ブータンの観光税は1.45万円に、観光地を劣化させない、環境保護と経済のバランスとは?【外電】

写真:ロイター通信

風光明媚なヒマラヤの王国ブータンでは、清掃隊が日々、森林や山道をパトロールし、観光客が残したゴミを探し、茂みや木に刺さった空のペットボトルやスナック菓子の袋を取り除いている。

清掃チームを運営する資金は、ブータンが数十年前から課してきた観光税「持続可能な開発料」(SDF)から捻出されている。オーバーツーリズムを避け、南アジアで唯一の「カーボン・マイナス国家」(年間の温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る国)としての地位を維持するための税金だ。

ブータンは先ごろ、SDFを半額の1日100ドル(約1万4500円)に引き下げた。観光による地域経済および雇用の下支えと、自然・環境保護の間でバランスを取ろうと格闘している。

ブータン政府関係者はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「価値が高く、量(人数)は少ない」観光という原則の下、この税金はインフラの整備や自然や文化の保護、化石燃料への依存を減らすための電動交通への投資に充てられると述べた。

人口80万人足らずのこの小さな国が、現在、世界から脚光を浴びているのは事実だが、これはブータンだけの問題ではない。

新型コロナウイルスのパンデミック後、世界各国が観光セクターの再活性化を模索している。過密状態を引き起こしたり、公害や環境への悪影響を拡大させることなく、より多くの観光客を誘致し、収益を向上させる最善の方法についての議論も、その中で高まりを見せている。

専門家は、訪問者数だけで観光を評価する従来のアプローチは時代遅れであり、観光セクターにとって有害だと指摘する。政府に対しては、より長期間の、思慮深い滞在を促すような観光客受け入れの方法を検討するよう促している。

「SDFは観光地が劣化しないようにするための方法のひとつだ」と、米国に本部を置く非営利団体、グローバル・サステイナブル・ツーリズム・カウンシルのC.B.ラムクマール副会長は話す。「自然保護のための良い方法」でもあるという。

多くの国や都市が何らかの形で観光税を導入しているが、ブータンのように税収を自然保護や持続可能な取り組みに充てることを徹底しているところはほとんどない。

ニュージーランドは2019年、35NZドル(約3000円)の観光税を導入し、自然保護とインフラ・プロジェクトに資金を提供している。インドネシアのリゾート地バリ島は2024年から15万ルピア(約1400円)の観光税を課し、文化と環境の保護に役立てる予定だ。

観光税を自然保護活動に

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、観光産業は世界の温室効果ガス排出量の約8~11%を占めており、その大部分は交通によるものだ。

観光は気候変動の影響に対して最も脆弱なセクターのひとつでもあり、研究者は気温上昇や海面上昇が観光客数に影響を与えかねないと指摘している。

例えば7月に山火事でリゾート地やホテルが焼失したギリシャのロードス島からは、約2万人の外国人観光客が避難した。

最近の調査や業界幹部の話によると、エコツーリズムに対する需要は全体的に伸びてはいるが、持続可能な旅行に対して高いお金を払おうという人は少ない。

ブータンは長年SDFを改定し続け、長期滞在をする旅行者には減免措置を適用した。

2022年9月、コロナ禍による2年以上の閉鎖を経て観光客受け入れを再開した際には、SDFを約30年間続いた65ドルから200ドルに引き上げた。

しかしこの増税は、パンデミックの影響と相まって観光客数に打撃を与え、国内の旅行業者、ホテル、手工芸品・土産物店に損失をもたらした。

政府のデータによると、今年1月から8月にかけてブータンを訪れた観光客は約6万人で、SDFによる税収は1350万ドルだった。パンデミック前の2019年には、約31万6000人の観光客が訪れ、8860万ドルのSDF収入があった。

SDFを引き下げた際、政府は観光部門を復活させ、雇用を創出し、外貨を獲得することが狙いだと説明した。

ブータンは、国の経済規模30億ドル(約4350億円)に対し、観光業の寄与度を現在の約5%から20%に引き上げることを計画している。

ブータン観光局のドルジ・ドラドゥル局長は、氷河の融解や予測不能な天候など気候変動の脅威に直面するブータンにとって、SDFは自然保護への取り組みを強化するために不可欠だと電子メールで述べた。「私たちの未来のため、遺産を守り、次世代のために新たな道を切り開くことが必要だ」と訴える。

ブータンの「カーボン・マイナス」アプローチは1970年代に始まった。当時の国王は、保全と開発を両立させる持続可能な森林管理によって経済を成り立たせようとした。

ブータンの森林は毎年900万トン以上の炭素を吸収している。ドラドゥル氏によると、ブータン経済は化石燃料の使用と廃棄物を削減するように設計されているため、炭素排出量は400万トン以下にとどまる。

将来への懸念

ブータンは長年、特にインド人旅行者にとっては最高の休暇先だった。インド人は無料で入国できていたが、昨年、1日1200ルピー(約2100円)の税金が導入された。

旅行関係者によると、インド人観光客が棄てるゴミや、仏教建築に登って写真を撮るなどの行為が問題になっていた。税金が導入された今は、インドから旅行の予約が入らないという。

ブータン観光局のドラドゥル氏は、ブータンは「観光の量(人数)」よりも環境、文化、人々の幸福を優先しているため、インド人観光客に対する税金は少なくともあと2年間は据え置かれる予定だと述べた。

世界中で観光税を検討する場所が増えているが、観光税の導入は、手頃な料金で旅行を楽しみたい人々を排除してしまうリスクと背中合わせだ。

ブータンでのホテル・レストラン協会のジグメ・チェリン会長は、SDFは持続可能性という国のビジョンに沿ったものだが、「ビジネスへの影響」という点では課題もあると述べた。

同氏は、今回の減税によって観光産業の伸びが加速することを望んでいると語った。より多くの顧客と収入を求める地元企業も、同様の考えを示している。

※ドル円換算は1ユーロ145円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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