近畿日本ツーリストの過大請求問題、今わかっていることをまとめた、不正は最大14.7億円、調査費用に特損9億円計上

KNT-CTホールディングスは2023年6月1日、連結子会社である近畿日本ツーリストの過大請求事案について、警察の捜査を受けていることを明らかにした。同日の決算会見で同社が言及した具体的な過大請求の概要と要因、今後の対策についてまとめた。

同社と近畿日本ツーリストは、「本件事態を厳粛に受け止め、当局の捜査に協力してまいります。株主・投資家の皆様をはじめとする関係者の皆様型には、多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申しあげます」と謝罪。KNT-CTホールディングス代表取締役社長の米田昭正氏は、「大変遺憾で責任を痛感しており、警察の捜査に全面的に協力するよう指示している。ただ、詳細については、捜査中につき差し控えさせていただきます」などとコメントした。

調査費用として特損9億円計上

コロナ禍で激減した旅行事業以外の案件として、旅行会社の経営を支えてきたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)。旅行大手のKNTも旅行外事業は2021年度に約700億円、2022年度は約900億円にのぼっていた。ところが、状況が暗転したのは2023年4月。近畿日本ツーリストの西日本支社管内の支店が大阪府東大阪市から受託した新型コロナウイルスワクチン接種に係る業務について、約2億9000万円の過大請求をおこなっていたことが発覚した。

具体的には、日によって約定した席数を下回る数でコールセンター業務の再委託先に再委託していたにもかかわらず、東大阪市に対しては、約定していた席数を基準に報酬を請求していた。

その後、2020年度から2022年度の受託業務2924件を社内調査した結果、2023年5月30日時点で、過大請求およびその疑義がある事案は80自治体に広がり、最大14億7000万円に上ることが明らかになった。2023年6月1日発表した2023年3月期連結決算では、売上高から過大請求に伴う同14億7000万円を減額、純利益からも調査費用として特損9億円を計上した。

業務委託契約への知識不足も要因に

2023年6月1日、決算会見に出席したKNT-CTホールディングス代表取締役社長の米田昭正氏は、今回の不正が「組織ぐるみではない」と否定しつつも、遠因として組織風土を挙げ、「コロナ禍でとりわけ団体旅行需要の回復が見込めないなか、担当者が業績目標を達成したい思いで動いたこともあった」と忸怩たる思いを語った。

もっとも、業界大手の旅行会社が、なぜこれだけの不正に陥ったのだろうか。米田氏は、公金を取り扱う重要性に欠けていたとともに、業務委託契約に対する現場の認識が低かった点も要因に挙げた。

業務委託契約には、請負契約と準委任契約がある。請負契約が、発注者が指定した業務を受注者が完成させることを約束する契約で、指定した通りであれば誰が、どのような手順で作成したのかその方法は問わないことになっているのに対し、準委任契約は、提供した労働時間や工数などを基準に実際に業務を行った対価として報酬が支払われる。近畿日本ツーリストが最初にコロナ関連業務を受注したのは2020年の「10万円給付」で、その際は請負契約だったが、その後、ワクチン接種の事務局などが準委任契約に切り替わった。

米田氏は、「さらに、最初は人数、コールセンターの座席数などで契約していたものが、徐々に数量発注になったにもかかわらず、以前の形で請求を続けた。東大阪市の受託では、現場が契約の違いに途中で気づいたが、そのまま走ってしまい、最後は市からの求めに対し、再委託先にも改ざん依頼する事態になってしまった。誠に申し訳ない」と謝罪しながら説明した。また、会見が行われた6月1日時点で、過大請求分を返納したのは3自治体。大阪府には5月26日付で返納したと明かした。

「警察の捜査にも全面的に調査しながら真実を明らかにする」と語った米田氏。信頼回復を図るため、KNT-CTホールディングスに「コンプライアンス改革本部」を設置してグループ全体の組織風土改革を図るほか、近畿日本ツーリストに「法令倫理管理センター」を置き、今後、過大請求事案に伴って提言される再発防止策にも取り組む方針だ。

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