GoToトラベル事業を運営するツーリズム産業共同提案体が2020年7月28日、公式サイトをオープンした。7月10日に事務局が決まり、開始日が発表されてから3週間弱。紆余曲折を経てスタートした事業の現在地をまとめた。
「GoToトラベル」事業は当初、8月以降の事業開始が見込まれていたが、観光産業界からの強い要望を受けて前倒し。7月4連休前日の7月22日、旅行代金の割引分から先行スタートした。旅行先の飲食や買い物に使える地域共通クーポンの発行は9月1日以降で別途発表されることとなったが、新型コロナウイルスが再度感染拡大したことで東京発着が除外されるなど、難題を積んだ船出となった。とはいえ、コロナ禍で厳しい経営状況に直面する観光事業者の期待は高い。
旅行会社、OTAの参画状況
7月27日には割引をあらかじめ適用した商品の販売が一部で始まったが、旅行会社の対応は大きく分かれている。
JTBは、7月27日に専用サイトを開設し、クーポンコードとパスワードを配布する形で給付金分を割引した販売を開始した。全国各地の店舗でもキャンペーンの条件に合った商品を提案するとして来店を促している。
メディア販売や会員組織に強みを持つクラブツーリズムも、対象ツアーを公式サイトに掲載。オンライン予約はキャンペーン利用のクーポンをオプション部分で選択する仕組みだ。その他、近畿日本ツーリスト、日本旅行など大手旅行会社も27日に販売を開始した。
オンライン旅行会社(OTA)では、Yahoo!トラベルが27日からクーポン配布で割引き価格での販売を開始。また、エアトリは28日段階でサイト上に元値と割引後の「実質負担目安額」を併記して予約ができるようにしている。同社では、22日から国内ホテル予約限定で17%のエアトリポイントを還元するキャンペーンを展開して他社との差別化を図る。
一方でOTAは、参画が遅れたところも少なくない。7月28日現在、楽天トラベルは「安心・安全に最大配慮した形での実施を模索しており、まだ具体的な開始日や内容が決まっていない」(同社)、じゃらんnetを運営するリクルートスタイルもキャンペーン開始日を決定していない状況だ。
旅行業を取得している外資系OTAでは、Trip.comが参画を発表、キャンペーン内容に即したシステム開発をすすめているところ。準備が整い次第、対象商品を紹介する特設ページを展開するとしている。エクスペディア・グループでは、現在のところ「参画を前向きに検討している段階(同社広報)」だ。
GoTo事務局の発表によると、7月27日18時段階で旅行事業者のGoTo事業登録が承認されたのは全国3532社。なお、観光庁は7月20日付で「(日本の)旅行業登録を受けていない海外の旅行会社商品は対象にならない」と通達している。
「ポイント上乗せ」プランは対象外
観光庁は、7月25日付で「宿泊施設が自らポイントやマイルの設定を行うものについては、支援の対象外とする」ことを発表した。いったん価格を引き上げたうえで、ポイントや航空マイルを多く付与することにより、国の支援額を不当に多く引き出す詐害的行為を防ぐのがその理由だが、OTA経由の販売では日付やプランを限定してキャンペーン的にポイントアップをすることで閑散期などの集客に活用する場合が多い。
急遽発表された方針に、各社、システム的な対応やプランの表示などで対応に追われている。すでにキャンペーンを始めたYahoo!トラベルは「ヤフープランのPayPayボーナスライト上乗せプランにはご利用いただけません」とサイト上の各所で注意を促している。
農泊や民泊も対象に
新型コロナウイルスの感染拡大防止と地域経済の活性化の両立が求められるなかでスタートした「GoToトラベル」事業だが、従来型のホテル・旅館での宿泊を伴う旅行だけでなく、民泊や農泊、日帰り旅行が対象となったのは画期的だ。
たとえば、農山漁村滞在型旅行である「農泊」については、旅館業法の許可を受けた施設、住宅宿泊事業法の届出をした住宅、国家戦略特区法の認定を受けた特区民泊であれば、適正な執行管理のための体制が確保されていることを条件に支援対象とされている。
