トーマス・クック破綻で旅行業界に起きることは? TUIやライアンエアら恩恵を受ける企業も【外電】

写真:AP通信

トーマス・クックの破綻は、同社の従業員や顧客だけでなく、世界の旅行業界に大きな影響を与えている。同社が負うおよそ20億米ドル(約2000億円)の債務の完全回収は見込めないことから、数え切れないほどのホテルやツアーオペレーターが数百万ドルにも及ぶ負債を追うことになりそうだ。破綻のニュースが流れた途端に、多くの旅行関連会社がトーマス・クックとの取引額を公表し始めた。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

2017年にトーマス・クックとの間でホテル供給の契約を交わしたエクスペディアは、「トーマス・クックのニュースには注視している。我々は影響を受ける顧客に対して適切な援助とアドバイスを提供するために全力を挙げている」とコメント。しかし、どれほどの額が失われるかはまだ明らかにはしていない。

影響を受けるのは企業だけではない。ヨーロッパ人にとって人気のデスティネーションであるトルコは、今回のトーマス・クックの破綻によって、70万人ほどのインバウンド旅行者を失うことになるかもしれない。トルコ・ホテル協会のオスマン・アイク会長は、「(トルコには)トーマス・クックに運命を委ねている中小企業は非常に多い」とロイター通信に語った。

それでは、誰がトーマス・クックの破綻によって得をするのか。トーマス・クックに依存している中小企業はその余波に苦しむかもしれない。では、ライバルとなる大手企業はどうだろう?

トーマス・クックの退場によって、ヨーロッパで生き残る総合旅行会社はTUIグループのみになる。同社は、今回の破綻を他人事だとは思えないビジネスモデルで事業を展開しているが、数年前からホテル事業とクルーズ事業に多額の投資を行い、マーケットでの存在感を増しているのも確かだ。

投資会社バーンスタインのシニア・アナリストであるリチャード・クラーク氏は「トーマス・クックの破綻は、確実に負債を負って、後に不確実な収益を得るという今のツアーオペレーターのビジネスモデルにはリスクがあることを明らかにした。しかし、TUIは、ホテル事業やクルーズ事業によってキャッシュフローを安定させており、少ない借入金でトーマス・クックよりもはるかに弾力性のあるビジネスを展開している」と説明する。

ライアンエアやイージージェットなど、レジャーに特化した航空会社もトーマス・クックの破綻で得をするかもしれない。ヨーロッパのビーチデスティネーションへの路線でライバルがいなくなるからだ。また、Jet2航空を傘下に持ち、ツアーオペレーター事業を展開する英国のダート・グループも恩恵を受ける一社になるかもしれない。

モルガン・スタンレーは「トーマス・クックの破綻は、旅行業界の供給過多状態をある程度緩和するものになるだろう。おそらく、中間期の利益は回復するのでは」と分析する。実際のところ、ダート・グループ、TUI、イージージェット、ライアンエアの株価はトーマス・クックの破綻後に上昇した。

続く混乱、再起を模索する関連会社も

英政府は、海外で足止めされているトーマス・クックの顧客を帰国させるために、数十機をチャーターし、平時としては史上最大の「救出作戦」を実行している。全員帰国までは2週間ほどかかる見込み。チャーター機運航でブリティッシュ・エアウェイズやヴァージン・アトランティック航空も今回の騒動に巻き込まれた。

トーマス・クックのヨーロッパでの事業も混乱状態だ。ドイツでは、同社子会社のコンドル航空が連邦政府に対して、将来の事業を安定させるためにつなぎ融資を求めている。トーマス・クック子会社のツアーオペレーターは支払不能には陥っていないものの、すでに商品の販売を中止している。

トーマス・クックのドイツ版ウェブサイトでは、ビジネスを継続するためにさまざまな選択肢を模索していると表明しているが、倒産は免れないだろう。

同じようなことはオランダでも起きている。オランダ版ウェブサイトでも「顧客や従業に対する破綻の影響をできるだけ限定的にするために可能な選択肢を探している」というコメントが掲載されている。

混乱の中でもトーマス・クック航空スカンジナビアは破綻の翌日に飛行を再開したが、他のヨーロッパの関連企業と同様に将来はかなり不確実だ。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Fallout From Thomas Cook’s Demise Will Reach Far and Wide in Travel

著者:Patrick Whyte氏

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