JTBの新経営計画を整理した、旅行事業の変革は「日常」にもアプローチ、法人・地域支援と両輪で、来年度の黒字化狙う

JTBは先ごろ、2020年度中間期(4月~9月)の連結決算の会場で、新たに策定した中期経営計画「『新』交流創造ビジョン」を発表した。コロナ禍で変化した人々のライフスタイルや価値観に対応し、デジタルを基盤に業績回復と安定的な事業体質への変革を図る。本中間期で、過去最大の赤字となった営業利益を来年度に黒字化させ、中期的(2024年度めど)に300億円規模、長期的(2028年度めど)に450億円規模を安定的に創出するグループへの再生を目指していく。

この実現に向け、時間軸では「経費構造改革期」「回復~成長期」「成長~飛躍期」の3段階に分け、事業構造では従来の旅行中心の顧客軸から、「ツーリズム」「エリアソリューション」「ビジネスソリューション」の3つの領域に再編。人流に依存せずに収益が得られる新ビジネスの構築にも挑戦する。そして、すべての事業活動において、デジタル基盤の強化とともにJTBの強みである人の力を活かし、顧客の実感価値を追求するという。

同計画では、グループ人員6500人の削減、年収3割超の一時的な人件費削減など、大きな痛みとともに実行される。同計画の考え方をまとめてみた。

1. 経費構造改革:2021年度までに約1400億円を改善

経費構造改革の目的は、JTBの半分を占める海外旅行やグローバル旅行の回復が遅れることを踏まえ、経費を抑制し、利益回復を図るもの。2021年度までの2年間で、経費を中心に約1400億円の改善を行なう。このうち約半分が、人件費関連になるという。

改革の方向性は、来年度に黒字回復を実現するための緊急コスト削減と今後の成長への基盤構築。年収削減などの一時的な措置除き、今回断行する改革は今後の経費構造の基盤とし、2022年度以降も計画化して実施する方針だ。

2. 今後展開する3つの事業領域

  • ツーリズム

従来から基盤となってきた旅行事業を、デジタル化で進化。顧客の購買体験と旅行体験を総合的にサポートし、顧客の実感価値を追求する。

  • エリアソリューション

地域支援事業として、新たに「ストック型ビジネス」(定額制など継続的に収益が入るビジネス)の構築を図る。自治体やDMO、観光事業者など従来のステークホルダーや地域との繋がりを活かし、人流に依存しない持続的なビジネスモデルに挑戦する。予約プラットフォームやサービスソリューションなど、地域が持つコンテンツをJTBが開発することで、収益を継続して得られるストック型ビジネスとする考え。

これにより、地域・エリアの魅力向上に取り組み、地域内の人流創出に貢献していく。すでに、観光プロモーションの仕組み作りなど、取り組みが始まっている例もあるという。

  • ビジネスソリューション

従来の法人顧客に対する支援サービスを、事業の柱としての成長を目指す。PDCAのプロセスにあわせ、企業のより多様な個別課題に常に寄り添い、顧客企業の持続的発展に貢献する。

3つの事業領域とも共通しているのは各事業のデジタル基盤の強化。その上にJTBの強みである人の力を載せていくことで、中長期的な成長を目指す。営業利益での構成比イメージは、「ツーリズム」「エリアソリューション」「ビジネネスソリューション」で「2:1:2」の比率で、ビジネスソリューションをツーリズムと同等の柱に引上げ、エリアソリューションで底支えをする考えだ。

3. 基盤は旅行ビジネス、店舗販売からスマホ接点に

中間決算会見で、本中期経営計画を発表した代表取締役者社長執行役員の山北栄二郎氏は、「これまでもこれからも、グループ事業の基盤はツーリズム」と強調。個人向け旅行販売は、これまでのオフラインの店舗営業を中心とする各チャネルを、スマホを接点にオフラインとオンラインを融合し、シームレスな販売を実現する。

また、対象は多客層(マス)ではなくパーソナル(個人)で、個々のニーズに対応。タビマエからではなく、「日常」からタビマエ、そしてタビナカ、タビアトまで一連の旅の体験をデザインしていく。発地での予約だけでなく、現地ネットワークを活かしたタビナカの予約やサービスなどを含めたプラットフォームを展開していく。

同経営計画では、販売拠点の店舗削減と同時に、システムのダイナミック化を推進。JTBの個人旅行商品には、同社の旅行ブランドの代名詞であり、ホールセールも行なう国内旅行「エース」と海外旅行「ルック」があるが、山北氏は会見でブランド再編について「ブランドの検討は特にしていないが、商品造成の仕組み自体をマス型からより自由度の高い個人型に変える」との考えを示した。国内旅行のダイナミックパッケージでは、現在の22%から来年度末には8割くらいにまで、急増させる方針だ。新中期経営計画による変革の姿は、まずは国内旅行販売で実感できそうだ。

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