観光地とリゾートの違いとは? 観光政策の観点から整理してみた【解説コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

観光地とリゾートの違いはどこにあるのでしょうか。私は、ホスピタリティ産業と観光産業の違いがわかると、観光地とリゾートの違いもおのずと見えてくると考えています。

端的に言えば、観光産業に依存するのが観光地、地域のホスピタリティ産業を核とするのがリゾートと整理できます。言い換えると、観光地とリゾートの違いは、長期滞在したくなるような「ライフスタイル」があるかどうかということなります。

今回は、この点について考察してみたいと思います。

日本人にとっての「リゾート」とは?

バブル期、観光地とリゾートの違いについては、各所で議論されていましたが、実際問題として両者の違いについて「ストンと腑に落ちていた」人は少なかったのではないでしょうか。

本件に限らないのですが、人は自分が経験したことがないことをなかなか理解できないものです。百聞は一見にしかず、百見は一体験にしかずとよく指摘されるゆえんでしょう。経験がないことについては、各自のそれまでの経験(知見)から類推することになるため、どうしても振れ幅が大きくなるわけです。

日本人の多くがリゾートのことを理解しがたい理由は、そもそも一週間とか二週間といった長期滞在経験が乏しいため、と言えます。仮にハワイに行ったとしても、標準行程は3泊5日であり、これは米国人のハワイ滞在の半分に過ぎません。

この「日本人は滞在日数が欧米人の約半分」という状況は、私がおこなった他の複数の海外リゾートでのヒアリングでも指摘されています。

つまり、日本人はリゾートには出かけていても、欧米人のようなリゾート経験、バカンス経験はありません。同じ地域、空間にいても、長期滞在経験に乏しい日本人と、バカンス需要による欧米人では視座が異なり、結果、視野も視点も変わってきます。一般に、業務視察の場合は滞在日数がより少なくなりますので、視座のズレはもっと大きなものとなってしまいます。

「需要」に対する理解差がもたらす政策ギャップ

この視座のズレが、観光政策の各所に響いてくることになります。

「観光」は、世界各国が注目する分野ですが、実のところ、諸外国が注力しているのは観光地振興ではなく「リゾート振興」。ただ、ここで言うリゾートには都市も含まれるため、長期滞在拠点の振興といった方が適切かもしれません。

「海外DMOの先進事例」といった形で取り上げられる地域の多くが、都市、またはリゾートであることを考えれば、なんとなく雰囲気が分かるのではないでしょうか。

なぜそうなるのかというと、それは現在が「都市の時代」だからにほかなりません。サービス経済社会での競争力を高めるための産業政策であり、都市政策として観光に取り組んでいると考えるべきです。

魅力的なライフスタイルを武器に、人々を呼び込み、その需要を糧にホスピタリティ産業を集積させ、サービス経済社会に適合した「集積の利益」を得るというのが、基本戦略となっていると考えることができます。

もちろん、宿泊施設を(ほとんど)持たない地域でも観光振興に取り組んでいる所はありますが、モンサンミッシェルはパリから、アルルはマルセイユから、ミルフォードサウンドはクイーンズタウンから、グランドキャニオンはラスベガスからというように、単体のデスティネーションではなく、長期滞在拠点となる都市やリゾートからのエクスカーション先(デスティネーションに含まれる)と考えるのが自然です。

これに対し、日本では長期滞在拠点、すなわち、都市やリゾートに対する意識は希薄で、滞在させること自体を端からあきらめている傾向があります。その代わりに出てくるのが「周遊」促進という概念となります。

観光産業振興とホスピタリティ産業振興の違い

この背景には、前述したように、日本人の多くが長期滞在経験を持たず、それを想像できないという要因があります。しかしより深刻なのは、日本の観光地やリゾートは、これまで「長期滞在しない」日本人需要にあわせて形成されてきたということでしょう。端的に言えば、リゾートを標榜する地域であっても、宿泊施設以外のホスピタリティ産業の集積がされておらず、街、タウンの形成もなされていない状態です。

例えば、国内の「リゾート」で、人々が集うような広場空間やモールを備えているような所はほとんどありません。そのため、夜9時も過ぎれば屋外はひっそりしてしまいます。賑わいがないということは、消費のタッチポイントがないということですから、消費額も伸びることがありません。

消費のタッチポイントがない、すなわち、地域への経済効果は限定的なのに、観光振興が目指される理由とは、いったい何なのでしょうか。

これは、「別に金儲けが目的ではない。交流こそが重要」という人々が少なくないのに加え、経済面に注目している人でも、ホスピタリティ産業ではなく観光産業に視点が向いているからと思われます。

例えば、日帰り客であっても、交通機関は利用するし、お土産品や軽食を購入するでしょう。そして、観光バスは自由に行き先を設定できるし、土産品屋や屋台などの飲食店の出店ハードルは低く、少し注目されるようになれば、自然と集積してくることになります。

ここで留意すべきなのは、交通や土産品、軽食といった消費額は、滞在日数(人泊)よりも、来訪者数(人回)との相関が高いということ。そのため、日帰りを含めた観光客数がより注目されることに。近年のクルーズ誘致ブームは、その典型だと言えるでしょう。

「観光」による地域振興に必要な視点

ただし、考えて見れば解るのですが、そうした観光行動が地域経済に与える影響は限定的です。むしろ、交通やゴミ処理といったネガティブな対応が増えることにもなります。観光客の来訪を、しっかりと地域経済の振興に繋げて行くには、そうしたネガティブな影響を減じ、それを上回る効果を得るように取り組んでいくことが求められます。

これは観光産業からホスピタリティ産業へ視点を移すことの重要性を示しており、地域形成の方向も観光産業に依存する観光地ではなく、ホスピタリティ産業を基盤とするリゾート(都市を含む)へ軸足を変えることの重要性を示しています。

これまで、こうしたリゾート形成は、日本人がバカンス需要を持っていないが故に実現できませんでした。しかしながら、現在なら世界から需要を持った人々を取り込む事が可能です。北海道のニセコ地域は、その好例です。

もちろん、海外においてもデスティネーションとなり得るリゾートや都市がごく少数に限られることを考えれば、国内においても、その数は限定されるでしょう。しかし、ポテンシャルを持った地域においてもリゾート形成ではなく、従来の観光産業を基軸とする観光地形成を主体とすると言うのは、とても勿体ないと感じます。

ポテンシャルを持った地域、または「都市の時代」に対応していくことを志す地域には、新しいパラダイムによる取り組みを期待したいものです。

【編集部・注】この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、同記事は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:Discussion of Destination Branding.「観光地とリゾートの違い」

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 理事/観光研究部長/旅の図書館長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。

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