沖縄の事例に学ぶ「文化観光」、固有の文化力で27のモデルを開発

千葉千枝子の観光ビジネス解説(10)

文化観光をつむぐ沖縄 伝統芸能で感動体験の担い手づくりを


 

*画像は国立劇場おきなわで開催された沖縄県文化観光事業「もっと!おきなわ」(2013年1月5日撮影)


▼沖縄感動体験プログラム

固有の文化がもつ磁力を最大限に活用

沖縄県では2013年から、沖縄観光の持続的発展を目的とした「沖縄感動体験プログラム」の創出に力を注いでいる。昼夜・天候・季節に左右されない体験交流や演出の新たなプログラムで、閑散期の底上げと平準化、滞在日数、一人当たりの観光消費額の延伸・増進、ひいては雇用の安定や地域経済の活性化をはかろうとするものだ。


39モデルにまで絞られた沖縄感動体験プログラム(沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課発行)検討委員会によって27の重点モデルが選定された

プログラムは、沖縄固有の文化をモチーフにしたコンテンツのほか、スポーツや自然資源、人的交流や食といったカテゴリーで、約50のモデル案が初期段階に掲げられ、さらに重点モデルを27にまで絞り込んで、それぞれ開発がなされた。

かつて明治政府に併合されるまで、沖縄は琉球王国として独自の文化を築いてきた。それは中国が明または清の時代、冊封の使節団をもてなすために、組踊(くみおどり)といわれる舞踊や宮廷料理が編み出され、沖縄固有の文化となって今に伝わる。

これら沖縄の固有の文化がもつ磁力は、他に類がない強さをもつ。沖縄感動体験プログラムにも、組踊のルーツをさぐるツアーや聖地めぐりなどが盛り込まれた。琉球王国のなりたちや歴史上の人物・尚巴志(しょう・はし)に光をあてて、わかりやすく説明するプログラムもある。これらが相互に作用して、さらなる感動体験を生むことだろう。



▼文化観光を醸成させる沖縄

若手後進の育成で世界遺産・組踊の継承をはかる

2010年、ユネスコの世界無形文化遺産に登録された組踊を、人間国宝のもと技能継承する「子の会(しーのかい)」は、沖縄文化の継承をはかる若手集団の一つである。子の会とは、国立劇場おきなわ組踊研修(財団法人国立劇場おきなわ運営財団が主宰する立方・地方の養成講座)の修了生からなる会で、演出家の育成の場にもなっている。

ちなみに「国立劇場おきなわ」(浦添市)は日本で5番目、2004年に誕生した国立劇場で、国立劇場おきなわ組踊研修1期生の研修終了が2008年と、いずれもまだ若い。


琉球武家屋敷のオープンセットを活かした「体験王国むら咲むら」にある野外ステージ「クルル奏劇場」。昔ながらに組踊の庭先観賞ができる。

昔ながらに野外で、琉球の風に吹かれて組踊鑑賞ができるのは、読谷村の「体験王国むら咲むら」にあるククル奏(かなで)劇場だ。今から約20年前のNHK大河ドラマで使用されたオープンセットをそのままに、体験交流型の観光施設として再出発した。やはりここでも若い演出家が起用され、工夫をこらして、わかりやすい舞踊を聴衆に披露する。

若い目線で演出がなされたこれら組踊は、現代風にアレンジされ、標準語のテロップが流れるなど、本土からの観光客はもとより外国人旅行者にも理解がしやすいよう対応がなされている。とはいえ、演出家たちは公募選抜されて、厳しい修行を経た者たちばかり。組踊の創始者とされる玉城朝薫(たまぐすく・ちょうくん)の精神は忘れずに、新たなチャレンジで文化の継承をはかる。


若さゆえなのか、地元を愛してからこそか、彼らは失敗を恐れてはいない。


▼自立型経済の構築に

沖縄県文化観光スポーツ部の創設と文化観光の推進

沖縄県の観光政策の一つに文化観光が掲げられたのは、2012年のことである。

これまで、単なる“保存”の観点にあった文化芸能を、継承、さらには発展にまで導く仕組みづくりを構築、さらに文化芸能を観光価値化して、観光資源として広く活用させることなどが、第5次沖縄県観光振興基本計画に盛り込まれた。


一般市民にもわかりやすいサイトで紹介されている

この年、発表された沖縄振興計画「沖縄21世紀ビジョン基本計画」では、自立型経済の構築に「世界水準の観光リゾート地形成」が掲げられ、入域観光者倍増が目標設定された。県庁内では、すでに組織の見直しがはかられ、文化観光スポーツ部が創設(2011年)された。文化財保護や学校体育をつかさどる県教育庁の一部、ならびにこれまでの観光商工や文化環境の一部の業務を集約して、文化観光の推進がはかられている。

文化観光の推進は、関連法や保全保護の観点から、自治体主導でないと立ちゆかないことが多い。また、時代に即応した組織改編が自治体の側にも求められており、いかに若い人材を取り込むかが持続可能の鍵を握る。その先駆に沖縄がある。


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