台湾の観光産業から読み解く、急成長の理由と、“スタイリッシュトラベル”に象徴される新興企業の躍進

国内外の観光関係者が集った「WiT Japan & North Asia 2023」では、日本にとってインバウンド、アウトバウンドともに最も重要な市場のひとつである台湾からもキーパーソンが来日して議論を交わした。台湾では、既存企業、スタートアップとともに、地域が成長する旅行エコシステムの構築が進んでいる。その最新トレンドに迫ったパネルディスカッションをリポートする。

旅行系企業の株価上昇、新興企業も続々誕生

「WiT Japan & North Asia 2023」 の台湾をテーマにしたセッションでモデレーターを務めたのは、台湾の旅行スタートアップと観光IT起業家の最大コミュニティであるRTM協会創設者兼社長のダニエル・チェン氏だ。まず、チェン氏は2023年第1四半期(1~3月)の訪日台湾人客数が80万2150人(2019年比で回復率70.8%)で国・地域別トップ、訪台日本人客数は13万6338人(同29.2%)で韓国に次ぐ2位という数字を示したうえで、「日本は台湾にとってまさにキーマーケットだが、海外旅行の回復の遅れが懸念材料だ」と話した。

そんな台湾の旅行業界は大手、中小ともに順調に資金調達が進み、株価、売上高成長率ともに急伸している。特に著しいのが新興企業の台頭で、チェン氏は例として、デザイン性の高さが売りで台北から成田、関西、福岡に就航し、台湾で“スタイリッシュトラベル”の代表格となっている「スターラックス航空」、訪日外国人向けに沖縄と北海道にも進出した台湾発のレンタカー予約プラットフォーム「gogoout」をはじめ、高級グランピング、女性向け、アクセシブル・ツーリズムなどさまざまな分野でコロナ禍前後の新規参入組が存在感を増していると言及。「台湾でのビジネスチャンスの土壌は十分あり、むしろ人材の確保、どんどん誕生するスタートアップと既存企業との協業など、パラダイムシフトをどう進めていくかが最大の課題となっている」と指摘した。

こうした状況に対し、台湾最大手の旅行会社であるライオン・トラベル・グループ最高投資責任者のライアン・セン氏は、「一度成功を収め、企業が大きくなればなるほど新たなチャンレンジが難しくなる」と吐露したうえで、同社代表取締役の王文傑氏の「コロナ禍という危機を経て我々はイノベーションすることができた」との言葉を紹介。「既存の社員意識を変えながら、スタートアップへの出資、協業を早いスピードで進めていきたい」との方針を示した。

ライオン・トラベル・グループの株価はコロナ禍で一時は低迷したが、2022年11月以降、急騰しており、2023年5月には史上最高値を更新した。セン氏は「コロナで休眠状態にあった時期も、台湾域内のサプライヤーチェーン、トラベルテクノロジーへの投資を続けた。多様な文化的背景を持つ台湾だからこそ、日本市場も含め満足してもらえるサービスを磨いてきたと自負している。業界最大手としても、新たなプレイヤーを含めた関係者とのさまざまな連携を通じて、台湾の観光産業のパイを拡大し、儲かる業界に変えていきたい」と意気込んだ。

台湾ならではの多様性を武器に

台湾は優れたビジネス環境を有しており、旅行エコシステムの構築も進んでいる。台湾クリエイティブツーリズム&コミュニティデザイン協会会長のジーナ・ツァイ氏は、「台湾の旅行業界はAI技術を導入することでさらに成長の可能性が広がる」との見解を示しつつ、台東市の小さなまちでB&Bを開業したLGBT+Qのカップルが、地元の人たちのコミュニティと協力しながらコーヒーショップ、スローフードの食事、アクティビティなど、さまざまな旅行スタイルの提供を形にしていった事例を紹介。

ライオン・トラベル・グループのセン氏は、「このように地域のマイクロサービスが進化しているのは非常に素晴らしい。ただ、その裏で我々のような大手と組んでAIをはじめとしたテクノロジーを活用し、台湾の魅力を世界に売り出すことが求められている。ブロックチェーン、NFTなどの利用も、視野に入れながら一緒に展開していくべきだろう」と応えた。

台湾は、アジア諸国の中で女性議員の比率が最も高いことでも知られている。ただ、旅行業をはじめ、伝統的に男性が多勢を占める分野も少なくない。ヘルスケアをはじめ起業家として成功してきたレイン枢機卿最高執行責任者のポリー・チェン氏は、「旅行業界においても、さらなる発展には、女性起業家の創出だけでなく、みんなが平等に議論できる場が重要だ」と指摘した。

ポリー・チェン氏は、コロナ禍で台湾政府が国内経済活性化に向け、地方ツーリズムの育成に関する補助金を拠出し、前述のツァイ氏が紹介したようなさまざまなコミュニティが地域で生まれていることにも言及。「台湾は2019年に同性婚を認める法律をアジアで初めて施行した。大手とスタートアップが手を組んでテクノロジーを駆使して魅力発信していくとともに、マイクロサービスベンダーで、LGBT+Q をはじめとしたバックグラウンド、専門性を持つ多様性が生まれてきていることは、台湾がすべてのダイバーシティを受け入れる観光地としての土壌があることを示す大きなサインになる」と力を込めた。

また、ツァイ氏も「マイクロサービスは、スケールアップができるかどうかといった課題がある。ライオン・トラベルのような大手と組み、テクノロジーを駆使することで、次々と誕生している地域ベースの体験プログラムの発信を加速できるはずだ」と語り、ダニエル・チェン氏が「静かに、確実に発展しつつある台湾観光の動向に着目してもらいたい」とまとめた。

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