外国人のおもてなしに語学力は必要? コミュニケーションの本質を考えてみた

はじめまして。大庭パスカルです。

2020年の東京オリンピック開催が決まったことを機に、日本は国際化に向けてどんどん発展しています。この連載では、日本人の父とベルギー人の母の間に生まれ、世界中の都市と日本を往復する生活をしてきた私の経験から、「外国人目線でみた日本」を私なりの視線で解説します。日本の国際化とともに、旅行・観光ビジネスのヒントになれば幸いです。

さて、外国人をお迎えする機会が増え、旅行ビジネスで活躍する皆さん、準備は整っていますか?

2014年訪日観光者数が1300万人を超え、街中でも外国人観光客の姿が目立ってきましたし、海外に住む外国人の数も増えるなど諸外国との交流が活発になっています。私は、日本在住の外国人と一緒に定期的に国際交流イベントを開催する仕事をしていますが、いろいろなシチュエーションで世代を問わず外国に関心のある方が、増え続けていることを実感しています。

でも・・・!

その一方でとても残念な事があります。それは、「語学が苦手」が理由で、外国人との交流や旅行ビジネスで外国人受入れをためらってしまうという人がとても多いということです。

コミュニケーションを図る上である程度語学力があった方が便利です。でも、それは二の次三の次の能力です。外国人とのコミュニケーションの第一段階に語学能力は必要はありません。

「え?会話ができなくてどうやってコミュニケーションを図るの?」と皆さん驚かれるのですが、極端な例でいえば、相手の言葉で「こんにちは」「ありがとう」「さようなら」の3つ覚えるだけで十分にコミュニケーションは図れます。

外国人をお迎えするとき、まずは「こんにちは」、何かをしてもらったら「ありがとう」、そして帰るときには「さようなら」。これを言うだけで、相手の対応は俄然違ってきます。「なんだ、そんなことか」とみなさんおっしゃるかもしれませんが、実は日本人のみなさん、それができていないことが多いのです。その理由は、日本人が無愛想だからというわけではありません。

日本では、お客様がお店に入ると「いらっしゃいませ」と言いますね。お客様は、それに返事をする必要はありません。サービスをする店員から「ありがとうございます」と言われたとしても、お客側が「ありがとう」と言うことも少ないでしょう。日本の習慣としては当たり前のことです。

一方、たとえばヨーロッパのスーパーマーケットでお買い物をする場合でも、レジのおばさんと「こんにちは」とお互いに挨拶をかわしますし、会計が終わったら「ありがとう」、そして立ち去るときには「さようなら、よい一日を」とコミュニケーションを取ることが当たり前になります。

日本人が海外に行くときに、日本で身についた習慣のまま、店員が声をかけてきてもらうと思ってしまうから、じっと待ってしまう。いつまでたっても店員が来てくれない事に不安になったり「海外のお店は、愛想が悪い」なんて間違った印象を受けるのです。相手との習慣の違いを知っていたら、その旅の思い出は大きく違っていたでしょう。

では、旅行ビジネスではどうでしょう。3つの言葉だけでは、難しいかもしれませんが、基本的な英単語だけの会話でも十分おもてなしは可能です。外国人に人気の東京・根津の「澤の屋旅館」の澤氏が、こんなお話をしている記事があります。

流暢な言語よりも、英単語だけの会話であっても「歓迎の心」で要望に対応することで「心が通じる」という内容が書かれています。「歓迎したい」という気持ちが言葉の壁を乗り越える強力な武器となって、澤の屋旅館では連日海外からの多くのお客様を迎えていらっしゃいます。

私の知人に英語がほとんどできなかったけれど、あの海外の企業と取引したい!!という強い意欲と熱意で渡欧し、見事に契約を取り付けた人がいます。ビジネスの上で最も大事なことは、自分が何をしたいのか、何をしてあげたいのか、その気持ちをはっきり持っているかどうかが、とても重要だということを教えてくれた方です。

外国人観光客の誘致をお手伝いする仕事も手掛けているのですが、外国人観光客を積極的に受け入れるために、まずは英語教育、あるいは、案内などを英語版にしたりすることから始めようとしがちです。もちろん、いずれ必要になってくるでしょう。でも、最初の第一歩は、自信をもって笑顔であいさつを交わす事なのです。

最初は少し恥ずかしいかもしれません。でも、勇気を出して相手の顔を見て声をかけてみてください。気持ちのいい挨拶をされて悪い印象を受ける人はいません。かならず、素敵なコミュニケーションを体験できます。

それを何度も経験していくうちに、一つ二つと新しい言葉を使いたくなります。「言葉を話したい」という気持ちが生まれてからが、語学を学ぶチャンスです。不思議なぐらいに身に着くことに驚かれるでしょう。またコミュニケーションが生まれると、お客様の望まれている事が具体的にわかってきます。その時になってから、そのニーズにどう対応すればいいのか、対策を練ればいいのです。

「英語が苦手」という皆様、言葉なんてまずは忘れて、笑顔で挨拶する練習をしてみてください。コミュニケーションに高い語学能力が必要ないということを必ず実感できるはずです。

大庭パスカル(おおば ぱすかる)

大庭パスカル(おおば ぱすかる)

サンディス代表。日本人の父とベルギー人の母の間に生まれ、国内外の経験を活かしてテレビコメンテーターなどで活躍中。幼少期から高校生までは、外交官の父とともに、日本と海外を往復する生活を経て、日本の大学を卒業。その後は法律事務所、マーケティング会社勤務に勤務し、30歳でフランス語通訳として独立。2014年日本の国際化を支えるイベント・コンサルティング会社 (株)サンディス代表取締役に就任。

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