日本の宿泊産業が成長するための課題は何か? 世界のプレーヤーの見解を聞いてきた

「WIT Japan 2016」のセッション「ホテル予約の変化」では、日本で営業するホテル運営会社3社がオンライン対応の現状をシェアし、その後、宿泊流通に関わる世界のオンライン旅行プレイヤー3社が見解を語る2つのパネルで構成。オンライン対応に関する日本の宿泊業界の課題に、世界のプレイヤーがチャンスを感じている様子がうかがえた。

特に盛り上がったテーマは、旅館について。日本への関心が高まるなか、旅館の特性に理解を示した上で新たな可能性に言及する姿が印象的だった。多くの課題を抱える旅館は、インバウンドの重要性を理解しつつも対応できなかった施設は少なくないが、そろそろ本腰を入れるべきタイミングといえそうだ。同セッションのトピックをまとめてみた。

日本の宿泊施設のオンライン対応

左から)モデレーターを努めたシュウ・フーン氏、アゴーラ・ホスピタリティーズの浅生氏、オークラニッコー・ホテルマネジメントの長谷部氏、ヒルトン・ワールドワイドの岩永氏

最初のパネルに登壇したのは、12のブティックホテルや旅館を運営するアゴーラ・ホスピタリティーズ(訪日客率55%)、国内外70軒以上を展開するオークラニッコー・ホテルマネジメント(同30~40%)、グローバルチェーンのヒルトン・ワールドワイド(同50~70%)の3社。各社の規模や扱う施設の形態は異なるが、訪日客の利用割合が高く、インバウンド対応の意識が高いのは共通だ。

まず話題となったのが、日本の宿泊施設が日本語版と外国語版の2つのウェブサイトを持つトレンドについて。アゴーラ・ホスピタリティーズCEOの浅生亜也氏は、「意図的なものではなく、追いついていないだけ」と、中小のホテル・旅館の状況を説明。

一方、オークラニッコー・ホテルマネジメントのように「中国では地図の表示にグーグルマップを使用できず、現地プレイヤーを利用する必要がある」(営業本部マーケティンググループ副部長の長谷部昌也氏)と、日本のインバウンドでメインとなるマーケットへの戦略として必要であることも説明された。

OTAとの関係性については、「ブティックホテルや独立系ホテルがグローバルに出ていくのは、今すぐには無理」(浅生氏)、「グローバルではスケールを出せないので」(長谷部氏)と、世界をカバーするパートナーシップとして重視していることを強調。とはいえオークラニッコー・ホテルマネジメントでは、「メタサーチを使って直接予約を増やそうとしている」とし、効果が出てきているともいう。

日本の宿泊産業が成長するための課題としては、「国内のホテル・旅館の約8割を占める旅館のプラットフォームづくりが早急に解決すべきこと」(浅生氏)、「システムインフラに対する大規模な投資とレベニューマネジメントの教育が必要」(長谷部氏)との見解。

同時に浅生氏は、「日本と海外との障壁を減らすこと。言語対応はもちろん、新しい文化を理解することも日本の宿泊施設がすべきこと」と述べ、自社の文化を守りながらも世界と向き合うべき時にあるとの考えを示唆した。


世界のプレイヤーの見解

左から)シュウ・フーン氏、エクスペディアのダイクス氏、トラストユーのリーガー氏、ファストブッキングのルーク氏

こうした議論を踏まえ、次のパネルではエクスペディア日本・ミクロネシア地区統括本部長のマイケル・ダイクス氏がOTAに対する認識について、「我々も新規の予約が必要であり、日本は非常に協調的なパートナーシップがある」と同調。

ホテルレビュー分析のトラストユー最高執行責任者(COO)ヤコブ・リーガー氏は、日本語と外国語の2つのウェブサイトを持つことに関連し、来日出張時に利用する常宿に「(海外で)オンラインでの直接予約はできない。OTAを通して」と言われたことを明かし、「需要が眠っているのだから対応すべき。日本はその重要性に気付いていない」と、率直な見解を示した。

さらに旅館については、アコーホテルズ傘下の予約システム、ファストブッキングCO-CEOのジョン・ルーク氏が、「旅館が活用されておらず、多くのチャンスが眠っている」と言及。「旅館とホテルは扱う商品が違うが、こうした旅館の特有な部分にフォーカスして伝えている(グローバルの)OTAはない」と指摘する。

これは、前のパネルで「訪日客4000万人の目標には空室が足りない。宿泊施設は何をすべきか」という会場からの質問に、浅生氏が「旅館の平均稼働率は60%。まだ4割使える客室をどうやって(海外の方に)見つけられるようにするか」と回答したことに同意を示して言及されたこと。

トラストユーのリーガー氏も、「旅館はまだレビューが付きにくい。レビューがないと予約が入りにくいので、利用客にレビューを依頼することも重要」とアドバイス。高級旅館と普通の旅館の違いが分からない外国人は多いので、そこを伝える必要がある」など、ビジネスで入り込む余地があることを示唆する。

ルーク氏は、旅館がチャンスを生かすには「商品を国外に出していくこと」とし、そのカギとして「外資系OTAを含め、旅行会社と連携して情報を得て」と提案。ただし、「自分たちが取るべき収益は確保し、第三者に取られないように」と言い添えた。


グローバルチェーンは自前のマーケットプレイス構築へ

このほか同セッションでは、世界規模で展開するグローバルチェーンのオンライン対応についても共有された。

日本のホテル運営会社は流通におけるパートナーシップを重視しているが、大手グローバルチェーンではホテルチェーンを買収してマーケットプレイスを拡大し、直販体制を強化。「今後、グローバルチェーンの強みはグローバルなプラットフォームを持つこと。これがビジネスの成功に繋がる」(ヒルトン・ワールドワイドのコマーシャルサービス、Eコマース日本・韓国・ミクロネシア・リージョナルディレクター、岩永拓朗氏)という考えだ。

ヒルトン・ワールドワイドは今年2月、「Stop Clicking Around」と銘打ち、オンライン直接予約を促すキャンペーンを開始した。「過去最大規模のグローバルキャンペーン。現在のところアウェアネスが増え、予約やアプリのダウンロードも増加している」と順調な展開を説明。それはアジア太平洋地域、日本も例外ではないという。

こうした動きにあわせ、岩永氏は同社がデジタルコンテンツを強化していることも明かした。昨年は同社のサービスをバーチャルで見られる3D動画を制作し、消費者のみならず、社内からもセールスツールに使えると評判が良かったという。今後はSNSに注目しており、「よりユーザーフレンドリーな体験を提供するためにSNS上でコンタクトを取っていく。そこで直接予約できるようなデジタル戦略をどう発展させるかが、顧客経験をリッチにするという意味で重要だと思う」と語った。


取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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