【速報】今年の「WIT Japan 2017」、業界リーダーらが語った成長への変革、小池都知事のメッセージからANAの新チャレンジまで

オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan 2017」のメインカンファレンスが、2017年6月9日に開催された。今年で6回目となるWIT Japan。今年も国内外で勢力を広げるオンライン旅行会社(OTA)やメタサーチから、航空、ホテルなどのサプライヤーやディストリビューター、参入が続くタビナカ、決済、民泊などの新サービスまで、オンライン旅行業界を動かすプレイヤーが登壇し、最新情報や業界リーダーの知見が披露された。毎年恒例のカンファレンスとして定着した感があるが、今年も未来に向けた転機を思わせる発言が随所に光っていた。各種詳細は後日レポートするが、まずはおおまかな流れや注目のポイントを速報する。

開幕のあいさつには、東京都の小池百合子知事がビデオメッセージで登場。小池氏は東京を、江戸時代の歴史文化から最先端テクノロジーが融合する「オールドミーツニュー」を体現する首都・メガシティと表現し、あらゆる世代が楽しめる宝物が詰まった都市としてアピール。「未来の宝物を見出していただきたい」と、観光ビジネスへの期待を語った。

また、「どこでも自由に行けて安心できる、イノベーションを活用した東京の楽しみ方を創っていきたい」とも述べ、観光の利便性向上に向けたテクノロジー活用に、積極的な姿勢を見せた。

今年のWIT Japanのテーマは「reimagine(再想像)」。本会議では国内外の業界リーダーが登壇し、加速度的に変化する旅行市場に対する認識や取り組みを語り合った。

例えば、LCCピーチ・アビエーションCEOの井上慎一氏。フルサービスキャリア(伝統的航空会社)の全日空(ANA)から、国内初のLCCへと変革するための当時の戦略は、「ANAの逆を行く戦略」だったと、当時の再想像を振り返った。

LCCピーチ・アビエーションCEOの井上慎一氏

「かわいい」をブランドコンセプトとし、ターゲットを若い女性に設定。「全く違う旅をしている若い世代がピーチに乗ると、また新しい旅が生まれる」と話し、旅行スタイルの変化の推進役を同社が担っている自負を語った。

また、イノベーションを起こす要素として、採用を重視していることも説明。多様な経歴と国籍を集めるダイバーシティの導入が日本企業の慣例を崩し、成功につながったことも説明した。

若い消費者が変革を主導する点については、フォーカスライトのMaggie Rauch氏も指摘。各種データとともに、モバイルを使いこなす若者の旅行予約の半数以上がモバイルに移行している点や、全宿泊予約の2割に迫る民泊では若い世代が牽引していることをあげ、彼らが消費の中心になる時代が迫っていることも進言した。

フォーカスライトのMaggie Rauch氏

注目はテクノロジー、ANAが原点回帰で発想したトランスフォーメーション

さらに、テクノロジーの進化と活用に関するコメントや発表が多かったのも今年の特徴。例えば、ピーチ井上氏に「逆を行く」と指摘されたANAは、テクノロジーを活用した新構想「ANA AVATAR X PRIZE」を発表した。

航空会社の定義を「人と人の距離の橋渡しをする会社」にまで回帰し、アイディアと最新技術を組み合わせて発想したもの。ロボットやヴァーチャルリアリティ(VR)、遠隔存在(テレイグジスタンス)などを用いて、時間や距離などの制限に関わらず「移動」できる技術の実現を目指す。

具体的には、医師不足の地域や人が入れない災害現場で、テクノロジーの活用による分身的なアバターでの対応などで、社会課題の解決に繋げるというものだ。ANAのデジタル・デザイン・ラボ・イノベーション・リサーチャーの梶谷ケビン氏は、「航空業界はディスラプション(破壊的イノベーション)が起きにくいが、あえて前提を覆して使命を再定義した」と、発想の原点を語った。既成概念を取っ払った再想像で、航空会社・ANAに新たな領域への扉を開いた試みといえる。

ANAは同構想をテーマに、世界の課題解決を目的にイノベーションを促す非営利財団「XPRIZE」の国際賞金レース(ビジネスコンテスト)のテーマ募集コンペに応募。2017年度のテーマに採用されたという。「XPRIZE」には、月面への民間ロボット探査機着陸を競う“Google Lunar X PRIZE”(Google社がスポンサー)などがあり、日本でも話題となっている。

ANAデジタル・デザイン・ラボの梶谷ケビン氏と深堀昴氏

このほか、今年はAI(人工知能)やチャットボットによる旅行サービスの変革に関するコメントも多く、AIワトソンを提供するIBMのワトソン・カスタマー・エンゲージメント事業部長・樋口正也氏が、改めてAIの概要と活用事例を説明。旅行業界での可能性と活用のヒントを語った。AIによって、人の仕事の置き換えられる職業などが話題になっているが、樋口氏が特に強調したのは、AIは人の人の代用ではなく、人の力を拡張するものであること。特にレビューや顧客対応で膨大で多様なデータのある旅行では、AIが発揮できる可能性が高く、その分、新たな旅行サービスの創出に繋がるという。

また、WITの日本開催で人気の日本OTAのセッションは、今年も活況。今年は楽天やじゃらん(リクルート)、i.JTB、一休に加え、新たにオンライン旅行事業に参入したKDDIとreluxも登壇し、ビジネス現況から市場展望まで語られた。詳細は後日記事で紹介する。

来年からWIT Japanは新時代へ、より良い旅行をテクノロジーで

WIT創設者で進行をつとめたイェオ・シュウ・フーン氏は終幕のあいさつで、「北アジアの旅行業界を再生するオンライン旅行はロケットのごとく急進し、これまでにない変化を起こしている」と議論を振り返り、「誰もが再想像しなければならない」と、WITの議論を締めくくった。さらに、「対面会議が必要だから今、私たちはこの場にいる。人と人が会うことが旅行の魅力でもある」と述べ、BtoBにおけるリレーションシップの変わらない重要性を強調した。

なお、WITは13回目となる次年度から、新サイクルに入ると説明。テーマを「Better Travel」に設定し、2017年10月23日~25日に開催する本拠地シンガポールから新展開を開始する。シュウ・フーン氏は「より良い旅行を、より良い商品とサービス、経験、テクノロジーで届けたい。今、世界はこれまでになく分断しているからこそ、旅行が必要」と語り、WITで知識とテクノロジー、創造力を集め、世界を調和の場にしていくことを呼びかけた。

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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