観光地を復活させるICT活用、三重県・伊勢市のキャンペーン事例を聞いてきた

伊勢神宮を擁する三重県・伊勢市は、古くからお伊勢参りで全国の人々が訪れる日本でも知名度の高い観光地だ。しかし、時代の流れとともに課題を有しており、リクルートライフスタイルのじゃらんリサーチセンターによる、若者をターゲットにしたICT活用の「初TABI in 伊勢」キャンペーンを実施した。

今回は、先ごろ開催されたじゃらんリサーチセンターと政策分析ネットワークによるシンポジウム「地方創生×若者(誘客&消費)×ICT」で発表された同事業の効果について、リクルート側、伊勢市側双方の担当者のコメントをまとめた。


ICTで地域課題を徹底的に可視化

リクルートライフスタイルの木島達也

リクルートライフスタイルの担当者であるじゃらんリサーチセンター地方創生プロジェクトリーダーの木島達也氏は、ICTを活用する理由を「地域の状態について、経験値で語られることが多いが、そこにメスを入れた。徹底的にデータで可視化し、現状をつまびらかにした」と説明する。

伊勢神宮の参拝者数は式年遷宮の2013年こそ1420万人となったが、それ以前は「年間600万人~800万人の推移」(伊勢市参事・須崎充博氏)で、2013年以降減少している。観光地としては「伊勢志摩エリア」で知られ、エリア全体の宿泊施設は約1000軒あるが、伊勢市に限ると50軒ほどと少ない。市内での消費機会が少ないのが現状だ。

また、修学旅行者数は約80万人だったピーク時の約5分の1にまで減少。聞き取り調査で、来訪者の大半が40歳以降で「学生時代に修学旅行で訪れたことがあり、懐かしくなって来た」ことが多いことが判明した。「裏を返すと修学旅行が来なくなればリピーター客も来なくなる」と、木島氏は若者の継続的な誘客の重要性を指摘する。

これら自治体が有するデータに加え、事業では地域内の協会や商店街、商工会などの各組織の課題の違いをみる「地域力診断調査」や、旅行者の滞在や周遊などの動きを知る「GPS動態調査」、認知度や興味から消費者のニーズを図る「GAP調査」を実施。これらのデータを可視化したところ、伊勢市には「市内泊は6人に1人」「周遊は神宮周辺のみ」「若者の来訪機会が減少」「豊富な食の魅力が埋もれている」などという課題が明らかになったという。


課題解決にもICTを活用

こうした課題を踏まえて実施したのは、“一気通貫”のキャンペーン。既存のプラットフォームを活用し、若者層の減少に対してはリクルートの若者層の行動支援「マジ部」、市内の宿泊率向上には「じゃらんnet」、市内での体験・消費の把握・誘発には、地域事業者の業務・集客支援「Airレジ」を利用。

「マジ☆部」では水族館の入館無料をはじめ市内100店舗での特典提供や、「じゃらんnet」では先着1000名に1組1万円宿泊クーポンなど、「思い切った特典にする」(木島氏)ことがポイント。その結果、市内宿泊は前年比84.4%増で約2倍、利用者の9割が新規客という需要創出につながった。

また、「マジ☆部」や「Airレジ」では市内に入るとポイントを付与するため、利用店舗のピーアールだけではなく、利用動向の把握が可能。「じゃらんnet」では年齢やグループサイズなどの属性や価格帯なども把握することができる。

こうした行動の可視化によって、若者にアピールできる新たなエリアとして、商人の街として雰囲気のある「河崎」や縁結びで有名な「二見」のポテンシャルを見出し、ピーアールを実施。これにより、「河崎」には以前の30倍、「二見」には6.8倍もの人が訪れたという。

このほかデータでは、若者が安宿のみならず、ハイクラスの宿泊施設や高単価のプランを利用していることも判明。ICTによってデータが可視化されたことで日々の改善が可能となり、迅速なPDCAサイクルができるようになった。じゃらんリサーチセンターでは今回のキャンペーンで、実際の経済消費額と再来訪の見込み客による消費額予想、広告換算価値をあわせ、2億6490万円の経済効果になると推計している。


“アナログな街”でICTを活用するポイント

伊勢市の須崎充博氏

以上の結果は、地域の観光事業者がICTの活用に賛同し、事業に参画したからこそ実現できたこと。実は須崎氏は「伊勢市は経営者が高齢化していて後継者不足。廃業旅館も多く、アナログな街」とし、ICTを高齢の経営者に理解してもらうことに力を入れたと明かす。

実際に「マジ部」や「Airレジ」を導入したのは約130店舗に及んだが、「当初はなかなか理解されず、説明するマンパワーも不足」(須崎氏)で困っていたという。

それを覆した理由の一つが、ICTによるデータの可視化で、説得力が増したこと。さらに「これまでは経営者同士でもシニアと若者で2分されていたが、今回のキャンペーンを機に若い経営者が高齢の経営者にやり方を伝えるなど、交流が生まれた」(須崎氏)という意外な効果もあったという。

ただし、参加店舗すべてで効果を享受できたわけではない。木島氏によると、同じ業態でも売上が10倍以上も違う結果になった。これについて木島氏は、「活用の仕方、旅行者との接点の取り方で大きな差がでた」と説明。ただ導入するだけではなく、サイトをわかりやすく作り直してキャンペーンをしたり、店頭でも積極的に呼び込みをした店舗の方が盛況だったようだ。

須崎氏は最後に、「以前の観光は『伊勢はいいところだよ』と、観光地側からの発信だった。しかし今はSNSで『伊勢は良かったよ』と訪問者側からの発信に変わりつつある」と述べ、「だからこそ地域づくりが大切」と主張。そのためには「地域に関わる行政マンがしっかり観光マネジメントをしていかなくてはいけない」と、強い意志で突き進む重要性を強調した。


取材:山田紀子

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