宿泊業の「働き方改革」でやるべきことは? 旅館に特化した研究で「10のキーワード」を公開 -リクルート

リクルートは、宿泊業での働き方改革を題材にした研究結果を発表した。今回の研究は、宿泊事業の中でも旅館業に着目。改革によって生産性向上の伸びしろが大きい業種であるとして、持続的な経営を実現する10のキーワードをまとめた。このキーワードは、先進的な取り組みを行う旅館らの活動調査から提言を発表したものだ。

発表説明会に登壇したリクルートワークス研究所研究員の城倉亮氏は、旅館に特化した研究をした理由について解説。旅館業が生産性向上に向けたイノベーションが起こりやすい事業であること、典型的な労働集約型ビジネスであり家族経営の形態が多いこと、IT活用などが浸透していないことから改革の余地が多い業種であることなどを理由に、旅館にフォーカスした研究を行ったという。インバウンド需要が拡大する中で、全国の旅館数は減少している実態があり、日本の観光業の中で重要な役割を果たす旅館の働き方改革が重要であると唱えた。

また、研究結果では、旅館業の大きな課題のひとつとして人手不足対応を挙げ、それを「業務改革」と「人事改革」の両面で働き方改革としてすすめることを提案。生産性の向上と従業員の働く意欲を高め、10のキーワードからストーリーを作り取り組むことが重要としている。

さらに、城倉氏は、10のキーワードを活かす重要なポイントとして「部分的な対処をしないこと」とする。一連の関連性をもってキーワードをつなぎ合わせ、旅館の規模やサービスの特性にあわせたストーリー(仮説)を作成していくことが働き方改革や経営改善につながるとの考えを示した。

発表された10のキーワードは以下のとおり。

1. タスクの再構築

1人1人の業務レベルの見直し、職務を分解・再編し付加価値を生む業務に再編する。また、タスクをテクノロジーの代用で効率化を進め、時には顧客にとって付加価値とならないサービスや業務も判断して廃止する必要性も。

2. IT・テクノロジーの活用

IT化、AIやロボットによる業務代替を進め、効率化とサービス向上や付加価値の提供を実現する。無駄な業務を効率化することで、顧客接点の時間が増加し、付加価値につながる情報の蓄積が期待される。

3. 安定稼働

限られた人材を最大現活用し、業務稼働を安定化する仕組み・体制を導入する。そのために、定休日を設定して成功している旅館の事例もある。低稼働日の運営コストを削減するとともに、従業員の休日・休暇をとりやすくし、働きやすさの向上につながる期待ができる。

4. サービスの価格反映

IT活用などによる顧客管理でニーズを正確に把握することで、設備投資や料理メニュー改善を実現しサービス価格に反映する。これによって従業員の働きがいややりがいが向上することが期待できる。

5. 情報公開による誘客プロモーション

施設の評判を作り上げるために、メディアやSNSを最大限に活用した情報発信を行う。

6. 賃金の引き上げ

従業員の評価基準を「見える化」するなどで、賃金評価への納得感を持ってもらう。年収が他産業に比べて低いという現状の中、サービスレベルにあった賃金への引き上げも実施すべきで、働く意欲向上と顧客満足につながる。

7. 労働時間の圧縮

旅館では、1週間あたりの労働時間が長く、勤務時間を自由に選ぶことができない割合も低い。ワークライフバランスがとりにくい実態から、総労働時間の圧縮や労働時間の柔軟性を高めることで、多様な人材が持続的なキャリア形成ができる環境が望ましい。

8. 人材ポートフォリオの構築

現在は、勤務時間帯などの問題から他産業に比べて配偶者を持たない現場スタッフが多いことも現実。配偶者や子供を持つ人、シニア、外国人など多様な人材が働ける短時間勤務など雇用・就業体系で働ける仕組みを。

9. プロ人材の育成

総労働時間の圧縮などによって、時間を生み出し、計画的な教育研修の機会を作る、

現状では、OJTや研修を受ける機会がなかったスタッフの割合が高いのが実態だが、こうした教育などの機会によってプロを育成することで、サービス向上や定着率向上につながる。

10. 企業間・地域間のネットワーク化

個別の旅館や地域の枠を超えて、複数事業者が協力・提携することでリソースを効率的に活用する。規模が大きくなれば、共同購買やITシステム構築などへの投資も効率的になる。

リクルートワークス研究所では、これら10のキーワードを実際の旅館経営者らに勉強会などを通じて公開している。参加者らから関心が高かったのは、「タスク再構築」「ITテクノロジーの活用」「賃金引上げ」など。「サービスの価格反映」や「人材ポートフォリオの構築」「企業間ネットワーク」などは注目度が高くはない状況だったという。

なお、今回の研究に際して先進事例として研究された旅館は、「元湯陣屋」(神奈川県・鶴巻温泉/客室数20室)や「ばさら邸」(三重県・賢島温泉/18室)など。業界でも有名となっている新たな改革を推進している旅館の業務が研究された。

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