【続報】国際会議「WIT Japan 2016」、業界リーダーが語った新たな成長へのヒント、AI活用からOTAの再定義まで

オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan 2016」のメインカンファレンスが2016年6月3日に開催された。今年のテーマは「Reboot」(再挑戦)。グローバル化のなか、国内外のプレイヤーが次の成長に向け、どのような課題認識のもと戦略を立てているか。世界から集まったキーマンが市場動向や注目のトピック、今後の展望まで、様々な観点で見解を共有した。

冒頭の「世界のオンライン旅行マーケットの動向“Reboot”」では、ブッキングドットコム(Booking.com)やアゴダ(Agoda)などグローバル企業をはじめ6社が登壇。このうち2社は中国最大手のシートリップ(Ctrip)とバケーションレンタルのトゥジャ(Tujiya、途家)で、勢いを増す中国企業の成功と拡大戦略もフューチャーした。

Ctripのシンディ・ワン氏(中央)、Tujiaのメリッサ・ヤン氏(右)

例えばCtripのCFOシンディ・ワン氏は成長のポイントについて、中国という巨大な市場での展開に「ラッキーだった」とするが、その後の他社との競合や、経済発展を遂げる中国消費者の変化への対応も説明。

3年前から“モバイルファースト”に取り組み、取引におけるモバイル率は70~80%にまで高まった。モバイル化ではアプリの利用頻度を重視し、「トラベルガイド、チケット、トレインなど旅行のエコシステムを作っている」という。一方、グローバル戦略では中国に並ぶ巨大マーケットであるインド進出を狙い、インドの大手メイクマイトリップ(MakeMyTrip)に出資したところだ。

また、次の「変わりゆく日本マーケット-主要OTAの動向」では、楽天、ヤフー、リクルートライフスタイル、一休、i.JTBの日本を代表する5社が登壇。日本でのトピックや海外動向、今後の展開について見解を示した。このセッションはWIT Japanの中でも毎年人気。詳細なレポートは後日掲載する。

新たな成長へのヒント

Facebookのダン・ニアリィ氏

このほかカンファレンスでは、各社がグローバル進出を挑戦するなか、今年も「ローカライゼーション」がキーワードの一つに。市場への浸透や顧客獲得、ブランド構築のため、「パーソナライズ化」「ロイヤリティ」「コンテンツ」「パートナーシップ」なども多くのセッションで触れられた言葉だ。

「モバイル化」も各社の取り組みの中で多く出てきた言葉だが、フェイスブック(Facebook)APACヴァイスプレジデントのダン・ニアリィ氏が、マーケティングに及ぼす大きな変化を指摘。アプリ利用とクロスデバイスが進むなか、「クッキー(Cookie)を使うマーケティングデバイスは無効。もはやサーチが機能しない」と忠告した。

AIワトソンのロボットでの活用事例。「変なホテル」のフロントや「ヒルトン」のコンシェルジュにも

さらに今年は、ヴァーチャル・リアリティ(VR)や人工知能(AI)のプレゼンが行なわれ、次の成長に向けた最新テクノロジーの重要性を再認識する機会となった。日本IBMワトソン事業部パートナーエコシステム担当事業部長の樋口正也氏は、世界500社以上のパートナーに広がった同社のAI「ワトソン」の実用動画を示しながら、「これは現実世界で起こっていること」と強調。ワトソンの活用は案内業務からEコマースへと広がっており、「位置情報やツイート、ブログなどのソーシャルからもデータを取り、旅行計画を立てることができる」と旅行分野での可能性も語った。

旅行の広がりという点では、ベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏が従来型の旅行会社について「オンライン/オフラインの双方でビジネスをしており、OTAとして考えた方が良い」と言及したことにも注目したい。各種ブッキングエンジンを有している上、営業力やマーケティング、パッケージ商品などはOTAより優れている部分があり、特にオンラインで難しいブランド構築は従来型旅行会社の資産になっていると指摘した。

これを受けてトゥジャCTOのメリッサ・ヤン氏も、中国のあるOTAがブランド構築を目的に店舗展開を開始したことを紹介。オーストラリアの旅程検索「Rome2Rio」CEOのロッド・カスバート氏も、オンライン/オフラインで展開する豪州の旅行会社の存在を紹介し、「2つの違うカルチャーで売り込めるのは強み」との考えを示した。市場や環境の変化に伴い、OTAやオンライン旅行業界の概念も変わっていきそうだ。

WITも拡大へ

5年目を迎えた今年は、来場者数がさらに増加。1日目のブートキャンプには269名、本会議には464名が来場し、総参加者申込者数は555名になった。参加者の業種も多岐にわたり、トップ3はホテル(18.3%)、OTA(13.8%)、旅行会社(7.8%)だが、航空会社やメディア、観光局以外の「その他」が2割を占めており、オンライン旅行分野の幅の広さを感じさせる結果となった。

WIT自体も拡大しており、東京開催の前には香港、ソウル、バリでそれぞれ第1回のWITを開催。6月30日には初のヨーロッパ、ロンドンに進出する。WIT創始者のイェオ・シュウ・フーン氏はカンファレンスのクロージングで、「ヨーロッパで開催するのが夢。時代の流れがアジアにあることを伝えていく」と意気込みを見せた。

なお、2016年度の本国シンガポールでの「WIT Singapore2016」は10月17日~19日、「re imagine(再びイメージする)」をテーマに開催する。

左から)創始者のイェオ・シュウ・フーン氏、日本実行委員の柴田啓氏(ベンチャーリパブリックCEO)、浅生亜也氏(アゴーラ・ホスピタリティーズCEO)

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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