブロック数の多さを指摘すると、決まって帰ってくる返事が「ブロック解除のルールがありますから大丈夫です」というもの。ですが、それは思い込みで望ましいとは言いかねます。

代表的な婚礼ブロック解除のルールはこんなところでしょうか。

  • 利用日の3ヶ月前にはブロックを解除する
  • 3ヶ月以上前であっても、婚礼の想定売上より大きな売上が見込める場合、ブロックを解除する

しかし、実際にはこんな問題が生じています。

  1. 最終的に会場が埋まらないことがある
  2. 営業担当者の意欲にブレーキがかかる
  3. 解除のルールが妥当ではない

これらについて1つずつみていきましょう。

1. 最終的に会場が埋まらないことがある

婚礼ブロックが目標件数や実際の利用件数の2〜3倍にのぼるホテルは、つまり、それだけのチャンスを無駄にしているといえます。例えば、年間100件の婚礼獲得を目指しているホテルが、300件分の婚礼ブロックを持っていた場合、差し引き200件分のブロックが多いということになります。

この200件のうち、「婚礼よりも売上が良いもの」や「3ヶ月以内になって入ってくるもの」でいったいどれだけが利用されるのでしょうか。どうせ埋まらないのであれば、半年間に問い合わせがくる予約を、例え婚礼売上の1/3程度の売上であっても受注する方が、最終的にはそのホテルの売上が増えることになるでしょう。

可能であれば、「婚礼ブロックがあることでお断りした予約の件数と売上」を記録して確認してみてください。かなりのチャンスを無駄にしてしまっているかもしれません。

2. 営業担当者の意欲にブレーキがかかる

いくら婚礼ブロック解除のルールがあるとしても、解除のための「申請」や「依頼」をしなければならないとしたら、営業担当者の多くは「ブロックがないところ」に力を注ぎがちになります。

解除が承認されるまでお客様をお待たせするのも申し訳ないですし、効率も悪い。ですから、婚礼ブロックのある日を強く希望するお客様以外には積極的に販売しなくなり、結果空きが出てしまったとしても、それは意欲の問題ではなく「制度の問題」なのではないでしょうか。

3. 解除のルールが妥当ではない

そもそも、婚礼ブロックの解除のルールは妥当なのでしょうか。

基本的に宴会も婚礼も、大型のものはリードタイムが長い傾向にあります。MICEの中でもIncentiveやConferenceなど大型のものはなおさらです。ですから「3ヶ月前にブロック解除」では一般宴会にとっても遅すぎる場合が多いのです。

また、婚礼は確かに売上額が大きくなるのですが、引き出物など利益率が低い付帯売上の比率が高く、婚礼全体の利益率も低めになります。ですので、ブロック解除のために売上額を比較するよりも、利益額を比較する方が望ましいのです。

下記の例で考えてみましょう。

  • 婚礼:利益率20%
  • パーティー:利益率40%
  • 展示会:利益率80%

※ここでいう利益率は売上から原価と人件費を差し引いた程度のものです。このような簡易的な目安とする利益のことを「貢献利益」と言います。

婚礼の売上が200万円を期待している場合の利益は40万円となります。では40万円の利益を得るためにパーティーの売上額はといえば、100万円なのです。料理などの原価が必要でない展示会では50万円にしか過ぎません。

売上の額を基準にしていると、200万円の売上のパーティーや展示会でなければ受注できませんが、利益率が上記程度であれば100万円の売上のパーティーや50万円の展示会でも受注することができるのです。

このように、

婚礼ブロック解除のルールは「売上ではなく貢献利益」で判断する方が良いのです。

減りつつある婚礼を確保しつつ、一般宴会を逃さないための工夫

減りつつあると言っても婚礼は重要だと考えるホテルが多い中、婚礼をしっかり確保しつつ一般宴会の受注でも機会損失を起こさないためには、下記の点に留意していただくことをお勧めしています。

  • 婚礼ブロックを目標件数の120%

    〜150%

    程度に抑える

  • 貢献利益を試算して把握しておく(代表的な宴会種別毎、会場に応じた目標人数毎に試算する)

  • ブロック解除など案件同士の優先度を比較するには、売上でなく貢献利益を基本とする

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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