世界のシェアリングエコノミー動向 ―国際アナリストが分析する未来へのシナリオ【海外コラム】

国際市場調査アナリストの分析コラム

世界各国の旅行産業は年々成長しており、2014年の海外旅行客数は2013年と比較して4%、また国内旅行客数は7%増加しました。

その中で最近何かと話題にのぼるエアビーアンドビー(Airbnb)やホームアウェイ(Homeaway)などの"シェアリングエコノミー"。あなたはこれを素晴らしい発想だと思いますか。社会をよりよくするサービスだと思いますか。それとも、違法行為の温床になるのではないかと懸念するでしょうか。彼らは宿泊産業の未来を変えるでしょうか。それともいずれ消えてなくなるサービスでしょうか――?

立場や価値観によりさまざまな見方が存在しますが、その合法性、持続可能性、収益性、破壊的な影響をもたらす可能性について、シェアリングエコノミーが宿泊産業に大きな議論をもたらしていることは間違いありません。

以下では、シェアリングエコノミーが宿泊産業にどのような影響をもたらすのか、またその機会と課題について考えてみたいと思います。

※本記事は、国際市場調査大手の「ユーロモニター」社が2015年9月に実施したオンラインセミナー「The Sharing Economy: Changing Travel Demands and How to Capitalise」の一部を要約したものです。同社の協力で日本語に翻訳し、それをトラベルボイスが編集しました。

 

二極化する宿泊産業

否定的な意見も根強いものの、個人間取引のプラットフォームが産業に変化を与え始めていることは明らかです。現在の宿泊産業は、2つの相反する勢力が二極化した構造を作り上げている状況といえます。

一方は、ホテルやそのタイムシェア、ホステル(簡易宿泊所)、サービスアパートメントや素泊まり施設などの既存の宿泊施設。

もう一方は、空き部屋の貸し出しや貸し別荘、ホームスワップ(会員同士が一定期間家を交換するサービス)など、急速に伸びている個人間レンタルの市場です。米ウィンダムワールドワイド(Wyndham Worldwide)社がホームスワップサービス「ラブ・ホーム・スワップ(Love Home Swap)」に出資をしていたり、ハイアットが「ワンファインステイ(onefinestay)に出資をしていたりするなど一部例外はあるものの、既存の宿泊施設が個人間レンタルを敵視する傾向が強いのが現状です。

従来型の宿泊施設 vs個人宅のレンタル市場:ユーロモニターインターナショナル提供

2007年から2014年までのホテル産業の売上の成長率および個人間レンタルの取引高の成長率を比べてみると、ホテル産業の年平均2.9%に対し、個人間レンタルは年平均8.2%と急速な勢いで成長していることが分かります。

ホテルと個人宅レンタルの売上成長率比較:ユーロモニターインターナショナル提供

また、個人間取引のプラットフォームであるAirbnb(2008年~)、HomeAway(2005年~)の売上高を見てみると、その成長スピードは驚くべきものがあり、同市場の伸びを牽引していることが分かります。

Airbnb と HomeSway の売上高比較:ユーロモニターインターナショナル提供

同様に、宿泊先までどういった交通手段を使うのか、という点でも二極化現象が起こっています。

鉄道や電車、バスなどの既存の大量輸送型手段やタクシー以外に、カーシェアやバイクシェアリング(自転車)、相乗りなど、交通手段ですらシェアする動きが出てきています。ここにおいても両者の対立は深まるばかりで、パリやロンドンにおいては、タクシードライバーがウーバー(Uber)のドライバーと激しい衝突を繰り広げています。

従来型の交通手段 vs 交通手段のシェアサービス:ユーロモニターインターナショナル提供

 

シェアリングエコノミーを活性化する要素

こうした"シェアリングエコノミー"を活性化する要素は主に4つあると考えます。

1つ目は、現地で本物の体験をしたい、という社会的要因です。私たちの日常がさまざまな機器を通じたものになっている今、旅という行為が、あらゆる人との生のコミュニケーションや、自分だけの体験をもたらしてくれるものとして捉えられるようになってきました。

2つ目は、環境的要因。全世界的に環境への関心が高まるなか、私たち人間の活動がいかに自然に影響を与えているのかが考えられるようになりました。そのため、車など環境に悪影響に与えるものを所有せず、シェアして使う、という発想が生まれつつあります。Reduce、Reuse、Recycleといういわゆる「3R」に加え、Repair(直して使う)、Redistribute(分けて使う)という「2つのR」が重要となってきました。

3つ目は経済的な要因です。2008年の経済危機が、このシェアリングエコノミーの台頭の1つの大きな原因であったように思います。同じお金を払うのであれば、より価値の高いものを求めるようになり、また通常の収入以外の収入源を確保しておきたい、と考えることが借りる側と貸す側の双方を拡大する要因となりました。

最後に技術的要因があります。何といってもモバイル技術の拡大が、このシェアリングエコノミーの成長を大きく後押ししました。「シェアする」という発想自体は新しいものではありません。しかし技術の進化により、貸したい側と借りたい側のニーズをより効率的にマッチングできるようになり、またオンラインでの支払いが可能になることで、お金のやり取りにおける不安を解消することができました。

シェアリングエコノミーを活性化する4つの要因:ユーロモニターインターナショナル提供

 

二極化の先にある統合・融合

しかし今後数十年に渡り、両陣営のプレーヤー同士、ひいては両陣営の統合が進んでいくでしょう。

あらゆる宿泊形態が融合し、ビジネスホテルからブティックホテル、リゾート施設、ホステル、タイムシェア施設など、全てが一箇所に集まり、買い物や娯楽も兼ね備えたハブ機能を持つ設備が登場してくることが予想されます。

一方で、今後宿泊や移動における物理的な距離は制約要因ではなくなってくるでしょう。あらゆる形態の宿泊施設について、コンシェルジュサービスや鍵の管理、空港への送迎などがこのハブ機能によって統括されることで、利用者にとってはあらゆるサービスをより便利・スムーズに受けることができるようになると思います。

また、こうした統合により、交通手段においても、既存の交通手段とシェアリング型が複合的に融合していくと考えられます。

利用者側は、これまでのように1つの輸送手段に頼った移動でなく、スマートフォンのアプリなどを活用しながら、複数のサービスを組み合わせてより効率的に移動することができるようになります。

そして、ますます増加する旅行需要に対応するため、宿泊形態の多様化に加え、交通手段もより多様で柔軟性のある形態が求められていくに違いありません。

宿泊・交通手段を融合したハブ機能:ユーロモニターインターナショナル提供

今回の記事のもととなったユーロモニター社のオンラインセミナー「The Sharing Economy: Changing Travel Demands and How to Capitalise」は以下から参照できる。


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