AI・チャットボットで変わる旅行の未来、世界のプレイヤーから予測される変革まで議論をまとめた【コラム】

こんにちは。ベンチャーリパブリックの柴田です。

皆さん、Travel Massiveをご存知ですか? 世界63カ国、135の都市にまたがる約3万人が登録するトラベル・ツーリズム分野に特化した世界最大級の人的ネットワーク・コミュニティーで、いま世界中で急拡大を続けています。

先月、シンガポールと東京で時期を同じくして全く同じテーマでワークショップが開催されました。そのテーマは“AI・チャットボットが変えるトラベルの未来”。

メディアでも毎日のように取り上げられている話題のテーマということもあって、2つのワークショップはともに大盛況でした。今回はこのワークショップでのパネルディスカッションで実際に繰り広げられたやりとりの一部を僕が感じたことも交えてQ&A形式で共有したいと思います。

パネルに登壇したのはFacebook、JAL、IBMなど。2つのイベントで合わせて計8人となりました。

論点1:トラベル業界でAIやチャットボットを活用したサービスとして実際に成功している具体例はあるのか?

Travel Massive ワークショップの模様

Facebookアジア太平洋のMatt Hullen氏によると“Snap Travelが近いのではないか”と。SnapTravelはFacebook Messenger上でのモバイルチャットサービスを使い、サービス立ち上げ後9ヶ月で1億円規模以上のホテル予約実績を生み出したとのことです。

一方で、僕の見立てだと、SnapTravelは別として、世界を見渡しても実際の成功例は未だほとんど皆無と言っていいように思えます。(特に本当に人工知能を活用している例としては)

論点2:今、世界のどんなトラベルプレイヤーが既に実際AIやチャットボットを使ったサービスの運営を始めているのか?

SnapTravelの他に、海外ではSkyscanner、Expedia、Hipmunkなどが実際にサービスを開始している模様。国内では今回、話を聞いたJAL(後述する“マカナちゃんプロジェクト”)、Reluxなどがあります。但し、どこも未だβ版、α版のレベルと見受けられるのと、人の力でなくAI・マシンラーニングの力をどれだけ利用しているか?という点では、未だかなり限定的との印象です。(そもそも今は、ユーザーがこれらのチャットサービスを使いたいと思ってもネット上なりスマートフォン上なりでみつけ出すのすら意外に難しい現実がある)

論点3:AI・チャットボットはトラベルビジネス・カスタマージャーニーのどの部分で大きな変革をもたらせそうか?

ここは意見が分かれます。PhocuswrightのシニアアナリストDouglas Quinby氏は“カスタマーサービス”部分はほぼ間違いなく、早期に、AIを活用したチャットボットサービスにて変革がもたらされるだろうと話しています。

一方で、タビ探しや予約部分は、少なくとも早期に大きな改革がもたらされることはなさそう。現状、ネット上で旅行を予約する時のインターフェイスとしては、殆どのケースで“検索”の方が便利だと考えられます。

検索の“一覧性”、“網羅性”にチャットサービスが勝るのは少なくとも短期的には難しいのでしょうか?

論点4:国内でAI・マシンラーニングを活用した旅行系サービスを実験的に立ち上げたJAL。1ヶ月の期間限定で実現させた“マカナちゃんプロジェクト” の舞台裏とは?

“マカナちゃんプロジェクト”は「赤ちゃん連れのハワイ旅行を検討・企画しているユーザーからの質問に対してAIのバーチャルアシスタントが答える」というサービス。IBMのWatsonを活用した。「赤ちゃんでもパスポートは必要?」といった質問でも沢山の言い回しがあるため、こうした1つの質問に対しWatsonに約6,700通りの言い回しを使って学習させる必要がありました。学習のための元データはコールセンターにくるユーザーからの問い合わせデータを活用しています。

他にも下記のようなポイントを中心に議論は尽きませんでした。この分野、あらためてまだまだ知るべきこと、考えるべきことがひたすら多いと強く感じさせられました。

この分野は大きな資本力、強いエンジニアリング(開発)力、膨大なデータを持っている企業のみが勝ち組になるのか? (KAYAKのCEO Steve Hafner氏が昨年末に指摘)
チャットサービスはメッセンジャープラットフォームの上で展開されるがFacebook、LINE、Wechatなど複数のプラットフォームが存在する中でどう展開していけばいいか?
AIをフルに活用したチャットサービス(vs. 人による対応をメインとしたチャットボットサービス)はメインストリームになりうるか? その要件は?
チャットボットサービスを立ち上げ・運営していくためにはどれくらいのリソースや運用体制が必要か? どういう組織をつくるべきか?
いまトラベル領域にてAIが最も現実的に活用できそうな分野は何か?
アムステルダムで行われた業界イベント「Phocuswright/WIT Europe」で登壇中の柴田氏

Travel Massiveに登録している人は、OTAや旅行会社、ホテル、エアライン、DMOなどで仕事をしている人からトラベルブロガーまで幅広く、好奇心旺盛で人的交流に積極的な若い世代が多いのが特徴。年400回を超えるイベント(交流イベントやワークショップ)が世界各地で開催されています。東京でも、すでに500人以上の会員がいます。この組織を立ち上げた創業者CEOのIan Cumming氏が友人であることもあり、僕は当社でシンガポールと東京の組織を他のボランティア・リーダー達と一緒に運営しています。

とにかく熱い、このテーマ。こうしたヒントをもとに、6月9日開催予定のWIT Japan & North Asiaでも急遽プログラムに組み込むことに決定しました。興味ある方はぜひ会場にお越しください。

今年の「WIT JAPAN」は、東京にて6月8日から2日間の開催だ
柴田啓(しばた けい)

柴田啓(しばた けい)

ベンチャーリパブリック グループ代表。シンガポール、東京を拠点として、旅行比較・メディア「トラベルjp」、チャットによる出張手配サービス「トラベルjp for Business」、グローバル旅行メディア「Trip101」を運営。デジタルxトラベルがテーマの国際会議「WIT Japan & North Asia」実行委員長、ベンチャー三田会会長なども務める。アジア太平洋地域にてトラベルスタートアップへのエンジェル投資も手がける。

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