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航空機で提供する「和食」の変化と欧州事情、KLMオランダ航空で機内食を考案するミシュラン料理店シェフに聞いてきた【コラム】

2018年 5月 26日 カテゴリ:コラム , ニュース , 航空

こんにちは。機内食コラムを担当する旅行・グルメライターの古屋江美子です。

いまや世界中で人気の和食ですが、2008年からすでに約10年間、日本路線で本格的な和食を提供している航空会社のひとつがKLMオランダ航空(KL)です。日本路線のビジネス・エコノミークラスの和食を考案するのは、ヨーロッパで初めてミシュランの星を獲得したホテルオークラ アムステルダムの日本料理店「山里」。先日、来日した同ホテルの和食部門総料理長である富川正則シェフに、この10年の現地の和食や機内食の変化について聞きました。

ヨーロッパで初めてミシュランの星の評価を得た日本料理店とは?

KLMオランダ航空の日本路線の和食メニューを2008年から考案しているホテルオークラ アムステルダム「山里」。オープンはホテルの開業と同時の1971年。当時はまだヨーロッパで本格的な日本料理を出す店は皆無といってよい状況でした。

オープン当時は和食に使う食材も手に入りづらく、当時の料理長は片道500キロも離れたパリの市場まで買い付けに行くこともあったとか。また、椎茸やナスなど当時オランダにはなかった野菜を現地農家の協力のもとで生産するなど、本場の味を提供することに力を注いできました。

そんな努力の甲斐もあって、2002年には和食レストランとしてヨーロッパで初めて、ミシュランの一つ星としての評価を得ることに。オランダでは唯一のミシュランの星の評価を得ている日本料理店であり、地元の人にも愛されています。

ホテルオークラ アムステルダム 和食部門総料理長 富川正則シェフ

若いカップルもミシュラン店で気軽に日本料理を楽しむ時代に

富川シェフは、「山里」がKLMオランダ航空の機内食を考案しはじめた2008年当初から、当時の料理長とともにメニュー開発に携わってきました。その約10年を振り返ると、オランダやEU諸国における和食を取り巻く環境は大きく変化したといいます。

変化のひとつは、現地で和食の食材がぐっと入手しやすくなったこと。「たとえば以前は鰹節を持ち込むことが規制で難しく、出汁をとるのも苦労しましたが、今はスペインやフランスでも鰹節が作られています。また、2014年にはEUへの和牛輸出も解禁されました。和食に使う野菜や魚も週に1回日本から届き、使える食材は日本とほとんど変わらなくなってきています」と富川シェフは話します。

それだけ現地で和食が浸透しているということですが、「山里」のお客さんも9割以上がローカルの外国人。とくに金曜や土曜の夜はカップルが多く、日本食に親しむ若い人たちが非常に増えているそうです。日曜のランチはファミリーの姿も目立つそうで、日本食は幅広い世代に受け入られている様子。これはオランダだけでなくEU全体にいえることだそうです。

ちなみに「山里」では寿司や刺身も味わえますが、ほとんどのお客さんは日本語を使って注文しているそう。「英語は使わず、“まぐろ”や“トロ”と注文されますね。みなさんが決まって注文されるのは“中トロ”です」と富川シェフは笑顔を見せます。

もうひとつ大きな変化が、和食の繊細な味付けが現地で理解されるようになってきたこと。「以前は『お吸い物の味が薄い』といわれ、醤油を足したこともありましたが、今は本来の日本食と味に差をつけていません。日本を旅したことがある人が増え、オランダをはじめヨーロッパでも本来の日本の味が受け入れられるようになったのでしょう」と富川シェフ。ある意味、ごまかしがきかなくなったともいえますが、本物の日本料理が真価を発揮できる時代がきたともいえそうです。

富川シェフ考案の日本路線ビジネスクラスの和食前菜。器はマルセル・ワンダースのデザイン。美しいも盛り付けは、「山里」の料理にも通じる

 

パサパサしがちなご飯をしっとりさせる工夫

 KLMオランダ航空の和食機内食も10年で進化してきました。ただ、和食の食材が手に入りやすくなったとはいえ、機内食では使える食材には制限があり、コストも限られるので、「山里」で使える食材がすべて使えるわけではありません。また、機内では気圧や湿度の関係から味覚がにぶくなったり、サーブのタイミングによっては出来立てがすぐに出せなかったりすることもあります。

この10年間、機内食に対する指摘で一番多かったのが、ご飯に対するものだったそうで、「乾燥している機内では、ご飯はどうしても乾いてパサパサになりやすい。そこで、白いご飯ではなく炊き込みご飯にして、上に具を置くことで乾きづらいように工夫しました」と富川シェフ。現在、東京発のビジネスクラスでは、春を感じる筍ご飯が提供されています。

食材を乾燥させない工夫はほかにもあり、たとえば、焼いた鮭には緑鮮やかな木の芽味噌をのせることでパサつきを防止。出汁をきかせた肉餡を包んだ白菜ロール巻きも、白菜で包むことでしっとり感が保たれていました。喉が渇きやすい機内では、茶わん蒸しのような舌触りのなめらかな料理もうれしい一品です。

「日本人の持っている味覚をなるべく出せるような盛り付けや味付けを心がけています。料理のなかには五味ともいわれる、甘味や酸味、辛みなどを取り入れ、味にアクセントをつけてバランスよく仕上げることを意識しています」と富川シェフ。実際、今回のメニューでも、木の芽味噌の爽やかな風味や明太子の辛みなど、日本らしい食材が、味にめりはりをつけていました。

「普段はレストランで働いているので機内のお客様の顔は見えませんが、おいしかったというコメントをもらえると監修をしていてよかったと思いますね。今後はさらに季節の食材を使い、より季節感が表現できたらいいなと考えています」と意欲を見せます。

日本路線ビジネスクラス和食の主菜。手前は炊き込みご飯。筍、人参、えんどう豆、どんこ椎茸旨煮をのせて乾燥を防いでいる

新ミールサービス「Anytime For You お好きな時に」も開始

 なお、KLMオランダ航空では、2018326日から成田発―アムステルダム便のビジネスクラスで、好きな時間に好きな料理を味わえる新ミールサービス「Anytime For You お好きな時に」をスタートし、好評を得ています。こちらは富川シェフ監修の和食、または洋食のコースの後にプラスアルファで楽しめるメニューで、日本の乗客の好みに合わせて考案された料理4種、デザートディッシュ1種が用意されており、なかには和風のお弁当も。7月からは関西発便でもスタート予定とのことです。

日本とヨーロッパを結んで今年で67年になるKLMオランダ航空。和食をはじめとする機内食は、今後ますます進化していきそうです。

「Anytime For You お好きな時に」のメニュー。チーズバーガーや和風弁当などを用意