観光大国フランスは「オーバーツーリズムに直面していない」、観光トップが語る未来を見据えた対策と観光戦略

フランス観光開発機構と観光庁、日本政府観光局(JNTO)は、2018年9月に3者間で観光協力強化に向けて覚書を締結した。日仏両国の連携を強化していくもので、締結式には同機構クリスチャン・マンテイ総裁が来日。合同インタビューを実施し、フランスの観光戦略について語った。

国連世界観光機関(UNWTO)の数値によると、2017年のフランスへの海外からの訪問客数は世界1位で8690万人。フランスでは、訪問客数1億人への目標を掲げているが、近年の好調な客数増加を踏まえて「数年で、1億人の目標は達成できるだろう(マンティ総裁)」とみる。

こうした中、市民生活に悪影響を与えたり、混雑による満足度低下など観光客の増え過ぎ問題(オーバーツーリズム)についてはどう考えるのか。

マンティ総裁は、現在のところ宿泊施設の不足感もなく、「現時点でそうした問題には直面していない」と話す。しかし、観光産業にとって重要な課題となっていることを踏まえ、未来を見据えたうえで、都市ごとの受け入れ可能な観光客数を細かく精査していくことが重要であることも強調。観光客の流れを把握したうえで、オーバーツーリズムを未然に防ぐ活動を重視している考えだ。

都市単位で時間や季節毎に、どの程度の受け入れが可能か、そのようなデータを踏まえ、今後は観光客数が平準化するような周遊ルートでのプロモーションに力を入れていく。「今後の観光施策では、客数の量の拡大だけでなく質的向上も両立させることが重要」と力を込めた。

2019年は、スポーツ・芸術・食で観光客誘致へ

そのうえで、さらなる観光客誘致に向けて2019年はスポーツ・芸術・食を主要プロモーションのテーマとして位置づけていく。マンティ総裁は「観光インフラに関しては毎年140億ユーロを投資しているが、さらにスポーツ施設やアクセス面の強化に向けて、追加で20億ユーロの追加投資を行う。これらの投資で、多くの国から訪問客を迎えるためのクオリティを高めていく」と話し、スポーツイベントをフックに観光振興を強化していく考えを示した。

フランスでは、2023年にラグビーワールド杯フランス大会、2024年にはパリでオリンピック・パラリンピックが決定しており、大型スポーツイベントが続く。これらは、いずれも日本の大会の後に実施されることになり、「大規模スポーツイベントはマネジメントが非常に難しい。そうした中で日本とフランス両国で経験を共有していけるような取り組みを進めていき、日仏の絆をさらに深めていきたい」と日本の観光産業との協力体制に期待を示した。

文化関連では、来年2019年がレオナルド・ダ・ヴィンチ死去から500年という節目を迎えることを機にルネサンスに着目したイベントを実施していく。「ルネサンス500年祭」として、ダ・ヴィンチに特にゆかりの深いロワール地方を中心にフランス全土でルネサンス時代の美術や現代美術のイベントが行われる予定だ。マンティ総裁は、「日本人は文化に関する造詣がとても深い。ぜひ、フランスを訪問して、さまざまな芸術や文化に触れてほしい」と日本人旅行者の訪問に期待感を示した。

食関連では、ワインやショコラなどフランスならではの食の魅力を訴求する取り組みに力を入れる。特に、近年は旅先での体験を重視する旅行者が増えていることから、食と周辺のアクティビティを組み合わせた取り組みに力を入れていく方針だ。世界各国でワインを切り口にしたツーリズムが広がりを見せている中、マンティ総裁はフランスならではの楽しみ方を訴求したいとの考え。日本人観光客に対しては「ハイキングやサイクリングを組み合わせた観光素材を提案したい」という考えを示した。

写真左がマンティ総裁、右は合同インタビューに同席したフランス出身の美食界の巨匠アラン・デュカス氏

取材・記事 トラベルボイス編集部 山岡薫

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