観光庁「観光DX成果報告」を聞いてきた、ポイントはデータ活用や地域の合意形成

観光庁は、観光DX成果報告会「Next Tourism Summit 2024」を開催した。観光分野のDX推進事業「事業者間・地域間におけるデータ連携等を通じた観光・地域経済活性化実証事業」に取り組む団体が成果を報告。観光DXを進めるにあたって事業者が直面した課題、解決のために用いたデジタルツールの活用方法や分析結果などが発表された。登壇した6団体のうち、4つの取り組みをレポートする。

箱根: 観光デジタルマップでリアルタイムデータ

箱根温泉DX推進コンソーシアムは、「快適な周遊、旅を満喫する箱根温泉まるごとDX事業」の成果を報告した。人口1万人で2000万人の観光客を受け入れている箱根エリアでは、交通渋滞の慢性化などの課題を抱えており、渋滞予測や駐車場の満空情報、飲食店の混雑などの観光情報の提供が不足しているという。

実証事業では、目指す姿として「タビマエ、タビナカで快適な周遊を実現することで、旅行者の満足度を向上させ、観光消費を維持向上すること」を描いた。そのうえで、箱根観光デジタルマップの構築、Google機能を活用した情報発信、観光データのオープン化を方向性として掲げた。

KGIは、タビマエ、タビナカの情報発信による行動変容とし、デジタルマップでの利用者アクション数を233回/月に設定した。

箱根観光デジタルマップの構築では、さまざまな事業者との連携でリアルタイムデータを表示し、そのデータをDMOが箱根観光統合データベースとして集約した。

箱根DMO兼ホテルおかだ 常務取締役 営業部長 原洋平氏

旅行者向けには、混雑情報やクーポンなどをマップ上で配信。デジタルマップ利用者数は、KPIの1万1650人/月には届いていなものの、2月には1万人強まで増えたという。一方、事業者側では、周遊性向上や渋滞緩和のプラットフォームとしての認識が浸透してきたと説明した。

Googleマップ機能の最大限活用では、Googleマップに掲載されていない店舗のGoogleビジネスプロフィールへの登録を進めるとともに、交通(バス)については、Googleマップで時刻表や乗換案内が便利に使えるようにバスデータのGTFS化を実施した。

ビジネスプロフィールへの登録については、事業者の高齢化などの要因で、目標の6割には届かなかったため、DMOとして今後も支援を続けていく。GTFSの活用では、箱根登山バスと伊豆箱根バスの交通データをオープン化し、デジタルマップとの連携を行った。

データのオープン化では、これまで箱根DMOで蓄積してきたデータについて一部オープン化したほか、他地域とのデータ連携や新たなサービスへの組み込みができるようにAPIで公開も行った。今後はデータオープンプラットホームでの連携をさらに拡大させていく。

また、オープンデータを活用したマネタイズの設計も完了。今後運用を進めていき、デジタルマップのランニングコストなどに活用していく。

こうした取り組みの結果、事業期間内のデジタルマップでの利用者アクション数は296回/月となり、KGIを達成した。

海の京都: 「海の京都コイン」を基盤に消費拡大とデータ収集

海の京都観光DX推進協議会は、「海の京都データ交換所プロジェクト」実証事業の成果報告を行なった。目指す姿は、観光による地域への経済波及効果と「海の京都コイン」をふるさと納税の返礼品とした来訪者増加と消費拡大。

7行政区で構成される海の京都エリアでは、閑散期と繁忙期とでは観光消費額に大きな差があり、エリア内周遊が行われていない状況のなかで、地域全体でのマーケティングに課題がある。

そのうえで、実証では、方向性として「海の京都コイン」の促進、観光デジタルマップ上での「海の京都コイン」のマルチユース、CRMでの顧客情報一元管理、DMOと事業者とのデータ共有を掲げ、それぞれKPIを立て、KGIとして「海の京都コイン」に交換できるふるさと納税額1700万円を設定した。

「海の京都コイン」のモデル店舗づくりでは、決済額の10%が「プロモーション協力金」として加盟店に還元される仕組みを構築。モデル店舗として、10万円以上の高額寄付が期待できる加盟店を選定し、自社HPでタビマエ、タビナカでの告知を強化した。

その結果、ふるさと納税額はKGI達成率131%の約2200万円、KPIである10万円以上の寄付件数100件については、達成率96%の96件となった。しかし、自治体間の差も顕在化。最多寄付額を集めた京丹後市と最小寄付額の綾部市では100倍以上の差が出たことから、エリア全体での寄付額底上げに課題が残ったと振り返った。

観光デジタルマップでは、観光情報の提供、交通情報の可視化、「海の京都コイン」の加盟店の掲載およびコイン発出機能を開発した。

海の京都DMO総合企画局 専門役、原康太朗氏

その結果、「海の京都コイン」の獲得数増加、旅行者とのデジタル接点を通じたデータ収集では成果が出た一方、地域事業者が共通で活用できるマップとしては課題が残ったという。

