日本の観光産業への投資を増やすには? UNツーリズムが開催したフォーラムを取材した、いまある課題と未来の可能性

国連世界観光機関(UNツーリズム)は、2025年4月末に大阪・関西万博の会場内の国連パビリオンで「グローバル観光投資フォーラム:未来に向けた文化の共創」を開催した。このフォーラムは、万博のテーマウィーク「未来への文化共創」に合わせて開催されたもの。国内外の観光分野のリーダーや投資家が登壇し、持続可能で包括的な成長を実現する観光分野への投資促進に向けた方策や事例共有、意見交換をおこなった。

アジア太平洋地域、中東が投資先として注目

パネルディスカッションに先立ち、UNツーリズムのイノベーション・教育・投資ディレクターのアントニオ・ロペス・デ・アビラ氏が「グローバル・ツーリズムの変革における投資の役割」をテーマに講演。2024年の国際線到着旅客数がコロナ禍前の水準に回復しつつあり、アジア太平洋地域では前年比3割以上伸びたこと、アジア太平洋や中東地域への外国直接投資(FDI)が、北米や欧州を上回る規模に達したとされていることなどを示した。

そして、アビラ氏は、2018年から2024年にかけて観光分野で約3000のプロジェクトに約2000憶ドルが投資され、約45万人の雇用創出が見込まれているという調査結果があると紹介。そのうえで、「観光への投資は、雇用を創出するだけでなく、他の産業への投資につながる。観光客を受け入れることは、地域の経済成長を後押しすることになる」と観光投資の重要性を強調した。

講演をおこなうUNツーリズムのアントニオ・ロペス・デ・アビラ氏

労働力不足や言葉の壁が投資の壁に

「インパクトのための投資:観光セクターにおける持続可能で包括的な成長の推進」と題したパネルディスカッションには、JTB代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏、Destination Capital(DC)のCEO、ジェームズ・カプラン氏、関西エアポート執行役員で副最高商業責任者(航空担当)の新宮早人氏、日本ハイアット日本・ミクロネシア地区代表取締役副社長の坂村政彦氏、Plug and Play APACのManaging PartnerでPlug and Play Japan代表取締役社長のフィリップ・ヴィンセント氏が登壇。旅行業、観光投資、交通、宿泊、アクセラレーターの立場から、アジア太平洋地域、特に日本における観光投資の課題や将来性などについて意見を交わした。モデレーターは、トラベルボイスの府川尚弘シニア・メディア・ストラジストが務めた。

まず、府川モデレーターは、アジア太平洋地域が世界における最大の観光市場であり、観光地(目的地)になっていること、日本が主要な観光市場から旅の目的地に変化したことを説明。登壇者らに対して、日本やアジア太平洋地域へのFDIを呼び込む課題について聞いた。

日本でも多くのスタートアップを支援してきたPlug and Playのヴィンセント氏は「投資という観点から見ると、日本にはリスク回避的な側面があり、また独自の文化があるためビジネスをするのが難しいこともある」と指摘。関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港を運営する関西エアポートの新宮氏は、重要な課題として労働力不足と言葉の壁を挙げ、「空港としては日本政府と連携し、(外国人を含む)多くの労働者を誘致するために賃金や勤務場所などでより良い労働条件を提供している」と話した。

日本ハイアットの坂村氏は「オーバーツーリズムが地域社会に及ぼす悪影響が観光産業の成長を妨げる」との見解とともに、政府と民間が協力して対処する必要性があるとした。タイで経営難のホテルへの投資事業をおこなうDCのカプラン氏は、日本が世界の他市場と比べて資本コストが低いものの、ここ2、3年で宿泊料金が高騰するなど需要が急増していることを指摘。JTBの山北氏は、日本で投資を促進するためにはコミュニケーションが重要であることを強調した。

パネルディスカッションの登壇者。(左から)トラベルボイスの府川尚弘モデレーター、JTBの山北栄二郎氏、Destination Capitalのジェームズ・カプラン氏、関西エアポートの新宮早人氏、日本ハイアットの坂村政彦氏、Plug and Playのフィリップ・ヴィンセント氏

投資機会の増加へ、求められる交通の利便性向上

日本や地域における観光投資の機会については、JTB山北氏が2025年夏の新テーマパーク開業を控えた沖縄を取り上げ、日本の地域に潜在する可能性を示唆。沖縄本島内の交通の利便性を高めれば、観光客の滞在期間が伸び、大きな投資機会が生まれるとした。関西エアポートの新宮氏も、各地の空港から地域へのアクセスを改善する必要性を指摘した。

Plug and Playヴィンセント氏は、政府の後押しもあり、日本でスタートアップが活動しやすくなっている現状を説明。「製造業やロボット、ヘルスケア、製薬、ディープテックなど多くの分野で世界をリードしている日本は、多くの起業家を引き付けている」と話した。

日本ハイアットの坂村氏は、日本独自の文化や伝統を生かして観光投資の誘致を進めることを提案。また、DCのカプラン氏は、気候変動テクノロジーやスロー・ツーリズムが重要になるとし、「コロナ禍を経て、世界では子どもと両親、祖父母が一緒に休暇を過ごす傾向が出てきた。日本は多世代の旅行先として幅広い体験を提供できるのではないか」と提案。ミレニアル世代やZ世代向けのコンテンツを開発する必要性も指摘した。

日本への観光投資の将来性に期待する意見も出た。「日本には、急成長を遂げる可能性が高い分野がある。日本をより魅力的で収益性の高い地域にするための課題を解決していくことにわくわくしている」と日本ハイアットの坂村氏。Plug and Playヴィンセント氏は「国内外で不確実性や不安定性が高まっているが、さまざまな分野の人々が協力すれば、これまで見られなかったようなイノベーションを起こせる」と呼びかけた。

最後に、府川モデレーターは「政府や自治体、企業、地域社会がより良い協力関係を築くことが、多くの投資や利益につながる」とまとめた。

このほか、フォーラムでは、地域と連携しながら古民家などの再生による観光開発を進めるKiraku(日本)やバヌアツのボルケーノ・ラン・プロジェクト、中国のホテルグループDossenの取り組みも紹介された。

フォーラムでは日本やバヌアツ、中国における事例も紹介された

万博会場内の国連パビリオン外観

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