テクノロジー進化で変わるホテル業界の未来とは? エクスペディア日本代表が考察する新たな顧客体験から日々の業務まで【コラム】

2019年のホテル業界のトレンドはどうなるのか。日本でのエクスペディアのオフィスを統括する一方、旅行関係者や自治体と連携しながら目的達成をサポートする役割も担うマイケル・ダイクス氏が、加速するテクノロジーの普及を分析しながら、今なすべきことを考察。本コラムではその内容を紹介する。

ハイテク活用しハイタッチ届ける時代へ

今、ブランドロイヤルティに何が起きているのか。今日の消費者は、商品と価格を調べ、クチコミやレビューに目を通し、それらの知識を収集することで優れた判断力を養い、晴れて購入の可否を決定することが当たり前になっています(※1)。

2019年の今、お客様にリーチしてエンゲージするためには、それぞれの個人のニーズに訴えることが不可欠です。そのために企業は、消費者が最も価値を置いていること何なのか、深く掘り下げて理解することが必要です。これは特に、旅行業界に当てはまることだといえます。なぜなら、幸福感と満足感を得るために、体験が(何かを)所有することよりも優先される業界だからです(※2)。パーソナライゼーションは、もはや旅行者の満足度の向上のための新しい「切り札」であり、機械学習(ML)は、この顧客体験を向上するにあたり、ホスピタリティ業界における強力で建設的な「創造的破壊者」となります。

今年以降、人工知能(AI)とMLは、旅行者にとどまらず、宿泊施設に対しても、稼働率や平均客室単価(ADR)などの経営目標を最適化しながら、お客様を魅了するために必要な洞察と対策を提案してくれるものとなるでしょう。旅行業界は、旅行者および宿泊施設の双方のパーソナライゼーションの時代へと移行しています。すなわち、「ハイテク(先端技術)を活用し、ハイタッチ(人間的な触れ合いを大切にする)体験をお届けする」時代を迎えているのです。

日本の人口が高齢化するに伴い、旅館の軒数は減少を続けています(※3)。このような状況で日本の旅館の経営をサポートすることがサプライヤーにとって極めて重要です。旅館やホテルは限られた人的資源でも、AI や ML を活用することで、特定の供給市場やセグメントをターゲットし、お客様それぞれにパーソナライズされた顧客体験を提供できます。

加速するテクノロジーの普及

「ミレニアル世代」と「Z世代」がけん引する人口構造の変化は、テクノロジーの普及を加速することに一役かっています。ホテルがこれらの世代の人々の心に訴えるには、テクノロジーを駆使し、よりいっそう豊富で洗練された旅行者に認められる顧客体験を提供する必要があります。その一例が、軽井沢町が「くつかけステイ 中軽井沢」で主催しているイベント(※4)です。このイベントは、より豊かなビジネスライフを求めて、ウェルネスと軽井沢のライフスタイルをテレワークと組み合わせるというものです。

若者世代の旅行者は、予約方法から目的地の選定、宿泊先や、旅先での体験など、どのように旅行商品を消費するかという点で、従来の世代とは一線を画します。彼らのロイヤルティを獲得するために旅行ブランドは、彼らの話に実際に耳を傾け、期待する顧客体験を提供する必要があります。明日の勝者は、これらの新しいタイプのお客様の期待に応えることができ、同時に何か新しいことで彼らを驚かせることができる者なのです。

ボットが企業業績の最大化をサポート

AIとMLが、チャットボットからルームサービスまで、ホテルのお客様に日常的に使われている一方で、これらのテクノロジーは宿泊施設側をも一変させ、顧客体験における懸念を取り除き、ホテルにとってより高い効率性をもたらしています。その一例が、星評価の向上につながる、パーソナライズされたオススメ物件情報です。データに基づき対策を提供してくれるボットを想像してみましょう。ボットがホテル経営者に、肯定的なクチコミを最大限に活用してアドバイスをしてくれるのです。

例えば、「朝食の評価は3ツ星を下回るでしょう。欧米系のお客様の多くが、洋食の選択肢が少ないと評価しています。中国からのお客様からは、特におかゆを希望しているという声が上がっています。その日のお客様タイプによってメニューを変更すれば、クチコミは平均して4ツ星を獲得できるでしょう」という具合です。

