今井社長が明かすJTBのネット戦略、意外なモバイルの動き分析から店舗とのシームレス展開まで

ジェイティービー(JTB)でネット販売を担うi.JTBの2013年度の売上高は約1600億円となり、グループ172社のうち3番目の規模となった。オンライン専業旅行会社(OTA)に後塵を拝しているが、レガシーの最大手でもネット販売はここまでの地位を占めている。そのJTBがモバイル化と、長年の課題だった店頭との競合で新展開を始める。「モバイル&ソーシャルWEEK」でiJTB代表取締役社長の今井敏行氏が語った現状と今後の方針をまとめた。多くの数字を公開し、販売状況を明かしている。

▼スマホ経由のユーザーは約3割

意外なモバイルの動き「ツアーや海外旅行のほうがスマホ率が高い」

“JTBのウェブ支店”であるJTBホームページの年間ユニークユーザー数は、全デバイスの合計で1億5000万UU(JTBの年間UUは日ごとの合算)。このうち、スマートフォン経由は全体の5000万UUで、全体の33%を占める。ただし、国内宿泊に限ると1100万UUで、全デバイス合計(4100万UU)の27%となり、スマートフォン率は低下する。

国内宿泊予約の場貸しサイトである「るるぶトラベル」も、同様の傾向だ。全デバイス合計は8500万UUだが、スマートフォン経由は2200万UUで全体の26%。これはJTBホームページの国内宿泊のスマートフォン率とほぼ同じ数字だ。

今井氏は、「宿泊などの単品販売の方がスマートフォンで利用する方が多いと思われているが、むしろルックなどのツアーや海外旅行の方が、スマホ率が高い」と指摘。その理由を「国内宿泊は個人旅行よりもビジネス需要が多く、会社でPCで予約する方が多いのではないか。また、個人旅行は行きつけが決まっていて、スマホ特有の“ながら検索”も少ないとも考えられる」と見る。

実際の申込み(成約率)では、スマートフォンはさらに縮小する。2014年第1位半期の成約率を見ると、スマートフォンは18%で、以前としてPCが79.4%とほぼ8割を占めた。ただし、2012年同期(3.6%)からは5倍に拡大しており、6月だけでも2013年比で伸び率は倍増。「やっと旅行業界にもスマホの波が来た」とモバイルの進捗状況を評する。


▼モバイルはブランディングに期待

旅に関わるすべての時間でJTBに触れるアプリも

iJTB代表取締役社長の今井敏行氏

販売促進では、経常利益10億円、人件費25億円(2013年度)のi.JTBにおいて、宣伝費に80億円を割いている。このうち、ポイント引当金やテレビCM等を除いたウェブに関する費用は約40億円。その75%がSEMのリスティング広告、残りがディスプレイ用の広告宣伝費だ。リスティングではシステムの高度化で費用対効果が高まっているという。

ただし、スマートフォンはPCと異なり、費用対効果が悪くなる傾向がある。24時間アクセスできることがその理由だが、今井氏は「ブランディングには最適。費用対効果も大切だが、ファンを作ることは極めて重要」と今後の方向性を提示。SNSでのブランディングを強化するJALが、Facebookで100万人ファンを作り、エンゲージメント率1%を達成した例を引き合いに、スマートフォンと親和性の高いSNSでの活用が、効果的な販促の手段になるとの認識を示した。

ちなみにJTBホームページのエンゲージメント率は、facebookファン数16万人に対し0.5%、るるぶトラベルは3万5000人で1.2%。今井氏によると通常、10万人を超えると0.1~0.3%になるといわれているという。

また、スマートフォンを使用し、旅に関わるすべての時間でJTBと消費者との接点の増加にも取り組む。そこで生み出したのがスマートフォンアプリ「ポケたび」だ。旅行の前後の時間を含む「トラベルサイクル」ごとに、計画段階の「タビマエ」ではるるぶガイドブックとリンクした旅程表作りや、旅行中の「タビナカ」では位置情報と連動した情報発信、帰宅後の「タビアト」では写真を埋め込んだ旅程表のシェアなどを可能とする。

▼ネットとリアルの「壁」は

リアルへの帰属の大決断で決着か

レガシーの旅行会社がネット販売に取り組むとき、店頭販売との兼ね合いが障壁となっていた。この課題解決のため今井氏は、店舗の来店客最終的にネット決済で申し込みをしても、販売実績は店頭に帰属するという「大きな決断」をし、JTBグループとしてEC販売戦略を一歩前進させる検討を始めたことを明かした。

今井氏によるとすでに、同一客が店頭とネットを使い分けたり、店舗で説明を聞いてネットで予約する、もしくはその逆のパターンなども多い。同一客を店頭とネットで取り合いをしていたのだが、実際の予約行動にあわせて「お客様の目線に合わせたシステムを構築する」。そのためにオムニチャネル化を推進する考えだ。

具体的には、2015年5月をめどにネット販売と店舗販売の各会員機能を一本化。「店頭で相談した旅行をネット上の『カート』に取り置きし、帰宅後に家族と相談後にそのままシームレスで申し込める。また、自宅で家族と検討した旅行をネット上に取り置きし、店頭で詳細な説明を聞いた上で申し込むこともできる」という想定だ。スマートフォンがあれば、自身の画面を見せるとよりスムーズに話を進めることができるとする。

JTBでは日本人の個人旅行需要を国内・海外あわせて1兆円市場として取り扱っており、現在はその14~15%がネット販売にとって代わった。販売実績を店頭に帰属させるオムニチャネル化が実現すれば、従来はネット決済でi.JTBに入っていた売上分が減少することになる。

ただし、i.JTBでは2015年度は2300億円、2020年度には従来の倍以上となる4000億円の取扱を目指している。JTBホームページやるるぶトラベルのほか、ヤフーとの合弁のたびゲーターや全国9万店のコンビニに置く専用端末、日販2000万~3000万円というJALやdトラベルなどとの提携サイトの収入もあるが、今後はインバウンドの取組みも開始する予定だという。

(トラベルボイス編集部)

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