JALや和歌山県が積極的に取り組むワーケーションとは? 「休暇+仕事」のあり方を語るシンポジウムを取材した

コロナ禍で人々の働き方が変わり、リモートワークの拡大とともに注目度が高まるワーケーション。2020年8月、JTB総合研究所と日本国際観光学会ワーケーション研究部会の共催で「ワーケーション・オンライン・シンポジウム2020」が開催され、4名のパネリストが研究者、実施企業、受け入れ先の地域というそれぞれの立場から、日本型ワーケーションの可能性についてプレゼンテーションを行った。

未経験8割だが利用意向は7割以上、若手人材の確保定着への効果も

シンポジウム冒頭で、参加者500名に対するアンケート結果が発表された。86%が企業・自治体などの組織に属しており、「所属組織でワーケーションは導入されているか」「実施経験はあるか」という質問に対し、ともに約8割が「なし」と回答。ワーケーションを「ぜひ利用してみたい」が約6割、「どちらかといえば利用したい」を含めると7割以上となり、ほとんどが未経験者だが利用意向の高さが浮き彫りとなった。

JTB総研は昨年ワーケーション研究会を立ち上げ、日本国際観光学会ワーケーション研究部会長を務める山梨大学大学院の田中敦教授と研究を進めてきた。田中氏は「ワーケーションには従業員・働き手、制度導入企業、行政・地域、関連事業者という4つのステークホルダーが存在し、形態はフリーランス型と雇用型に分かれる」。

企業に勤める社員が行う雇用型ワーケーションは、さらに(1)休暇に仕事を埋め込む「休暇活用型」、(2)テレワークに近い働き方を異なる場所で行う「日常埋め込み型」、(3)リゾートや温泉地で研修や会議を行う「オフサイト会議・研修型」の3パターンに大別。田中氏は、エクスペディアの2019年調査で18~34歳の60%が「休暇を取ることで前向きな姿勢になれる」、64%が「より多くの休暇をもらえるなら仕事を変えてもいい」と回答しており、同年のマイナビ調査では、大学生が企業選びで最注目するポイントの1位が「福利厚生制度の充実」だったことに着目。「コロナ禍で大きく価値観が変わる中、優秀な若い人材確保や定着に向けて、成長機会を応援する企業の社会評価が高まるのでは」として、その具体策としてワーケーションの有効性を強調した。

「ワーケーション・オンライン・シンポジウム2020」の様子

期待されるリモートワークの健康増進、地域との関わりが社員の新たな活力に

JTB総合研究所ヘルスツーリズム研究所の髙橋伸佳所長は、コロナ禍でリモートワークが拡大した一方、運動不足による健康悪化も増加している点にふれ「ワーケーションは企業経営者などからメリットが薄いという声もよく聞くが、地域資源を活用した社員の健康増進がキーワードになる」。沖縄の花粉症対策の滞在型ツアー、熊野古道の世界遺産とウォーキング、温泉を組み合わせたツアーなど、各地で既に作られたヘルスツーリズムのコンテンツとワーケーションを組み合わせる動きが出てきていることを指摘した。

2017年に日本で初めて、大企業でワーケーションを制度化したJAL(日本航空)の人財本部人財戦略部厚生企画・労務グループの東原祥匡氏は、「2015年からフリーアドレス導入や固定電話の廃止などリモートワークの環境整備が進む中、年休取得の促進に向け、休暇時に一部業務を行える制度として導入した」と経緯を説明。2018年は174名、2019年は247名の本社社員がワーケーションを取得しており、「取得者が200人を超えたあたりから社内で言葉が浸透してきた」と振り返った。

導入当初は社員から「休暇に働かせるのか」など懸念の声も上がったが、ワークショップや体験ツアーなどを実施して周知を図った。2018年に鹿児島県徳之島町で実施した家族や友人同伴の約20人の体験ツアーでは、家族との時間や働き方を見直す機会になったという声が多く、特に多かったのは地域の方とのふれあいが新たな活力になったという意見。「ワーケーションは地域との関わる機会を持つことが重要と感じた」と東原氏は語った。

地域と利用者をつなぐ「関係人口コーディネーター」的役割が必要

受け入れ地域として、ワーケーションにいち早く取り組んできた和歌山県の桐明祐治企画部情報政策課長は、「和歌山県では企業が費用負担し、社員が開発合宿や地元事業者との意見交換などを行い、地域課題の解決に貢献する『出張型ワーケーション』に力を入れてきた」として、2017年度から3年間で104社910名が利用した実績を語る。

和歌山県の取り組みについて「出張型ワーケーションは企画、観光、企業誘致、移住定住などさまざまな部局が関係する。知事のワーケーション推進に対する熱意が強く、知事のイニシアチブのもとで横断的な庁内コミュニケーションが取れている」と指摘。今年度は、和歌山でのワーケーションを希望する事業者や個人が知りたい情報をワンストップで探せるよう、ワークプレイスや宿泊施設、アクティビティなどを掲載した「Wakayama Workation Networks」を開設。現在90社のサービスを一覧できるという。

質疑応答では、JALのワーケーション労務規定について質問があった。東原氏は「休暇の一部の時間に業務を行うという考え方なので、休暇に関わる交通費などの費用はすべて自己負担。ワーケーション中の就業時間は、自宅テレワークやオフィスで行うのと同様にカウントする」と回答した。

「受け入れる地域に期待することは」という質問に、東原氏は「個人的にいろいろな場所でワーケーションを体験しているが、行政などの担当者が熱心でも一歩町に出るとよそ者扱いを受ける場合もある。wi-fiなどのハード整備も大事だが、より大事なのは居心地の良さ。地域が快く受け入れてくれるかどうかは重視している」と話した。

「受け入れ地域で、来訪者を受け入れるハードルを下げるには」という質問に対して、桐明氏は「行政だけでは限界があり、地域と来訪者をコーディネートする存在が必要。地元住民の信頼が厚く、首都圏や企業のこともわかる移住者などが間に入り、地元にとってメリットがあるようなコラボレーションの機会を作っていただくといい」と回答した。

田中氏も、「これまで観光に関する案内対象は観光地やアクティビティが中心だったが、ワーケーションの拡大に向けては、人に焦点を当てた『関係人口案内人』といった発想も必要」との見解を示した。

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