国内旅行市場は、2020年7月からの「GoToトラベル」キャンペーンによって、回復基調を見せてきた。しかし、11月に入ると感染が再拡大したことで、キャンペーンは一部地域で一時停止。12月14日には、政府が年末年始期間の全国的な一時停止を決めた。2021年6月までのキャンペーン期間延長も決まったものの、先行きの不透明感が増している。経済か、感染防止か。アクセルか、ブレーキか。二律背反の状況のもとで、国内の観光産業では、そのレジリエンス(回復力)が試されている。「シェアサミット2020」では、その観光レジリエンスをテーマに持続可能な観光モデルについて議論が行われた。
編集部注:このイベントは2020年11月16日におこなわれたものです。登壇者の見解は、取材当時の感染状況下で発言された内容となります。
消費者とのダイレクトなコミュニケーションを
日本交通公社観光政策研究部長の山田雄一氏は、「GoToトラベル」が実施された半年を「消費者とダイレクトにコミュニケーションを取れている地域や事業者の回復が早い」と振り返る。20世紀型の流通ルートではなく、ソーシャルメディアなどで自ら発信することで消費者との関係性を築くことが必要と指摘。「普段から、そういった関係性を持つことは、有事での復元力に有効に働く」と強調した。
また、地域との関係については、「観光客からの感染拡大の事例はほとんどないにもかかわらず、観光客が地域に脅威を与えるのではないかという風潮は悲劇」と話し、自治体がその空気感をコントロールできないことを大きな課題として挙げた。
日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、観光をショッピングに例えて、「洋服を買うのにこだわりを見せているのは全体の2~3割で、その人たちは買う洋服の背景まで考える。全体の7割はあまり積極的ではない。旅行も同じだろう」としたうえで、その2~3割としっかりとつながる商売をしていけば、残りの7割がついてくるとの持論を展開した。
そのうえで、レジリエンスへのキーワードとして挙げたのが「値上げ」。「GoToトラベル期間中に、ターゲットを絞り、コミュニケーションをとり、顧客目線に立って、いかに値上げができるかが重要だろう」と話し、まずは意識の高い顧客の獲得に力を入れる必要性を主張した。
山田氏も「ダイナミックプライシングで単価を上げることは大切」と指摘したほか、季節の野菜など地域の産品を送ることで、年単位で顧客と関係性を築いている旅館も出てきていると紹介し、「ある意味、付加価値を加えたサブスクリプション型のビジネスも潜在性が高いのではないか」と付け加えた。
京都市観光協会(DMO KYOTO)事務局次長の赤星周平氏は、京都市の観光政策の基本的な考え方として「京都は観光都市ではない。住民が優先。京都の資産を観光で使わせてもらっているという姿勢」と説明したうえで、コロナ以前はインバウンドの急増で一部地域でオーバーツーリズムが見られたものの、現在はほぼ国内需要のため、「落ち着いている」とした。
コロナ禍で市場環境は変化したが、それを前向きに捉え、「コロナ後は、もとに戻さない」と強調。そのために、住民、観光客、観光事業者が共通のモラルで相互尊重していくために「京都観光モラル」を策定したと説明した。
シェアリングとDXで流動性創出、サプライヤーのシェアにも期待
コロナ禍は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性とともに、その遅れを浮き彫りにした。デジタル化によって成長してきたシェアリングエコノミーは、DXを牽引するビジネスモデルと言える。
赤星氏は、コロナ禍中、ある京都の寺が始めた非公開箇所のオンライン公開販売が完売した例を挙げ、「顧客とのエンゲージメントを高めていくためにもDXは不可欠。京都市でも、今からDXのアクセルを踏んでいきたい」と意欲を示した。また、シェアリングエコノミーについて、「ユーザーのプラットフォームは成長しているが、サプライヤーが共通して使えるプラットフォームは少ない」と指摘。待遇改善にもつながる観光従事者の仕事のシェア、異業種から観光事業に参画できるシェアなど、「観光産業の生産性を高めるシェアリングに期待したい」と話した。
藻谷氏は、日本の問題点として「システムを個々が抱え込んでいる」点を指摘。「デジタル化は中小零細企業ほど活用できる。大企業しかできないと思っているところが、日本のデジタル化が遅れている証拠」との見解を示した。
また、山田氏は、DXとシェアリングによって人の流動性が生まれることに期待感を表し、「若いクリエイティブな人たちが流動すると、地域の発展につながり、より深みのある成長が実現できるのではないか」と将来を見据えた。