想像してみてください。モニター上の文章で洞察や対策を提供される体験に代わって、ヒューマンビデオボットが「佐藤様、来月のこの地域の繁盛期には、競合施設は全て価格を最大で約30%値上げ調整したのをご存知でしたか? 同様の値上げ調整をお勧めします」と案内をしてくれ、将来の企業業績の最適化をサポートしてくれる、そんな世の中が来るのです。Googleアシスタントと同様に、この新しい「コンシェルジュ」とも言えるヒューマンビデオボットの性別、アクセント、身体的特徴を選ぶことで、これはまさに施設経営者にとって、親しみやすく、心地よい、パーソナライズされた体験となるのです。このテクノロジーは他国に先駆け、現在、米国市場で試験的に使用が開始されています。

テクノロジー導入が、再びロイヤルティを生む

旅行者は自身が認められ、尊重されていると感じたいのです。他とは一線を画すパーソナライゼーションは、従来はラグジュアリーホテルのお客様やプレミアムクラスの乗客だけのものでした。しかし、テクノロジーの発展に伴い全ての施設でパーソナライゼーションが可能になり、重要性は増え続けるでしょう。お客様の嗜好を把握し、その情報を駆使してお客様を受け入れ、個別にカスタマイズされた体験を作り出すことは、まさにゲームチェンジャーとなります。ホテルや旅館にとってパーソナライゼーションとは、シンプルだが意味のある活動を通じて、大切なお客様とより深く、意義のある関係を作り上げることなのです。

テクノロジーの活用で旅行者の懸念事項を取り除くことは、旅行業者にも有利に働きます。旅行者の体験を向上するだけでなく、経営の効率化をも促進します。チャットボットはリアルタイムで簡単な質問に答えます。パーソナルデバイスを利用することで、客室内にて充実したテクノロジー体験を提供することが可能になります。テクノロジーの導入は、お客様と施設の双方に恩恵をもたらします。タブレットを提供して、食事や飲み物の注文、ハウスキーピングやメンテナンスのリクエスト、HuluやNetflixのようなストリーミングサービスにログインして最新の番組を好きなだけ楽しんでいただくことができるサービスを提供しているホテルもあります。

そう遠くない未来には、さらなるニーズに応えるパーソナライゼーションが実現することでしょう。室内のエンタメシステムでお気に入りのSpotifyプレイリストを再生し、室内テレビで直接ビデオ通話が可能になる日が来るのです。パーソナライゼーションは、ロイヤルティの最も重要な側面であり、今後もお客様と意義のある関係を構築し維持することに貢献するでしょう。パーソナライゼーションの実現のためには、テクノロジーの利用に重点を置き、パーソナライゼーションに比重を移し、旅行者とホテル経営者の双方にとって実現へのプロセスを簡素化する必要があります。

ホテルの多くは、これが非常に困難で経費がかかると考えていますが、今日多くのハイテクプラットフォームやパートナーがこれらの体験を可能にしています。若年層は、ブランドへのロイヤルティを重視していません。テクノロジーの導入は、これらの若年層の心をつかむ近道となるはずです。

人間的触れ合い「ヒューマンタッチ」

これらのテクノロジーの進歩へのカギは、トラベル業界を含むどの業界においても、人間性の維持にあります。トラベル業界は、異文化や異なるバックグラウンドを持った人々と交流し、それらを学び、理解したいという欲求から形作られています。 新テクノロジーは、特定のプロセスをより効率的なものに変え、言葉の壁を取り除くことを助けることが可能です。

一方で、我々は人間的要素を取り除くことはできませんし、むしろ開発するもの全てに人間的要素が確実に浸透している必要があります。最終的に、テクノロジーは旅行を簡単に、直感的かつ円滑にすることで、人々をつなげてくれるのです。人が作り出す体験をサポートするのか。または私たちの価値を伝えることをサポートするのか。様々な可能性が考えられるでしょう。

サプライヤーの観点からは、テクノロジーの導入は、一日に同じ質問に何回も答えるというような日常的な業務から従業員を解放し、より意義のある方法でお客様と接することを可能にしてくれます。テクノロジーが日常業務を担うことで、従業員は創造的で感情的な情報交換に集中できるのです。

参考資料:

マイケル・ダイクス

マイケル・ダイクス

エクスペディアホールディングス株式会社 代表取締役、ロッジング パートナー サービス 日本・ミクロネシア地区シニア ディレクター 12年にわたり日本マイクロソフトの重要なポジションを歴任した後、2015年エクスペディアホールディングス入社。ビジ ネスパートナーであるホテルや旅館などの宿泊施設と良好な関係を築き、エクスペディアが展開する 200 を 超える OTAを通して、各宿泊施設の戦略に則したレベニューマネージメント、い かに収益を増加させるかをサポートしている。

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