CRMの強化では、各種施策で取得した顧客データを一元管理するともに、ECサイトの利用促進などでデータを利活用。新たな気づきとして、ふるさと納税者の方が、それ以外の人よりもメール開封率・クリック率が高くなったことを挙げた。

データ交換所の構築と地域の合意形成では、各種統計データ、生データのBIダッシュボード化、分析レポートを地域ステークホルダー間で共有できるようにした。そのうえで、各市町で「海の京都DMOサロン」をリアル開催し、データをもとに参加者間でディスカッションを行った。課題としてはデジタルマーケティング人材の継続的な活用を挙げた。

隠岐: 観光情報プラットフォームを強化、取得データを還元

隠岐OTA推進共同事業体の実証事業は「隠岐4島の予約DX・CRM統合による経済循環プロジェクト」。隠岐地域は、旅行者のニーズに合わせた高付加価値なサービスの提供、4島周遊の魅力を伝える情報発信、地域全体でのCRMの活用などで課題を抱えている。

この課題解決に向けて、情報発信・予約決済が可能なシームレスな地域サイトの構築と、取得データの分析・活用による再来訪促進と消費拡大の2つを方向性として示した。

観光情報プラットフォームの強化では、ウェブサイト「隠岐の島旅」を来島前のストレスや不安を軽減させる記事を作成したほか、宿泊、アクティビティなどの予約、企画乗船券の販売などをワンストップで行えるプラットフォームに刷新した。

また、各種予約や企画乗船券の販売からの旅行者情報を蓄積し、メールなどによる情報配信やリピート推奨を行うとともに、タビマエでの体験商品を訴求するクロスセルを実施。さらに、BIツールを活用して予約データを可視化し、地域内でのデータ活用を進めた。

そのうえで、実証事業のKGIをシステム利用者の観光消費額680万円と設定。KPIとしては、新たに構築するシステムでのCVR5%、顧客データベース/CRM基盤の整備については1回の滞在での平均訪島数2.2島を掲げた。

CVRに関しては、実証開始の11月こそ約0.5%だったものの、翌年1月には約7.4%まで向上。平均訪島数は2.0島となった。ただ、旅行者の平均リードタイム約50日が考慮できていなかったことを課題として挙げた。KGIの達成率は82.3%の559万円。

データ活用については、隠岐を認知してから、検索、予約、来島までの実態が把握できるようになり、そのデータを事業者に還元することで、地域一体的な施策立案が可能になったと総括した。

隠岐ジオパーク推進機構マーケティンググループ 河本直起氏

日本観光振興協会: 全国観光DMPを用いたデータでOODAループを

日本観光振興デジタルプラットフォーム推進コンソーシアムは、「日本観光振興デジタルプラットフォーム」構築事業について報告した。

この事業では、「日本観光振興デジタルプラットフォーム」と地域がデータを効率的に整理する「観光情報データ」と「観光マーケティングデータ」を観光事業者が活用し、施策立案やマーケティング施策に用いることで、自発的にOODA(観察・情勢判断・意思決定・行動)ループを回すことを目指す。

方向性として、全国観光DMPを用いたマーケティングデータの基礎整備と可視化およびデータ戦略・先進モデル地域の構築を掲げている。

実証では、地域が共通で利用できる「全国観光DMP」と、そのデータの可視化・分析するBI機能を持つ「高度化地域DMP・基本機能」を構築し、具体的なデータ活用を支援する。全国観光DMPでは、地域の観光概況、地域の観光分析、地域の魅力分析、他地域との比較の4つのダッシュボード機能を整備。通常業務での継続利用を目指す。

取り組みレベルを無関心地域、活用意欲地域、積極的活用地域に分け、それぞれに活用プログラムを提案、効率的な業務支援を行い、OODAを回していく。

OODAのうち、Observe (観察)でデータの把握、Orient(情勢判断)でデータ分析と活用を行い、現状分析・課題・方向性をまとめたうえで施策の仮説を作成。それを元に最適なプランを選択するDecide(意思決定)、そして意思決定した内容を実行に移すAct(行動)を行う。

今後、全国観光DMPを元に、DMOが地域独自のダッシュボードを構築し、データ深度化による戦略・効果分析を行い、地域の伴奏支援やシステム開発を行う。

そのうえで、実証地域として群馬県、埼玉県、千葉県、長崎県の例を紹介した。それぞれ、基本機能を活用したOODAループを実施し、観光振興計画を策定。今後は、独自のDMPを構築し、事業者のコンテンツやサービス開発への伴奏支援、データ分析に基づくターゲティング広告配信などを行っていくという。

最終的には、「全国観光DMP」にデータを蓄積し、BI機能を持つ「高度化地域DMP」で可視化。データを関係者間で共有・分析し、戦略に活用することで、観光地経営の高度化、観光産業の生産性向上、観光地域づくりへの住民参加、旅行者の利便性向上を実現していく。

事業が目指す世界観(プレゼンは日本観光振興協会 調査研究部門 観光情報部長 森岡順子氏が実施)

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