元大阪府知事・橋下氏が語った「観光の成長」のためのポイントとは? 魅力はその場所の“空気感”

楽天は2021年10月12日と13日、オンラインのビジネスカンファレンス「Rakuten Optimism 2021」を開催した。この中で、楽天グループの旅行事業のトップである髙野芳行氏(執行役員コマースカンパニーヴァイスプレジデントトラベル&モビリティ事業・事業長)は、元大阪府知事・大阪市長の弁護士・橋下徹氏を招請。「観光業界の持続的な成長に向けて」と題したセッションを設けた。

地域に人を呼び込み、経済を回す原動力となる観光を強くするために、観光業界は何をすべきか。府知事と市長時代に大鉈を振るい、関空や大阪城公園の民営化を実現。2025年の大阪万博の誘致にも推進した橋下氏が、同氏の首長時代の経験をもとに、地域観光に携わる事業者やDMOなどが行政とうまく連携し、発展させるためのアドバイスをした。

魅力はその場所の“空気感”、大阪は「ギラギラの原色ネオン」

近年のインバウンド振興は2003年の「観光立国」宣言が発端だが、訪日外客数が目に見えて伸長してきたのは、政府が訪日ビザの要件緩和を強めた2012年以降。コロナ禍で計画は狂ったが、東京五輪開催予定だった2020年には、訪日外国人観光客数は4000万人超を目指していた。橋下氏は、「このような形で日本全体の観光客が増えることが分かれば、あとは地方はどれだけ外客を呼び込めるかがポイントになる」と話す。

その時に一番大切なのは「地域の空気感」と橋下氏。例えば、京都は条例で屋外広告を厳しく制限しているが、それによってトーンの抑えられた街並みは寺社が点在する古都・京都の雰囲気にマッチする。しかし、大阪にはあわない。道頓堀の動くカニの看板やグリコのネオンは、大阪名物になっている。

「だから私がおこなったのは、規制ではなく自由化。大阪の感覚的な雰囲気を1つの売りにして、より強調するように打ち出した」(橋下氏)。橋本氏が目指した空気感は、繁華街の「原色でギラギラのネオン」。動画ビジョン規制も緩和した。「ニューヨークのタイムズスクエアは、ビジョンに広告を流す場合、とんでもない金額がかかる。これはまさに、空気感の価値だと思う」。

水の都大阪の中心部には、水路がロの字に流れている。水辺の周辺にもビルが建っているが、川にはパイプがむき出しのビルの背面が面している味気ない状況だった。そこで橋下氏は川辺でのライトアップを実施。飲食店が川辺にテラスを出し、賑わいが出てきた。この事例を引き合いに橋本氏は、「だから空気感が大切。各地域が、自らの特色を捉えて打ち出すことを、しなくてはならないと思う」と主張した。

橋下氏(右)と髙野氏(左)

実現可能性と関係性で基本方針に盛り込む

知事・市長時代の取り組みの事例を話した橋下氏。これを聞いた楽天・髙野氏は、「行政機関と民間事業者は、どのように付き合えば観光をよりよくできるのか」とアドバイスを求めた。

橋下氏の答えは、行政は特定業者との付き合いはできないので、業界側から提案すること。そこで重要なのは、フィージビリティ(実行可能性)。法律や制度上の規制をクリアし、行政側が執行しやすい提案が必要だという。

「業界側の思いだけでは行政は動かない。私もいろんな提案を受けたが、ほとんどが実現不可能な提案だった」(橋下氏)。その事態を避けるためにも橋下氏は、元役所勤務の人材などを活用し、フィージビリティチェックをするように進言。前述の川辺でのテラス出店は、本来は河川法の規制で実現は不可能だが、特区とすることでクリアした。「何が障害となっているのかを見つけ出す作業が、役所との付き合いでは大切」(橋下氏)だと強調する。

さらに髙野氏は、行政と長期的な付き合いをするためのアドバイスも求めた。行政機関は人事異動が多く、政治家も任期がある。これに対する橋下氏の回答は、提案プランを役所の基本方針にのせること。

橋下氏は府知事時代、基本方針のなかで、世界と日本各地を結ぶ玄関口として日本の成長をけん引する「中継都市」を打ち出し、その施策に「内外の集客力強化」「アジアの活力の取り込み強化・物流人流インフラの活用」などを策定。関空の民営化はこの一環で、関空の国際ハブ空港化をめざすのが目的だった。

「これは業界団体からの提案ではないが、人口減少社会の中で外から人と金を引っ張ってくるという目的で打ち出した。この中で大阪を国際エンターテイメント都市にし、外国人観光客を呼び込むことも盛り込んだ。私の辞任後、府知事が次の松井氏や吉村氏に代わっても、この基本方針通りに進んだ」(橋下氏)。

投影資料より

大阪城公園の民営化後、公園内でフリースタイル・モトクロス大会が開催され、城をバックにバイクがジャンプする画像や映像は話題を呼んだ。公園内の売店も様々な店舗が入店し、賑わいが生まれた。「1つの基本方針を打ち立て、民間の活力を最大化しようとすると職員の意欲も変わってくる。業界の方々が自分たちの提案を推進するなら、基本方針に乗せることがものすごく大切」と強調する。

ただし、そのためには「提案時だけではなく、日ごろの付き合いが大切。普段の接点がない中で、自分たちの考えを役所の方針にするよう求めるのは無理」と、役所だけでなく政治との関係を持つ重要性も指摘した。議員、政治家と良い関係を築いて、二人三脚で進める。「もっと言えば、日本全体の基本方針にするために、各政党や国会議員との付き合いの中で押し上げていく」とも述べた。

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