キーワードは「データ」、プロが語るデジタルマーケティングの未来を取材した

広告・マーケティング事業のクリテオ(Criteo)は先ごろ、デジタルマーケティングの未来を考えるイベント「クリテオ・ライブ東京」を開催。同社をはじめ、リクルートやトーマツなど、マーケティングやテクノロジー分野をリードする企業が登壇し、今後のデジタルマーケティングで起こる変化やその対応のヒントが語られた。

特に各セッションにわたって触れられたキーワードが、データ。マーケティングは本来、データに基づいて行なわれるものだが、なぜ今、多くの登壇者が言及したのか。消費の牽引者が変わり、テクノロジーが加速度的に進化していくこれからの時代に、データの重要性が増す理由と課題をまとめてみた。

マーケットの変化とテクノロジーの進化

基調講演に立ったクリテオの北アジア地域最高責任者兼日本取締役社長のグレース・フロム氏は、データマーケティングに注視すべき理由を3つの観点で説明する。

1つ目は、マーケットの変化。消費の主役が、常にオンラインに繋がっているデジタルネイティブのミレニアル世代(1980年~95年生)、そしてジェネレーションZ(1996年~2010年生)になること。2つ目は、Eコマースの変化。モバイルコマースと、ショッピングサイトのみならず、SNSやアプリなどオンライン上のあらゆるサイトで販売が行なわれるコンテクスチュアルコマースの台頭だ。

3つ目はテクノロジーの進化によるデバイスの多様化。特に、IoTでもたらされるウェアラブル端末は、2020年には世界で6.5億台になると予測する。

クリテオ 北アジア地域最高責任者兼日本取締役社長のグレース・フロム氏

フロム氏はこうした変化で、膨大な量のデータが生成されるようになると指摘。消費のピークを迎える両世代は、「オンデマンドでリアルタイムのサービスを低コストで受けるのが当たり前。待つことを嫌い、SNSで影響をコントロールできることも知っている。厳しい要求を持つ世代」だが、彼らを理解し、要求を満たすサービスを作るカギとなるデータも、彼ら自身がカスタマージャーニーの様々なタッチポイントで自ら生み出しているという。

また、モバイルをはじめ、各デバイスやデジタルサービス、プラットフォームなど、これまでない規模でデータが生成され、購入履歴などより詳細なデータが時間を問わず、いつでも作られるようになった。さらにウェアラブル端末が一般的になれば、日々のルーティンから位置情報、健康面、視線の動きを追跡するアイトラッキングなどを含むきめ細かな新たな行動データが爆発的に入るようになり、「顧客を2次元から3次元で見ることができるようになる」とも語る。

しかしながらフロム氏は、今後10年間は生き残るために重要なものは「顧客との関係構築にかかっている」と、これまでと変わらないことを強調。そのためには、テクノロジーで膨大なデータを駆使し、要求度の高い顧客を満たすカスタマーエクスペリエンスを作り出すことが重要であり、その準備をすべきだと訴えた。

発表資料より

爆発的に増えるデータと現場が抱える課題

しかし現場では、マーケットやデータの急激な変化に追いつけていないというのが現状のようだ。パネルディスカッションのセッションに登壇した日本航空のWeb販売部1to1マーケティンググループ主任の小川拓也氏は、その一つに、社内体制のマーケティングやデータ管理の部門がそれぞれ分かれているとし、現行の「組織の壁」を課題にあげた。

ビー・エム・ダブリューのCRMのシニア・スペシャリストである石澤信氏も、カスタマーエクスペリエンスやCSの向上を目指していても、「デジタルデータと対面販売で得たリアルのデータを繋ぎこむ接点が難しい」と、CRMとマーケティングが直結できない難しさをあげる。

デロイトトーマツコンサルティングで企業のデジタルマーケティング戦略を担当する岩渕匡敦氏は、「課題はカスタマージャーニーのまたがったところにある」と、機能を横断的に管轄する組織や会議体を作る必要性を提言。「もし、各部署がKPIや数値目標だけを捉えようとすると、顧客からは煩わしい印象を与えるだけになる」と注意する。

モデレーターを務めたコンデナスト・ジャパンのデジタル・カントリーマネジャーの新井良氏も「組織的な問題はかなりある」と同意。「データはさまざまな部門にまたがっているので、それを束ねるCDO(チーフ・データ・オフィサー)のような責任者を配置しなければ解決できない」と提案。これからのマーケティングは専任者だけではなく、全スタッフが関わる時代になることを示唆する。

左から)コンデナスト・ジャパンの新井良氏、デロイトトーマツコンサルティングの岩渕匡敦氏、日本航空の小川拓也氏、ビー・エム・ダブリューの石澤信氏

AIがマーケティングを広げる

データマーケティングを取り巻く現状に対し、新たな展望を示したのが、リクルートでAI(人工知能)を研究するRecruit Institute of Technology 推進室室長の石山洸氏のセッションだ。

石山氏はAIによって、マーケティング戦略の4つのP(Price、Place、Product、Promotion)に、5つ目の「Programmable(プログラマブル)」が加わると提言。「今まで、デジタル化されずにプログラミングできなかった世界にビジネスチャンスがある」と呼びかけた。

例えば、データにAIを入れて最適化するという考えもあるが、石山氏は「データ化されていないものをデジタル化し、AIを投入して誰も作ったことのない付加価値をいち早く実現することが大切」という。

クルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室室長の石山洸氏

一方、AIによって、人もプログラマブルになることも強調。つまり、AIを扱うツールがあれば、誰もがAIを使ったプロジェクトを担うことができるようになる。石山氏は「データ専門家10名で50のプロジェクトを行なうより、AIを扱うツールによって500名の全社員がプロジェクトを回す方が強いのは明らか」とAIが及ぼす影響を強調した。

実はリクルートでは2015年11月、予測モデルの自動生成サービスを手掛ける米国のデータロボット社に出資しており、そのサービスを導入。半年間に実施した予測モデルがデータロボット経由だけで3000超に及んだという。

石山氏は「様々なものにAIが導入され、すべての人が扱うことで、スケーラビリティの高い新たな付加価値を提供できる」と言及。これから大量に生成されるデータを、AIを通して多くの人が扱うことによる可能性を示した。

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取材・記事:山田紀子

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