航空業界向けITプロバイダーのSITA(国際航空情報通信機構)の研究機関「SITAラボ」はこのほど、ブロックチェーンとスマートコントラクト活用プロジェクト「フライト・チェーン(FlightChain)」に関するレポートを発表した。同プロジェクトは、ブリテュッシュ・エアウェイズ(BA)、ヒースロー空港、ジュネーブ空港、マイアミ国際空港と共同で実施。国際航空会社グループ(IAG)の協力も得て進めたもの。
ブロックチェーン(分散型台帳技術)とは、各社が個別に保持するデータベースの一部(台帳情報)を共有化する技術のこと。近年のテクノロジーの発展によって、各分野での商機が見込まれている。同レポートでは、運輸業におけるブロックチェーン活用事例はすでにあるものの、本当の意味で革新をもたらすのは、個々の航空会社や空港運営会社が保有する全データについて、共同管理を実現することであると分析。その鍵は契約や決済の自動化をおこなう「スマートコントラクト」サービスの構築にあると提唱している。
同時に、「航空業界に合ったアプローチには調査・研究の徹底が必要」との考えで、ガバナンス、標準化、コンプライアンス、セキュリティなどの問題をクリアすることが今後の課題と訴えた。
また、同プロジェクトの背景として、航空業界では正確な情報源が一元管理されておらず、すべての関係者が既存のデータに容易にアクセスできないことが様々な問題の遠因であるとも指摘。航空会社と空港が協力してフライトデータを共有している例もあるが、この場合も、データは別々に保管されているのが現状という。
このため、例えばフライトの遅延が発生したとき、旅客のインストールしているアプリと、空港のFIDS(発着案内表示)、航空券販売店など、それぞれの窓口で扱う情報が不統一となる事態が発生。こうした混乱を回避するために、あらゆる関係者が確実に、一元化された正確な情報を提供できる手法を探った。
「フライト・チェーン」プロジェクトでは、参加者を限定したプライベート型ブロックチェーンを構築。そこでフライト情報を一元管理し、相反する内容のデータが存在する場合はスマートコントラクトで対応する仕組みとした。プラットフォームには、スマートコントラクトを実現できるイーサリアム(Ethereum)とハイパーレッジャー・ファブリック(Hyperledger-Fabric)を利用した。
プロジェクトでは、ブリテュッシュ・エアウェイズ、ジュネーブ空港、ヒースロー空港、マイアミ国際空港がフライトデータを提供。期間中には、200万件を超えるフライト変更のデータがスマートコントラクトによって処理され、「フライト・チェーン」に保存されたという。
ヒースロー空港で自動化・改革推進を担当するスチュアート・ハーウッド氏は「ブロックチェーン技術の活用はまだ初期の段階で、さらなる研究が必要。しかし、同じ業界内のパートナー各社と一緒にデータを共有するという貴重な経験を積むことができた」と評価している。
IAGのデジタル・ビジネス責任者、グレン・モーガン氏は「ブロックチェーンを実際に使ってみて、大きな可能性を感じた。ACI(国際空港評議会)やIATA(国際航空運送協会)と共にベスト・プラクティスを探求していく」との考えを明らかにした。
SITA最高経営責任者(CEO)のジム・ピータース氏は「今後、実用化を考える上で重要になるのは、スマートコントラクトへの移行をどのようにして進めていくかだ。PDF形式のドキュメントを交わすのではなく、スマートコントラクトで航空業界の諸々の基準を直接、管理する時代はそれほど遠くない」とコメントしている。
以下は、「フライトチェーン」の概念図。
同プロジェクト・レポートの全文はSITAサイトで紹介している。