福井県の地銀と新聞社が立ち上げた地域アプリ、設立の背景からオープンデータ化、地域通貨やMaaS機能まで聞いてきた

福井銀行と福井新聞社は2022年9月、DXを通じて地域のウェルビーイングを高めていくことを目的に、アプリ開発・運営する「ふくいのデジタル」を立ち上げた。地域の銀行と新聞社が共同出資する全国的にも珍しい取り組みだ。

スピード感のある意識決定と事業推進力を持たせるために、両社から若手社員を登用。社長には福井銀行から30代の小林拓未氏が就いた。設立から1年半あまりだが、多様な地域プレイヤーを巻き込み、さまざまな取り組みを機動力を持って展開している。デジタルが地域を豊かにする仕組みづくりとは。そのチャレンジを小林氏に聞いてみた。

ふくいのデジタル設立の背景とは

福井銀行と福井新聞社は、ふくいのデジタルの立ち上げ以前から、福井県民の利便性を高め、地域の価値を創出する「ふくい価値創造プラットフォーム」構想を進めてきた。その取り組みの一つが、QUICPayとnanacoを搭載した電子マネーカード「JURACA(ジュラカ)」の共同発行だ。このカードは。福井県のふるさと県民カードとして認定。独自特典などを用意し、利用者に新たな価値を提供してきた。

2019年には、それまでの取り組みをベースに、新たに「新・ふくい価値創造プラットフォーム」構想を展開。スマホアプリやQRコード決済などの機能を基軸にキャッシュレス化を進める。

2022年に設立されたふくいのデジタルの目的は、DXを通じて福井県民だけでなく、福井を訪れた人のウェルビーイングを高めていくことだ。小林氏は、地方銀行の考えとして、「地域が豊かにならないと、銀行も衰退していくという考えが究極的にはある。地域の産業を重視していくなかで、観光は裾野が広いという認識があった」と話し、デジタルサービスを旅行者にも展開していく意味を説明した。100年に1度のチャンスと言われる県内の北陸新幹線開業も後押しとなった。

小林氏は「銀行のみだと、どうしても守りがちになるが、地域の新聞社と組むことで、大きなイノベーションが生まれる。『福井のためなら、なんでもやってやろう』という思いがあった」と強調した。

「ふくいのデジタル」が目指すデジタル社会。ふくいのデジタルは設立後、スマホアプリ「ふくアプリ」をリリースする。目指すのは「手元のスマートフォンに『ふくアプリ』さえダウンロードしておけば、福井でのあらゆる生活シーンをスマートライフ化できること」(小林氏)。決済関連機能として、地域共通電子マネー、プレミアム商品券、地域共通ポイントなどを搭載。ニュースや防災情報などの配信も行っている。今後は、デジタルスタンプラリーや旅行者向けに企画乗車券の提供や経路検索などを含めたMaaS機能も実装していく計画だという。

小林氏は、ふくアプリの利用を広めていくには「銀行と新聞だけでは限界がある」としたうえで、「団体、自治体、企業など地域のさまざまなステークホルダーを巻き込むこと」をカギとして挙げ、「皆さんにサービスの種を蒔いてもらい、それを利用者に活用してもらい、アプリを大きく育てていきたい」と、将来のビジョンを描く。

進化する「ふくアプリ」。データ活用で課題解決へ、福井県のオープンデータ化にも

ふくアプリの役割は、サービスの提供に加えて、その利用から取得されるデータ活用にも広がる。

2022年10月7日~9日に越前市、鯖江市、越前町で開催された地元の工房などが集まるオープンファクトリーイベント 「RENEW」では、ふくアプリに参加店舗で使えるデジタル地域通貨「RENEWpay」を導入。ふくアプリで5000円入金すると6000円分のRENEWpayを付与する仕組みを提供した。

この取り組みは、来場者へのインセンティブだけでなく、来場者の属性や購入品の実態が分からないというRENEWの課題解決に向けたデータ収集の目的もあった。ふくアプリでは、チャージ時に利用者の基本4情報の入力を求めた。

小林氏によると、期間中の利用者数は479人、合計決済額は約500万円。利用者の41%が県外移住者。県内移住者は飲食関連の決済が多く、男女別でも、男性の方が1回あたりの消費額が大きいなど決済額の違いがデータとして取得できたという。

また、2023年1月からは全国旅行支援の福井県電子クーポン事業「ふくいdeお得キャンペーン」でも活用。独自システムで、クーポンを運用したのは全国的にも珍しい事例だ。ふくアプリ加盟店約3000店舗で約15万人が利用し、決済額は約7億円。その決済データをベースに、旅行支援事業の終了後も来県者との関係人口拡大のツールとして活用している。

さらに、この取り組みの画期的なところは、収集したデータを、福井県観光連盟が中心となり、さまざまな地域事業者が立ち上げたデータ・マネージメント・プラットフォーム(DMP)の「福井県観光分析システム(FTAS)」でオーブンデータ化したこと。一つの事業にデータを閉じるのではなく、地域全体でそれを利活用し、地域全体の価値を高めていくのが目的だ。

例えば、「ふくいdeお得キャンペーン」で取得した決済データを、県内の地域ごとの決済規模をマップ上で見える化した。このほかにもFTASでは、さまざまなデータをオープン化している。

小林氏は「オープンデータはマーケテイングとして広がりを見せつつある。銀行の業務でも、オープンデータを利用して、取引先にさまざまな提案ができるようになるのでは」と期待を込める。

「ふくいのデジタル」社長の小林氏。若い世代が福井県のDXを牽引する。スーバーアプリ化に向けて地域通貨やMaaS機能も

ふくアプリの柱の一つがデジタル地域通貨「はぴコイン」だ。2023年11月から福井県全域で「はぴコイン」が利用できるデジタル決済プラットフォームを整備した。2023年12月末時点でダウンロード数は累計約30万件、ユーザー数は約8万3000人。福井県の人口が約76万人であることから、開始2ヶ月でかなり急速に広まったことが伺える。

ふくアプリでは現在、自治体発行の商品券、出産・子育て支援など行政からの交付金やポイントのほか、ウォーキングで付与される健康ポイント、ポランティア参加で付与されるポランティアポイントなども実証しているところ。受け取りもQRコードの読み取りで可能にするなどユーザビリティにもこだわった。

このほか、今年3月の北陸新幹線開業に向けて、移動手段の経路検索や電子企画乗車券の発券などのMaaS機能もふくアプリに実装する動きも加速している。県嶺北11市町、交通事業者、福井銀行、福井新聞社などで作る「ふくいMaaS協議会」は、交通の検索、予約、決済までを一括で利用できる機能を、すでにデジタルクーポンなどで実績のあるふくアプリのサービスの一つとして組み込むことを決めた。

小林氏は「企画乗車券と地域通貨や地域ポイントとをシームレスに繋ぎ、周遊観光で利用してもらうことを想定している」と明かす。

ふくアプリは、まだ始まったばかりだ。「福井県のプラットフォームとして認めてもらったが、自治体でも、民間事業者でも、そして利用者でも、これからどれだけ使ってもらえて、アプリを成長させていくか。それが、ふくいのデジタルの仕事」と小林氏。

ふくいのデジタルは、デジタル技術を活用した地域課題の解決に取り組む企業や自治体を表彰する「Digi田甲子園2023」で民間企業・団体部門ベスト4に選出。その仕事の意義が認められた。

地域を巻き込み、地域の人も旅行者も使えるスーパーアプリへ。小林氏は「全国的にも例のない福井DXモデルを作り上げていきたい」と先を見据えた。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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