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地域活性化にエンターテインメントが果たす役割とは? 地域の関わり方から人材育成まで聞いてきた

観光は地域活性化の切り札とされているが、その手法としてのエンターテインメントがある。2019年秋に開催されたツーリズムEXPOジャパンは、エンターテインメントの本場である大阪で初めて開催されたことを受け、テーマ別シンポジウムの1つにエンターテインメントが取り上げられた。

新型コロナ禍で混迷を極める観光業界。エンターテイメントの世界も自粛の影響を受けている。そんな渦中だが、ポスト・コロナ時代に備えて、「観光×エンターテイメント」が果たす役割を振り返っておきたい。

シンポジウムでは、「エンターテインメントで地域を元気に!」をテーマにパネルディスカッションを実施。関西を中心にエンターテインメントの第一線で活躍する4人のパネリストが各自の視点から、エンターテインメントと地域の関わり方を議論した。

パネリストには宝塚歌劇団理事長の小川友次氏、吉本興業株式会社代表取締役副社長の奥谷達夫氏、韓国観光公社東京社長の鄭辰洙支氏、三重県伊賀市長の岡本栄氏の4氏が登壇。モデレーターは松本大学名誉教授の佐藤博康氏が務めた。

エンターテインメントには「人を動かしていく力」がある

ディスカッションに入る際に、佐藤氏はラグビーのワールドカップの観戦のために日本を訪れた外国人を引き合いに出し、「彼らが感動したのは、日本人との付き合い、日本人の素晴らしさだった」などと切り出した。モノ消費からコト消費へと移行するなかで、佐藤氏は「感動と直結するエンターテインメントは地域活性化のメインになり得る」などと呼びかけてディスカッションをスタートさせた。

松本大学名誉教授の佐藤博康氏

初めに議論されたのは、「エンターテインメントが本当に地域おこしにつながるのか」という根本的な点。「エンターテインメントが果たす役割」とも言い換えることができるこの点について、小川氏は宝塚市民が「宝塚歌劇団は街の魅力であり財産である」と感じている現状を説明。そのうえで「夢や感動を売る人間は、人に愛されてこそ」と、宝塚音楽学校から始まる人材育成の考え方を披露した。

だからこそ芸のクオリティを上げるのはもちろんのこと、歌劇団のモットーでもある「清く正しく美しく、そして誠実であることを大事にしている」とも語り、宝塚市民が住んでいて誇れる街づくりにも「積極的に協力していくことが重要である」と話した。

宝塚歌劇団理事長の小川友次氏奥谷氏は、吉本新喜劇などを上演するなんばグランド花月のある大阪ミナミの成り立ちに言及。1600年代に道頓堀ができ、そこに人を集めるために芝居小屋の許認可ができて、芝居小屋を見に来た客に提供するために飲食店が広がったことが「食いだおれ」につながっていった歴史を説明した。奥谷氏は「こういった人を動かしていく力がエンターテインメントの底力だと思う」と力説した。

吉本興業株式会社代表取締役副社長の奥谷達夫氏

地域に必要なのは「情熱」と「楽しく参加する」こと

ディスカッションの中でキーワードとして出てきたのが「継続」。エンターテインメントによる継続的な地域活性化の要素についての議論も展開された。

2003年頃に韓流ドラマのロケ地をめぐるツアー商品を日本の旅行会社と組んで造成するなど、韓流ブームの火付け役の1人でもある鄭氏は、まずエンターテインメントを有力な観光素材として打ち出すには、「日本政府観光局(JNTO)と提携して海外でプロモーションを行うのも有効ではないか」などと提言した。

韓国では現在、大小165もの劇場が集まるソウル大学の跡地を「大学路」として大々的なプロモーションを行っている事例などを紹介し、「地域側に“やりたい”という情熱が必要だし、行政の後押しも不可欠」と話した。また、公演が行われる地域に宿泊することを条件にチケットを無料にするなど、地域に経済的なメリットが出るような仕掛けづくりによる「共生」の必要性も訴えた。

韓国観光公社東京社長の鄭辰洙支氏

自ら先頭に立って忍者を前面に出したプロモーションを行う岡本氏は、「伊賀市では多くの市民が義務的ではなく、自ら楽しんで頑張ってくれている。楽しみ方がそれぞれにあって、それがモチベーションになっているというのが一番大事」と、エンターテインメントによる地域活性化を成功させるには、住民参加型であることの重要性を語った。

また、岡本氏が募った「若者会議」では、20〜30代の若者が忍者を活用した新しいプロモーションなどにチャレンジする気風が生まれつつあり、次代を担う人たちにしっかりバトンがつながれている点も強調。継続という点でも「今注目されているSDGsに近いことを、近年の研究で忍者は400年前から実践していたことがわかってきた。だから地域の何十年も先まで見据え、先人が残してくれた忍者というコンテンツを大切に活かしていきたい」などと話した。

三重県伊賀市長の岡本栄氏

将来を見据えて地元の才能を掘り起こし、時間をかけて育成を

最後にエンターテインメントによる地域活性化のヒントとして、小川氏は「街への愛情や情熱を持ち続け、我慢して1つでも育てていくこと」を挙げた。宝塚歌劇団は数々のスターを輩出しているが、いずれも宝塚音楽学校で教育を受けたうえでブレークしている。また、舞台を作る演出家をはじめとするスタッフの育成にも時間がかかることに触れ、「一見すると華やかな舞台だが、人づくりは1日ずつしっかりと醸成していかなければ良いものはできない。一番しんどいが、最も大事」と力説した。

プロモーションの視点からアドバイスしたのは鄭氏。“●●商工会議所設立△△周年”といった機会にエンターテインメントをかけ合わせると、「1度見たことのある公演でも違った見え方になるため集客が期待できる」と指摘。「そういったチャンスを活かして複合的にトライすることも、エンターテインメントが地域活性化に寄与することになるのではないか」と話した。

岡本氏は自治体の長としての立場から、「これからますます連携が大事になってくる。やって楽しい、やりがいがあるということが持続性の源。首長として舵取りの役割をしっかりこなし、市民の皆さんのマインドを引き出していきたい」と、アドバイスを兼ねた決意表明を行った。

奥谷氏は「地域活性化に着手する最初の段階としては、立派な劇場など箱モノは必須ではない。東京や大阪といった地域的な差は5Gの世界が解決してくれるはずで、学びの状況に差はなくなる」と話し、才能ある人は開花していくとの見方を示した。それを踏まえ、「だからこそ地元の才能に賭けるのが一番良いのではないか」と強調した。

佐藤氏は「継続すること、惚れ込んだ町と地域に対して取り組むこと、住民との共生が、エンターテインメントで地域を活性化させる際のキーワードである」とまとめ、一過性のものを目指すのではなく、「先を見据えて地域とエンターテインメントをつなぐべき」と語ってシンポジウムを締めくくった。