「海外旅行動向シンポジウム」  海外旅行市場は不透明、回復への道筋見えず

公益財団法人 日本交通公社(JTBF)は、このほど「第18回海外旅行動向シンポジウム」を開催した。シンポジウムでは、同財団の主任研究員である黒須宏志氏が2012年後半から急減速した海外旅行市場の振り返りから今後の見通しまでを発表。その内容からは今年の海外旅行市場の不透明感が浮き彫りになった。

2012年9月以降、日本人の海外旅行市場は中国、韓国方面が激減、その影響は今も継続しており、昨年末のJTBF予測よりも長引いている。同時に、JTBFは2013年の日本人出国者数を前年比約2.7%増の1900万人と予測していたが、今回のシンポジウムでは修正値や予測は発表されなかった。


【2012年の振り返り】

▼「旅行意欲の高まり」で出国者が過去最高に

2012年、日本人出国者数が過去最高の約1846万人となった背景について、黒須氏は要因を以下のようにまとめた。
  • 震災以降の旅行全般に対する意欲の高まり
  • 近年、毎年旅行をしている人々を中心に旅行頻度が上昇
  • 羽田国際化による供給量拡大効果が続く
  • 訪日旅行者の需要が弱く、日本人出国者の航空座席がとりやすかった

この要因のなかで、同氏は過去最高の出国者にまで至った最大の理由を旅行者の「意欲の高まり」だったと指摘している。これは、震災後のマインドの変化に後押しされつつ、2010年を境に長期的生活防衛傾向が転換期に来ていたためと分析。その根拠として、余暇支出の増加した人の割合が上昇していること(レジジャー白書)、「今後の生活の力点」でレジャー、住生活、食生活の3項目が2年連続で上昇していること(内閣府の世論調査)をあげた。

また、意欲の高まりに伴って以下の傾向も見られた。

  • これまで旅行への支出を控えてきた収入階層の低い旅行者が増えた
  • オンライン予約が増加し、エアラインサイトなどでは直近予約に伸び
  • 2012年9月以降、中国、韓国方面が大幅減となる一方、方面が伸びた

こうした複合的要素から、2012年については過去最高といえる日本人出国者数となったとしている。


【2013年の現状】

▼中国、韓国方面の不調 -2013年は他方面でも伸びが鈍化

2012年9月以降、日本人の海外旅行市場では中国、韓国方面への旅行者が減少し続けている。そして、今に至っても回復の兆しが見えない状況だ。日本人の渡航先別のシェアを見たとき、2012年実績で中国と韓国あわせて約4割を占めており、回復の遅れが与えている影響は大きい。

2012年は中国、韓国方面の減少を他方面の伸びが全体数をカバー、過去最高の渡航者数までいたったが、2013年1月以降はその他方面の伸びが小さい。その他方面が中国、韓国方面の減少をカバーしきれなくなっており、海外旅行市場全体が低迷している格好だ。


▼前世代の出国率低下、特にシニア大幅減 -円安が影響?

性・年代別にみた対前年同期の出国率について、2012年9月~12月と2013年1~4月を比較すると面白い傾向が見える。これは、全年代の出国率が減少、特にシニアのマイナス幅が大きいという特徴だ。黒須氏は、これを「CRISIS(危機)が発生した時の現象とよく似ている」と分析している。

また、出国率の低下の要因を探るために為替に注目。円/ドル、ウォンの両レートが円安になっていく推移と日本人海外旅行者(または訪韓旅行者)が減少していく推移を比較すると、ふたつは同じカーブを見せている。同氏は、「過去に円安で長期的に渡航者が減少した傾向はないが、現在は起きているのはないか」という考えだ。


▼航空座席増加による回復は? -増加の見込みなし

黒須氏が示したOAGデータによると、2013年1~6月の供給見通しは前年比で1、7%増。座席需給のバランスは安定しているといえ、2013年後半も供給量は増えそうにない。座席の利用は、震災後の2011年後半から2012年初頭まではアウトバウンドが埋めてきたが、2013年は訪日客の増加で逆転の構図を見せている。

座席の増加は、羽田空港の拡張時にも示された通り需要の取り込みに影響してきたが、2013年中は座席増加による日本人旅行者の増加は見込めないだろう。


▼地域別の傾向 -地方空港発の市場が縮小

成田空港、羽田空港、関西国際空港、中部国際空港を主要4空港と位置付け、他の地方を主要4空港以外としたとき、後者に大きな変化が起きている。法務省の出入国管理統計によると地方空港発(主要4空港以外発)の出国者が大幅に落込みをみせている。この傾向について、黒須氏は関係者からの伝聞から「地方空港の座席減で出国者が減少しているわけでない」と分析している。

また、地域別にみたとき、首都圏、関西、名古屋の3大都市圏外の居住者の出国者も同様に大幅に落ち込んでいる。全世代でマイナスだが、特に落ち込みが大きいのが女性だ。2013年3~4月は年代別にみると30歳以降はすべて15%減、特に50歳以降は20%を超えるマイナスとなっている。三大都市もマイナスの傾向だが、30歳代が約10%減、50歳代以降は約10~15%マイナスで三大都市以外の地域とは大きな差だ。


【今後の見通し】

▼旅行市場全般は堅調、海外旅行の動きは鈍化

2012年の振り返りと2013年の現状を踏まえ、黒須氏は今後の見通しについて「旅行市場の基調トレンドは引き続き堅調であろう」とまとめた。その理由として、国内旅行は景況感の改善やJATA調査で旅行意欲などが上向いていることなどをあげた。

一方、海外旅行についての減速、減少は基本的に外的要因による一過性のものだとし、同氏は「失われた10年とは違う」として回復を予測。「9月以降は、昨年の反動でプラスに転じるものの、高経験層が中心に戻ることになり、動きは鈍くなる」と結論づけた。なお、ここでは例年示される具体的な回復のタイミングや出国者数予測などは発表されず、分析のしづらさが感じられる締めくくりとなった。

また、黒須氏は回復時には航空仕入の環境が厳しくなるだろうと指摘している。これは、日本発着席数が年内は増加する見込みがなく、OAGデータによると大きなキャパシティ増加がみられるのはハワイぐらいだからだ。

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