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国際航空旅客に新型コロナ感染検査を検討、世界の航空・観光トップが語った観光復活へのカギ、重視すべきは世界の共通基準

ポストコロナ時代に再び人々が安心して旅行するためには何が必要なのか―。「旅行者の信頼を回復するには(How to restore traveller confidence)」をテーマに、世界の観光・航空トップがオンラインカンファレンスを実施した。そこでは、世界の国際航空輸送ガイドラインに、航空旅客に対して新型コロナウイルス感染検査の実施を盛り込む検討がなされていることが明かされた。

パネラーは、国際航空運送協会(IATA) 事務局長兼CEOのアレクサンドル・デ・ジュニアック氏、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC) CEO兼理事長のグロリア・ゲバラ氏。モデレーターは航空コンサルタントCAPA名誉会長のピーター・ハービソン氏が務め、今回の新型コロナウイルスの感染流行による世界的なパンデミックから、どのように旅行や観光が回復するかを議論した。

大陸間の航空路線の回復は2020年末か

現在、大幅に減便している旅客輸送について、IATAジュニアック氏は「国内、地域内、大陸内、大陸間の順番で路線ごとにフェーズで回復してゆき、最終的に大陸間路線が回復するのは2020年末になるだろう」と予測。「トータルの需要予測は2019年比の50〜55 %程度と見込んでいる」と語った。

マーケット別の需要動向については、WTTCゲバラ氏が「現在多くの国が行なっている入国後2週間の隔離措置が、特にビジネス旅行の大きな障壁になっている。ビジネスはFace to Faceで行うのがいいと考え、出張旅行の再開を待っている企業もあるが、観光旅行の需要の方がビジネス旅行よりも早く回復するだろう」と見解を示した。

ジュニアック氏もゲバラ氏の意見に同意し「今回のコロナ禍は特にビジネス旅行に大きな影響を及ぼしている。多くの企業が出張旅費の予算削減を行ない、今なお大規模な展示会や会議への参加に伴う感染の恐れを多くの人が抱いているので、観光需要の回復が先と考えられる」と話した。

また、今回のコロナ禍で世界的にビデオ会議が盛んになるなど、コミュニケーションでのデジタル技術が飛躍的に進んでいる。このことから出張需要が減少するのではないかという指摘に対して、ゲバラ氏は「インターネットの登場時など、これまでも技術が進化するたびにリアルな旅行のモチベーションが失われると言われてきたが、結果的にはそうなっていない」と過去の動向を指摘。さらに「こうしたテクノロジーは確かに便利だが、今は他に選択肢がないので、使われている面もある。デジタル技術が、リアルな旅行に完全にとって代わるとは思わない」と明言した。

モデレーターを務めたCAPAのハービソン氏(左)とWTTCのゲバラ氏(右)。IATA のジュニアック氏は音声のみの参加となった。

航空業界が連携でガイドライン策定、具体的な運用マニュアルも作成中

6月1日、国際民間航空機関(ICAO)は新型コロナ流行により多大な影響を受けた国際航空輸送の回復に向けたガイドラインを発表した。

ジュニアック氏は、このガイドラインについて「搭乗前から空港、機内、到着後までのすべての旅程をカバーし、衛生や健康管理についての指針を示している。世界保健機関(WHO)のアドバイスを受け、我々IATAや国際空港評議会(ACI)などの航空業界団体が一体となったタスクフォースで策定した」と説明。さらに、このガイドラインをベースに、現場に即した実用的なオペレーションマニュアルを現在、作成中であることを明らかにした。

ゲバラ氏は「旅行者の信頼を取り戻すために重要なのが、こうした関係者の協力による国際的な共通基準づくり」と、こうした取り組みを高く評価。「もし旅行者が飛行機を乗り継ぐ時、最初の便ではマスク着用が必須なのに、次の便では不要というように航空会社によって対応が異なれば、不安になり飛行機の利用を安全と感じられないだろう」として、航空会社の枠組みを越えた一貫性ある対応が乗客の安心感につながることを強調した。

そして「航空業界は観光産業の屋台骨なので、このガイドラインをすべての国の航空会社が踏襲すれば、旅行者の信頼回復もより早まるだろう」と述べた。

搭乗客への感染検査、旅行保険における新型コロナの扱いは今後の課題

ジュニアック氏はICAOのガイドラインについて「1度作ったら完成して終わりではなく、実行しながらフィードバックを反映して常に進化させていく」との方針。また、今は保留となっているが、搭乗客に対する新型コロナウイルス感染検査が重要課題とされていることを明らかにした。

ジュニアック氏は「現状では感染検査の確度や迅速性、設備の供給体制などに課題があるが、それらが解決して検査システムが信頼できるものになったら、ガイドラインに加えることを検討したい」考えだ。

ゲバラ氏もこれに大きく同意し「感染検査は非常に重要なポイント。感染者を早期に発見し確実に隔離できれば、感染していない旅行者は安心して旅行ができ、現在多くの国で取られている入国後の2週間隔離という対応も変えることができる」と期待を示した。

また、ゲバラ氏はもう一つの課題として、現段階では海外旅行保険の補償対象に新型コロナウイルスが含まれていないことを指摘。「今後はすべての保険で対象に含めるべき」との考え。ジュニアック氏は、IATAとして「海外旅行保険はクレジットカードに付帯されることが多いので、何らかの取り組みができないかカード会社と検討している」とことも明かした。