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新たな「観光立国推進基本計画」策定へ議論が本格化、解決すべき課題整理へ、第2回有識者会合開催

観光庁は、2025年6月20日に交通政策審議会観光分科会の第50回会合を開催した。新たな観光立国推進基本計画(第5次)の策定に向けて2回目の会合。今後の議論にむけて、事務局から、持続可能な観光地域づくりやインバウンド地方誘客などを推進するにあたっての課題やボトルネックが提示された。これを踏まえ、基本計画を策定する前提整理として意見を有識者から募った。

新たな観光立国推進基本計画は、2026年度から2030年度の5カ年を対象とし、訪日外国人客数6000万人、消費額15兆円にむけて、2026年3月末までに閣議決定する方針だ。

冒頭の挨拶で、観光庁長官の秡川直也氏は「今年のインバウンドの好調ぶりは、昨年を上回る勢い推移しており、年間で4500万人に達する勢いがある」と述べた。そのうえで、「2030年6000万人という目標は現実的になってきた。実現に向けて、必要な受け入れ体制を整えるための課題を洗い出し、進めていきたい」と参加者に呼び掛けた。

数々の課題、メリハリをつけて対応を

事務局は、ボトルネックを「観光」「交通」「その他」に分類して提示した。

観光分野では、DMOの資金、人材、地域経営力やオーバーツーリズム対策など。交通分野では、国際空港における混雑、グランドハンドリングなどの体制強化、二次交通、バス・タクシーのドライバー不足があげられた。その他では、地方空港における出入国管理の体制、国立公園など自然資源を活用した受け入れ環境、文化資源の掘り起こしや高度化を提示した。

これに対して、委員からは様々な観点から意見が寄せられた。特に、分散化については、まず国内需要の分散が重要との意見があった。国内市場はインバウンドよりも規模が大きく、休日の分散化などによって繁閑差を緩和できれば、観光の現場従業員にとって年間を通して安定的な仕事がうまれ、給与向上による人材確保にもつながるとする好循環も提案された。

観光客の満足度調査については、需要の多様化に対応するためNPS(顧客推奨度)の導入が提案された。NPSは、「友人や同僚に薦めたいか」という質問をもとに顧客ロイヤルティを測定する指標。訪日リピーターを確保していくうえでも有効という意見が出た。

また、観光産業に携わらない地域住民への対応も重視すべきという意見もあった。オーバーツーリズムなどによる地域への負担が増える中、観光の目的や恩恵を住民に丁寧に伝えることで、外国人旅行者を受け入れる土壌を醸成できるという見解だ。その文脈では、日本人自身が海外旅行を通じて旅行者の視点を経験し、国際感覚を高めることも重要であるとして、アウトバウンド促進の必要性も指摘された。

航空路線の維持という視点も含めて、アウトバウンドは促進していくべきという意見は一致した。

一方で、地方空港の国際線については、補助金で維持されている側面も踏まえ、地方発着の直行便を増やす考え方よりも日本のハブ空港を強化すべきという指摘もあった。

さらに、提示された課題については、すべてを一度に解決することは困難であることから、対応の優先順位を明らかにし、「対応しないもの」も定めていくなど、メリハリをつけた戦略的な対応が必要との意見も出された。

今後のスケジュール

観光立国推進基本計画改定に向けては、今後、6月、8月、11月に観光分科会が開催され、改定に向けたさらなる議論が重ねられる予定。その後、2026年初頭をめどに改定案をとりまとめ、3月末までに閣議決定を目指す。次回の会合では、観光関係団体からのヒヤリングが予定されている。

6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(いわゆる骨太方針)では、政権が掲げる「地方創生2.0」のもと、2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円を目指す方針が明記されている。その実現に向けて、2025年度末までに新たな観光立国推進基本計画を策定し、必要な国の財源確保策を具体的に検討することが盛り込まれている。