実際、民泊予約サイトを運営する百戦錬磨はいち早く、「GoToトラベル」キャンペーンに対応した35%割引をスタートした。都心近郊や自然豊かな立地にある別荘でのワーケーション、ロングステイなどの取り込みを目指している。
外資系で民泊(住宅宿泊事業)仲介業の事業登録を持っているAirbnbは、現在のところ「準備段階(同社広報)」。Booking.comは、事業参画への暫定承認を受けたところで、正式な予約開始は後日発表される。一方で、エクスペディア・グループの一棟貸し民泊サイト「Vrbo(旧HomeAway)」は、参画しない方針だという。
小規模旅館にも活路
新型コロナウイルスに伴う外出自粛の影響で遅れていた小中高生の夏休みも、各地で始まろうとしている。「GoToトラベル」事業は、そもそも落ち込んだ観光需要を喚起する目的。政府の二転三転する方針転換で旅行事業者も対応に混乱するなか、旅行者側が注意すべき点がある。
国は「GoToトラベル」の対象には、宿泊施設が感染症対策などの参加条件を満たしたうえで事業参加登録することを求めており、キャンペーンがスタートしたばかりの現在、旅行終了後に“実は対象外だった”とのケースも否定できない。実際に、ポイント上乗せプランが支援対象外と明言される前に、そのプランを予約した旅行者も少なからずいるはずだ。
現段階で、旅行を検討する際は、“このプランなら大丈夫だろう”との見切り発車ではなく、公式に参画を表明している事業者、プランを選択することが第一のポイントになりそうだ。実際、各社ともに掲載内容が「現時点」であることや「キャンペーンの内容に変更の可能性がある」ことを表示している。
一方で、電話予約しか扱っていない小さな宿泊施設などにも、「GoToトラベル」対応の検索サイトに登録することで直接販売を支援する動きが出ている。
観光業界向け各種サービス・システムを開発するピアトゥー社は、直接予約型の旅行検索サイト「STAYNAVI(ステイナビ)」をオープン。同サイトに登録する施設を紹介し、予約はリンク先の各施設のサイトから行えるようにする。さらに、小規模宿泊施設でもGoToトラベルキャンペーンの助成が適用できる仕組みを提供している。電話予約のみの施設もこの仕組みを活用することができる。
事務局によると、7月27日時点の事業登録承認の宿泊事業者は9006軒。日本国内の宿泊施設は約8.5万軒で、登録承認されているのはまだ1割程度ということになる。こうした仕組みの活用で、小規模事業者の参画が増えることが期待される。
「東京除外」で複雑化するスキーム
万全の感染対策を行いながら、地域経済を回す両輪の対応が必要となるGoToトラベル事業。旅行者にも新たな旅行スタイルを求める一方で、最前線にたつ旅行・宿泊事業者のすべき対応が増えている。
当面の例外措置として、東京都に居住する人の旅行と東京発着の旅行が支援対象外となったことで発生したキャンセル料への対応や旅行者の居住地確認は事業者が行うことになっている。
しかし、キャンセル料は国負担、旅行業者経由での返還になったものの、そのスキームはまだ不透明だ。また、旅行者全員の居住地の確認も必要になりそうだ。当初はグループ代表者の居住地を確認することとされていたが、その後、観光庁は同行者も支援対象外であり「事後に明らかになった場合には、返還請求の対象」になることを明言している。
GoTo事業対象の旅行商品は、来年1月31日まで。予算が終了した段階で事業は終了となる。観光庁では、旅行者が「特定の時期・季節に利用が集中することがないよう、執行状況をモニタリングし、適切に運用する予定」としている。しかし、その具体策は、まだ見えていない。
新型コロナとの闘いは長期持久戦が予想されている。感染拡大を防ぐ一方で、経済活性化が問われるなか、「GoToトラベル」を通じて新しい生活様式に基づく旅のあり方の模索は続く。
GoToトラベル事務局公式サイトは下記のとおり。