ブッキング・ドットコム日本統括部長に2017年の戦略を聞いてきた、民泊新法の成立後は世界の先行事例がヒントに

2009年の日本オフィス開設以降、インバウンドの増加とともに日本市場での存在感を高め続けているブッキング・ドットコム(Booking.com)。国内の拠点は5か所に拡大し、昨年末には1万軒と掲げた掲載施設数の目標も達成した。世界大手OTAのスケールと同時にクオリティを重視した戦略で拡大してきた同社の日本地区統括部長のアダム・ブラウンステイン氏に、2017年の事業展開を聞いてきた。

旅館の取扱軒数が約2割、インバウンドの窓口に

ブラウンステイン氏は2016年、日本が世界の旅行ビジネスで重要なマーケットになったとの認識を示す。その理由は2つ。1つはインバウンドの増加。もう1つは、オンライン予約で旅行する日本人の増加だ。

同社も日本市場を重視する姿勢は同様。同氏は昨年を「これまでになく、旅行でオンラインやテクノロジーが使われた年になった。オンライン予約が浸透したことはブッキングドットコムにとって大きい」と、利益を享受しやすい市場構造になってきたことを振り返る。2016年は、日本人の国内施設の利用実績が初めて用が海外の予約数を上回るという変化もみられた。

こうした中、ブッキングドットコムでは2016年、“ハイクオリティ”を重視し、取扱数を拡充してきた。同社のクオリティとは、ラグジュアリーからバジェット(予算重視)ホテルまで、目的や予算など様々なニーズに対応できる宿泊を提供できること。それをカバーできる選択肢を広げることが重要だという。

例えば、旅館。ブラウンステイン氏も、「訪日旅行者は旅館の宿泊を望んでいる。旅館は日本文化であり、日本に来た特別感を味わっていただける」と、訪日客の利用が多い同社にとって重要な商品であるとの認識だ。現在、旅館は取扱施設数の約2割まで広がり、「堅調に成長している」とアピールする。

施設数を増やしていくにあたり、地域としては外国人のニーズが高いゴールデンルートだけでなく、金沢や群馬など、大都市圏から離れた“セカンダリーマーケット”を強化する。「我々を介することで、ユーザー側にも発見となるようなハッピーを作りたい」とし、今後は小さな都市の旅館についても掲載数を増やしていく考えだ。


外資OTAの視点を強みに

ルームチャージ(室料)が基本の海外ホテルとは異なり、旅館は1泊2食付きの料金設定。食事も体験の一つであり、それを売りにしている旅館も多いが、食事のないホテルよりも高額な印象となる。料金体系からサービスまで、旅館文化に馴染みのない外国人に販売する際にはそれらを伝える工夫が必要になる。

これについてブラウンステイン氏は、「旅館での経験の説明は、ユーザーが正しい選択をするために重要」と理解を示す。特に食事の情報は大切との認識で、検索後の施設一覧ページには「1泊2食付き」「朝食込」を、一目でわかるように表示したり、各施設のページでは写真も多用。正しく伝えるための取り組みをしていることをアピールする。

また、世界各国に顧客を持つ外資OTAとしての強みもある。外国人は連泊も多いため、初日に感動した10品も出る懐石料理の夕食は、2泊目、3泊目には飽きてしまうこともある。「そんな意見を旅館とシェアすることで、品数を減らしたり、提供時間を短くするなど、クオリティを落とさずにおもてなしを変えることもできる。ブッキングドットコムを通して予約してもらう価値を、旅館側にも感じていただきたい」と、外国人のニーズや視点を知るからこそできるフィードバックなどで貢献できる点を強調した。


民泊新法の成立後は?世界の先行事例がヒントに

img_90112017年は民泊の新しい法律が制定され、日本の宿泊マーケットで大きな動きが起こる。ブッキング・ドットコムではどのような方針なのか?

ブラウンステイン氏によると、全世界で扱う100万軒以上の施設のうち、約半数が日本で民泊と呼ぶ個人所有の別荘やアパートメントなどの物件。そんななか、日本での民泊施設の掲載については、これまでも法令の遵守を基本としてきた。今年の新法制定を前提に、カスタマーファーストを基本方針とするブッキングドットコムとしては、「(ユーザーの)民泊カテゴリへの興味に対応していく」と話す。

一方で、2020年までに4000万人とするインバウンドの政府目標に対し、国内の宿泊施設が数・種類の両面で不足していることも指摘。「訪日外国人が安全で手ごろな価格で施設を見つけられるよう、政府も考える必要がある。訪日外国人のみならず、日本人の国内旅行者も十分に楽しめるためには、今の国内の宿泊施設の状況は数もバラエティも不十分」との見解も示す。新法の規定の内容にもよるが、「新しいものにはチャンスがある。何がユーザーに必要とされているのか、情報を集めて見極めていく」考えだ。

現在、ブッキングドットコムでは世界100か国以上の国で、民泊物件を販売している。その取扱い方法は地域によって異なる。日本での取り扱いについては、新法に従っていくことになるが、ブラウンスティン氏は同じアジアマーケットとしてシンガポールの例をあげた。シンガポールやインドネシアでは、同社は物件掲載の契約はPMC(プロパティマネジメントカンパニー)と呼ばれる運営・管理の事業者と契約しており、「日本でも同じような形式になるのではないか」と見ている。仕組みとしては民泊オーナーが個人レベルで契約することも可能だといい、今後の動きに注目したい。

BtoB事業を強化、テクノロジー活用とコールセンター

近年注力してきたBtoB事業は、今年もさらに強化する。まず、法人のビジネス渡航向けプログラム「Booking.com for Business」は、グローバル規模で注力する分野だ。大都市で1泊の旅行形態はビジネス目的が多い。需要は大きいが、「特に中規模の会社では予約がとりにくく、いろいろな方法を模索しているように思う」といい、そこにチャンスがあるとみている。

また、2016年下期に開始したばかりの旅行会社向けの「Booking.com for Travel Agents」も強化する。「旅行会社は中小企業が多く、十分に能力を発揮できていない場合もあるだろう。我々のプロパティやイベントリーを使用することで、使用する旅行会社の未来が広がることを伝えたい」。

そして最も力点を置くのが、宿泊施設向けの「BookingSuite」だ。世界各国でも順調な推移だが、「中でも日本は大成功を収めている」と好調。特に宿泊施設に最適なプライシングを簡単にできる機能「Rate Manager」の販促を強化していく考えだ。

テクノロジー会社でもあるブッキングドットコムは、今話題の人工知能(AI)やバーチャルリアリティ(VR)の研究開発も進めている。本社アムステルダムのITチームで専門チームを設けており、「我々フロンドエンドの人間とマッチする部分を考えなくてはならない。来年の今頃には、PCやスマートフォンで行なっていた旅行の部分をVRのディスプレイに代わることもあるかもしれない」と、期待を含めて展望する。

ただし、AIやテクノロジーを多用することになっても、人が行なうコールセンターは「我々の戦略のキーポイント」としてサービスを減らすことは考えていないという。アジア太平洋、特に東南アジアではコールセンターの数やスタッフを増やす計画も。同社では、国内拠点の拡大なども急ピッチで進めており、投資の手を緩めない。今年も外資系OTAの代表格として、日本での存在感が高まりそうだ。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫


記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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