米政府、国際線旅客の顔認証を本格化、2018年から出国者への試験導入を検討

(提供:AP通信)

米国政府は、国際線旅客を対象に、顔データ認証による本人確認の義務付けに着手する。AP通信によると、2018年から出国者を対象とした試験導入を検討。米国市民も対象となるため、プライバシー擁護派からは「監視社会への一歩だ」との批判も出ているようだ。

米国ではすでに2004年、生体認証による旅行者の本人確認への移行が法律で決まっているが、現在、義務付けられているのは、外国人旅行者が米国に入国する際の写真および指紋データ記録のみ。出国時には、生体認証データのスキャンは一切、行われていない。米国市民は、入国、出国いずれの際も対象外だが、パスポートに搭載されたマイクロチップに画像と個人データが入っている。

米国土安全保障省(DHS)では、まず出国手続きで顔認証を導入する計画。これにより、不法な滞在延長の把握やセキュリティ強化に役立つと期待する。しかしプライバシー擁護派は、権限の範囲を超えるものだと非難。「議会が承認したのは、外国人の生体認証スキャンのみ。DHSはあらゆる旅行者を対象にするといっており民主主義のあり方に反する」とジョージタウン大学プライバシー&テクノロジー・センターのエグゼクティブ・ディレクターアルヴァロ・ベドヤ氏は指摘する。

生体認証の実用化への取り組みは、ボストン、シカゴ、ヒューストン、アトランタ、ニューヨーク(ケネディ国際空港)、ワシントンD.C.(ダレス国際空港)の計6空港で、オバマ政権時代に始まった。DHSでは次の段階として、2018年以降、海外からの利用者が多い空港で、顔認証データを使った出国者の本人確認の試験導入を目指す。

試験段階では、任意での協力を求めるとしているが、実際にプログラム運用を担当する税関・国境取締局(CBP)は「生体認証データ提供を避けたいなら、海外旅行に行かないこと」との考えで、拒否できるのかは不透明。顔認証データは原則として14日以内に消去するが、CBPでは、将来的には一定条件下で保存する可能性も否定していない。

プライバシー擁護派は、こうした施策は、警察、連邦政府、あるいは外国政府などが米国人旅行者の顔データをチェックする体制につながりかねないと警戒。DHSや航空会社に対し、将来的なプランまで完全に明らかにすること、米国民には、顔認証データ提供を拒否する権利を認めることを求めている。公権力による情報の乱用に加え、ハッカー攻撃なども不安材料となっている。

CBPによると、米国市民を対象に加える理由は2点。米国市民と外国人に分けて搭乗前審査を行うのは現実的ではない。また、他人のパスポートを使っていないか確認ができる。テクノロジーを最大活用する利点はあるが、顔認証については、誤審査が多いという問題点も。専門家からは、最新のシステムでも5~10%の確率で間違えるとの指摘があり、搭乗手続きの遅延も懸念される。

一方、システム整備や人員配置の増加に伴う予算確保の問題もある。DHS側は、生体認証データ導入により、業務の効率化が図れる航空会社の協力を期待している。すでに実施しているパイロット・プログラムに参画するデルタ航空とジェットブルーは、本人確認には役立つテクノロジーとしており、デルタでは荷物取り扱いの迅速化、ジェットブルーではボーディングパスが不要になる、などのメリットを挙げている。

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